今後は設備投資と輸出が鈍化し家計消費が成長の鍵を握る
―06年10〜12月期と06暦年のGDP発表を受けて―(H19.2.15)
【10〜12月期は高成長の中で名実逆転が直る】
本日(2/15)発表された06年10〜12月期の実質GDPは、前期比+1.2%(年率+4.8%)の増加と事前の市場予想(民間研究機関の予測平均、年率+3.9%)を大きく上回る成長率となった。
この結果、06暦年の実質成長率は+2.2%と前年(+1.9%)を上回り、2%弱と見られる潜在成長率をも上回った。GDPベースの需給ギャップは、06年中、僅かに好転したと見られる。
これを反映して、GDPデフレーターの前年同期比下落率も06年中にジリジリ縮小し、05年10〜12月期の−1.6%の下落から06年10〜12月期は−0.5%の下落に縮まった。GDPを季節調整済み前期比で見ると、06年10〜12月期は名目(年率)+5.0%の成長となり、実質(同)+4.8%の成長を上回って名実逆転が直った。GDPデフレーターは、僅かながら上昇に転じたと見られる。
【十分に予想出来た消費急増でようやく追加利上げの実施か】
06年10〜12月期の高い成長は、十分に予想されたことである。7〜9月期に天候要因で一時的にマイナスとなった家計消費がその反動で大幅な増加となることが、家計統計などから分っていたからだ。このHPでも1/18付の<最新コメント>“追加利上げのチャンスは2月まで続く―2月を逃せば金融政策の大失態”、2/5付の<論文・講演>BANCO“追加利上げ見送りのコスト”、2/12付の<月例景気見通し>(2007年2月版)“10〜12月期急拡大のあと、1〜3月期は生産が足踏み、先行き設備投資の鈍化の兆し”などで指摘していた。
それにも拘らず、実際に10〜12月期のGDP統計が発表される迄は、消費の増加基調が確認出来ないとして1月の追加利上げを見送った日本銀行は、常々強調しているフォーワード・ルッキングな政策運営どころか、バックワード・ルッキングな政策運営ではないかという疑問にどう答えるのであろうか。
【基本的には輸出・投資主導型成長で家計消費の基調は弱い】
10〜12月期の+1.2%成長の中身を需要項目別に寄与度で見ると、半分の+0.6%は家計消費の増加によるものである。しかし、これは前期の7〜9月期に同じ率(1.1%)でマイナスになったことの反動であるから、7〜9月期と10〜12月期をならしてみると、家計消費の成長寄与度はゼロである。
成長を持続的にリードしているのは、やはり設備投資と純輸出の二つだ。設備投資の前期比は、7〜9月期+0.8%、10〜12月期+2.2%(成長への寄与度+0.3%)、純輸出の前期比は、成長寄与度ベースで、7〜9月期+0.4%、10〜12月期+0.2%である。
このことから分るように、7〜9月期と10〜12月期をならしてみると、成長率は前期比+0.6%(年率+2.4%)程度であり、成長には設備投資と純輸出がほぼ半分ずつ(各+0.3%)寄与している。家計消費の寄与はゼロである。
10〜12月期のGDP統計を見て、家計消費が成長に積極的に寄与し始めたと考えるのは、早計である。
【06暦年は内需の寄与度が低下し外需主導が強まる】
06暦年の平均成長率を見ても、+2.2%と05年の+1.9%を上回ったが、その理由は設備投資と純輸出の伸びが高まったからであり、家計消費の増加率は落ちている。
家計消費が鈍化したため、国内需要の成長寄与度も、05年の+1.6%から06年は+1.4%に落ちた。06年に成長率が高まったのは、もっぱら純輸出の寄与度が05年の+0.3%から06年は+0.8%へ、大きく高まったためである。(下表参照)
【今年の成長持続は家計消費次第】
さて、今年2007年の経済成長はどうなるであろうか。
成長をリードしている設備投資と純輸出のうち、設備投資については、先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)に先行き鈍化の兆しが出ている(このHPの<月例景気見通し>2007年2月版、参照)。
純輸出については、これ以上の円安にはユーロ圏のみならず、米国からも批判が強まって来る恐れがあり、また今回の10〜12月期GDPの発表を受けて、遅ればせながら追加利上げが始るであろうから、円安の修正局面に入り、輸出の伸びは少し下がるのではないか。
このように設備投資と純輸出の伸び率鈍化が予想されるので、今年の成長を大きく左右するのは、家計消費の動向であろう。昨年の家計消費は04年、05年より伸びが下がったが(上記の表参照)、雇用者報酬は05年の前年比+0.9%から06年は+1.5%に伸び率が高まっている。春闘のベア率がやや高まり、夏期ボーナスが伸び率を高めると、所得面からは家計消費の下支えが強まる。
しかし、定率減税の打ち切りや社会保険料引上げなどの国民負担増加や、社会格差の影響などが、消費者の心理にどう響くか、更には天候要因もあり、本年の消費動向は予断を許さない。