損金算入期間の2年延長と20%上限設定の意義(H22.12.28)

―来年度法人税改正の見落とされたポイント―

【法人税の実質軽減額7千億円程度というマスコミ試算は過少評価】
 来年度の税制改正大網が決まり、法人税の実効税率が5%引き下げされることになった。来年度の法人税改正については、実効税率5%引き下げの財源をどこに求めるかを巡って、11月から政府と経済界が激しい駆け引きを繰り返し、一時は財源難から引き下げ幅を3%に縮小する話まで飛び出した(このHPの<論文・講演>「新聞」“法人税を減税し法人税収を増やす方法がある”『世界日報』(H22.12.8日号)参照)。
 しかし、最終的には5%引き下げが確定し、1兆5千億円の法人税減税となったので、経済界はひとまず満足したようだ。政府と経済界の争点は、その財源をどこまで法人税の課税ベース拡大で賄うかにあったが、最終的な課税ベース拡大は加速度償却の縮小など国税分の法人税負担6500億円、地方税連動分1500億円程度、合計8千億円程度となり、差し引きした実質軽減額は7千億円程度だと『朝日新聞』(12月24日号)は報じている。
 しかし、五十嵐財務副大臣が言うように、「効果の薄い租税特別措置をやめて、税率をあまねく引き下げた方が成長と雇用を促進する効果がある」というのは正論で、単純な差し引きで実質7千億円減税の効果しかないというマスコミの解説記事は、正確性を欠いている。

【損金算入期間の延長と上限設定で法人税負担は増えない】
 更に、マスコミの解説記事には、無理解によると思われる誤りがある。それは、繰り越し欠損金の算入限度額を2割削減し(繰り越し欠損金の算入は益金の8割までで残る2割の益金については法人税を支払う)、算入期間は現行の7年から9年に延長する改正について、2千億円の法人税負担の増加が起きるとしている点だ。
 損金算入に2割の上限が設けられたことにより、確かに来年度の法人税支払いは2千億円増えると試算されるが、その分は損金算入が可能な期間が2年延長されたことにより、将来法人税を納めなくて済む損金算入額が増えるのである。従って、9年間に延長された期間を通じてみれば、法人税負担は増えていない。正確にいうと、7年×100%と9年×80%を比較するのであるから、繰り越し欠損金の算入可能額は約3%(7.2÷7)増えるのであり、減税である。
 従って、来年度の法人税の実質軽減額は、7千億円程度というマスコミ試算に少なくとも2千億円を加えた9千億円程度である。

【昨年12月にスタートした損金算入の上限設定と期間延長の議論】
 来年度の法人税収を増やし、しかも長期的には法人税負担が減るという魔法のような手を、私は昨年12月に藤井財務大臣(当時)に提言し、藤井大臣は賛成したが、時間が足りなくて次年度回しとなった。
 そこで私は、後任の菅財務大臣(当時)と野田財務大臣(現在)に同じ事を提言し、両大臣とも賛成し副大臣(当時峰崎、現在五十嵐の両氏)に検討を命じ、主税局も動いて今回の案になったのである(このHPの<論文・講演>「経済人」“損金算入期間の延長と上限設定を”(H22.4.26)参照)
 当初の政府案では、繰越損金算入の上限が50%と報じられていたので、私は増税にならないために算入期間は14年以上にせよ、と主張した(同じく“損金繰越期間を14年以上に”(H22.11.29)参照)。
 実際、日本の繰越期間7年は国際的に見て極めて短く、ヨーロッパ主要国は無期限、米国は20年、アジアでは香港、シンガポールが無期限、韓国、台湾でさえ10年である。

【この改正を企業が大歓迎する二つの理由】
 マスコミは全く報じていないが、今回の上限20%、期間2年延長を多くの企業が喜んでいる。
 第一に、この改正は2008年4月以降に終わる決算から適用されるので、同年秋以降のリーマン・ショックで大きな損金を計上し、7年間の損金算入では消せないと心配していた企業が、3%とは言え、損金算入可能額が拡大したことを歓迎している。
 第二に、当初の投資額が大きく、赤字から黒字に転換する期間の長い業種、例えば新エネルギー、次世代交通・通信・配電、環境、バイオ、農工商一体型大型農業、医療機械、介護ロボットなどにとっては、3%の損金繰越可能額の拡大は、投資意欲にプラスになる。

【成長戦略産業を育てるために更に損金算入期間延長を】
 これらの業種は、いずれもこれからの日本経済を支える成長戦略産業である。
 この点を考えると、来年度の20%上限・2年延長は、ほんの第一歩に過ぎないと言えよう。再来年度以降の税制改正でも取り上げて、各国並みの期間に延長しなければならない。そうしないと、上記の成長戦略産業が諸外国に比し日本国内で発展しにくくなるであろう。
 将来の日本経済発展の夢を語る時、来年度税制改正に顔を出したこの小さな芽を見落とすことなく、前向きに育てる議論を広げていくべきである。