追加利上げのチャンスは2月まで続く

2月を逃せば金融政策の大失態―H19.1.18

【2月に利上げか、夏以降への見送りか】
 日本銀行は、1月17、18日の政策委員会・政策決定会合で、政策誘導金利(無担保翌日物コールレート)の追加利上げを見送り、0.25%に据え置いた。
 しかしこれは、いま生まれている「追加利上げのチャンス」(このHPの<最新コメント>“日銀に追加利上げのチャンスあり”H19.1.14参照)を最終的に見送ったことを意味しない。次回2月20、21日の政策委員会・政策決定会合で追加利上げを決定すれば、いま生まれている「追加利上げのチャンス」の範囲内に何とか収まるからである
 問題は、2月までチャンスが続いている中で、1月ではなく、2月まで待ったことのメリット、デメリットであろう。
 他方、2月も追加利上げを見送ることになると、情勢は大きく変ってくる。国内の市場関係者や海外投資家が、日本銀行の独立性に大きな疑問を抱き始め、4月の統一地方選挙を控えていることもあり、追加利上げは7月の参院選後までないと判断するからである。この場合のデメリットは、後述するように非常に大きい。

【利上げのチャンスが生まれた四つの理由】
 いま生まれている「追加利上げのチャンス」とは、@7〜9月期にマイナスとなった家計消費は10〜12月期にはプラスに戻り、12月に追加利上げを見送った際の懸念材料が無くなったこと、A3か月金利の先物や長期国債市場利回りが上昇し始めるなど、市場が利上げを織り込み始め、追加利上げは市場に対するサプライズにはならないこと、Bこれ以上の円安の行き過ぎは、将来の急激な円高を招くリスクを高めるものとして、懸念され始めたこと、C政府は(自民党の中川幹事長は別)日銀の政策決定を尊重し、議決延期請求権を行使しない態度であること、などである。

【賛成6反対3の意味―日銀の全面的責任】
 今回1月の追加利上げ見送りは、2月中旬に公表される10〜12月期GDPで家計消費がプラスに戻り、成長率がやや高まることを確認し、国民や政府・与党などが@について十分納得するまで待とうという事であろう。
 しかし、今回の誘導金利据置きの決定は、9人の政策委員のうち、賛成6反対3で決った。と言うことは、日銀の総裁と2人の副総裁の票が割れたとは考えにくいし、日銀総裁の提案に日銀の3人だけが反対したというケースもあり得ないので、審議委員6人の票が3対3に割れ、日銀執行部3人の票によって金利据置きが決ったことになる。
 従って、日本銀行の執行部は、追加利上げ先延ばしによって生じるかも知れない事態に対して、全面的に責任を負ったことになる。この責任は重大だ。

【金融政策の運営はフォーワード・ルッキングな視野で】
 福井総裁も常々言っているように、金融政策はフォーワード・ルッキングな視野で決めなければならない。マクロ・モデルを使ってシミュレーションをすれば分るように、金融政策の効果は2年間にも及び、ピークは1年後に来る。従って、今後2年間を見据えて、早目早目の手を、小刻みに打つことが望ましいのである。
 企業の高収益が家計に回り、好循環が生まれて成長が持続することに確信があるならば、そのようなフォーワード・ルッキングな視野に立って、チャンスがあれば小刻みに追加利上げを実施すべきである。10〜12月期のGDPを待つのは、典型的なバックワード・ルッキングだ。
 特に心配なことは、ファンダメンタルズから離れた「円安バブル」が続き、最後にバブル崩壊で急激な円高が発生することだ。1か月の利上げ先送りで、このマグマを溜め込むことにならないことを祈っている。
 恐らく市場は、2月の追加利上げを決定的と見て行動するであろうから、これ以上の円安にブレーキが掛かることを期待したい。

【2月に追加利上げをしない場合の大きなリスク】
 しかし、もし2月にも追加利上げを実行しないとなると、内外の市場関係者は、日本銀行の独立性なしと判断するであろう。その結果、低利の円資金を調達して外貨に換え(ここで円安進行)、海外の高利の金融資産に投資し、あるいは海外では相対的に低利の融資を拡大する動きは、一層促進されるであろう。
 こうして世界中に過剰流動性をバラ撒きながら、ファンダメンタルズから乖離した「円安バブル」が進む。韓国の住宅ローン拡大による不動産バブルも続く。
 円安は日本の物価上昇要因であり、輸出増加要因であるから、名目成長率は高まる。短期的には安倍内閣の成長戦略に沿っている。
 しかし、長期的に見ると、円安行き過ぎに対する海外諸国からのクレームや、最終的な日本の再利上げなどを切っ掛けに「円安バブル」が崩壊した時、日本の成長路線を挫折させるような衝撃が発生するであろう。90年代末の不動産バブルの崩壊と、本質的には同じことが起きる。