損金算入期間の延長と上限設定を (『金融財政ビジネス』2010.4.26号)

  鳩山内閣の10年度予算は企業に対する配慮があまりみられない。「国民生活から内需を立て直す」というマニフェストの基本に沿って取り敢えず3か月間で編成したからであろう。
  しかし、次の11年度予算の編成までには、8か月の余裕がる。企業に対する配慮を含め、じっくりと成長戦略を練り、それに基づく政策を決め、それを11年度予算に組み込まなければならない。
  途中で補正予算を組み、景気を刺激する必要はない。10年度上期二番底の懸念は消え、アジア向け輸出の急増に、家計消費の底固い増加と設備投資・住宅投資の回復も加わって、10年度は政府見通し1・4%を上回る成長、5・3%を下回る失業率が実現しよう。
  これまで政府や民主党の要人が述べてきたことを整理してみると、新政権の成長戦略は三本の柱から成っているようにみえる。@は国民のライフステージごとの機会均等と安全ネットの確立である。これは既に10年度予算で着手されている。Aは低炭素社会の実現計画、Bはアジアの内需を取り込む計画である。「温暖化ガス削減への行程表」「電気自動車普及計画」「太陽光発電普及計画」「原発増設計画」「スマートグリッドの建設支援」「原発・鉄道・水道などのインフラ輸出官民一体計画」などAとBに沿った多くの計画が現在政府内で検討中と伝えられる。
  法人税の改革も、ただ税率を下げればよいという単純な発想ではなく、成長戦略の枠内で多角的に考えるべきである。既に検討されているように、歴史的役割を終え、効果も疑わしい租税特別措置を廃止し、課税ベースを拡げるべきだ。これによって数%の法人税減税財源は出るが、狙いはそのことよりも、公正で簡素な法人税制によって効率的な企業経営を支援することにある。
  成長戦略の観点から大切なことは、欠損金繰り越し制度の改革である。現在日本では、7年間に限り、欠損金を翌期以降に繰り越し、利益金から控除して、残りの利益金の法人税を収めることができる。この制度は各国に在るが、英国、ドイツ、フランス、シンガポール、香港など欧州、ないしは欧州の植民地であった国では損金算入期間は無期限、米国は20年、台湾や韓国でさえ10年であり、日本の7年は極めて短い。
  前記の成長戦略のAとBに係わる諸投資は、初期投資の額が大きく、黒字転換まで時間が掛るが、長期間稼働する設備が多い。また長期間稼働する設備は、景気変動で期間損益が振れるリスクを伴う。これらの投資は、損金算入期間の延期によって、明らかに投資意欲が強まるであろう。更に、世界同時不況によって思わぬ損失を抱えたり、思い切ってリストラを実行した企業は、損金算入期間の延期で救われ、新たな前向き投資に踏み出せるだろう。
  このような事情を背景に、日本経団連、在日米国商工会議所、欧州ビジネス協会は09年7月に共同で欠損金の繰越期間延長を政府に求めたが、受け入れられなかった。ただでさえ足りない財源が、長期にわたる損金算入で法人税収が落ち込み、一層深刻になるのを恐れたのであろう。
  しかし、ドイツが03年に導入したように、損金算入は利益金の60%までと上限を設定するならば、算入期間を延長しても法人税収の急激な落ち込みは避けられる。むしろ11年度の法人税収は1兆円強増え、当面の財源不足を補うだろう。全体として増税にならないように、例えば60%の上限で期間は15年以上とするのがよい。これは@利益の出た企業に社会的責任を果たさせ、A法人税収を前倒し的に平準化し、B投資を促進する。現行7年の帳簿保存期間はそのままとし、8年以上の損金繰り越しを求める企業だけに帳簿(電子化を含む)の保存義務延期を求めれば、一般企業の負担は増えなくてすむ。