2007年2月版

10〜12月期急拡大のあと、1〜3月期は生産が足踏み、先行き設備投資に鈍化の兆し

【10〜12月の家計消費はプラスに戻り追加利上げ見送りの根拠は消えた】
   1月17、18日の政策委員会・政策決定会合で、日本銀行は6対3の票差で政策誘導金利(無担保オーバーナイト・コールレート)を0.25%に据え置いた。その際、据置きに賛成票を投じた日本銀行執行部の政策委員(総裁と2人の副総裁)は、7〜9月期のGDP統計でマイナスとなった家計消費が(図表1参照)、再びプラスに戻るのを確認したいので、追加利上げを控えたと述べている。
   その後発表になった家計調査によると、全世帯の消費支出(季節調整済み、実質)は、7〜9月期に前期比−2.9%となったあと、10〜12月期は同+2.4%となった。
   1月の政策委員会の時点では12月の消費支出は分っていなかったが、実は10〜11月の平均は7〜9月の平均に比して+2.8%であった。従って12月の計数の発表を待たなくても、天候要因で7〜9月期に一時的にマイナスとなった家計消費が、10〜12月期に再びプラスに戻ったことは分っていたのである。

【2月に追加利上げがあっても企業投資には影響がない】
   これで0.25%の追加利上げを見送る理由は無くなった。次回、2月20、21日の政策決定会合で追加利上げが実施される可能性は高まっており、市場の長期国債10年利回りは、再びジリジリと上昇し始めている。
   追加利上げ見送りで一時1ドル=122円台にまで円安となっていた為替相場も、120円台に戻ってきた。
   0.25%の利上げや、それに伴う円安の若干の修正は、企業の投資行動に全く響かないであろう。マクロ的に見て、企業部門の投資活動はキャッシュ・フローの範囲内で行われているし、自己資金の機会費用を考えても0.25%の差はネグリジブルである。円相場についても、輸出企業の社内レートは110円近辺に設定されており、今の120円前後はウインドクオール・プロフィットと考えて行動している。

【鉱工業生産、出荷も10〜12月期は上昇加速】
   10〜12月期は、鉱工業生産と出荷の増加も7〜9月期に比して加速した(図表2参照)。前期比で、生産は7〜9月期の1.0%増から10〜12月期は+2.6%増へ、出荷は同+0.7%増から同+1.5%増へ、増加率が高まっている。
   上昇加速をリードしている業種は、一般機械、自動車、金属製品などの資本財とその原料となる鉄鋼、プラスチックなどである。他方、やや足踏みしているのが電気機械、通信機械、精密機械とその部品である電子部品・デバイスである。
   設備投資と輸出が引続き成長をリードしているが、IT関連機器はやや足踏みしていることが窺われる。

【10〜12月期高成長のあと1〜3月期以降はモダレートに】
   以上の動向から判断すると、間もなく(2/15)発表になる10〜12月期のGDP統計は、これまでの設備投資と純輸出の増加に加え、GDPの6割を占める家計消費が7〜9月期減少の反動で大きく伸びるため、年率で4%近い成長率となる可能性がある。
   しかし、ならして見るならば、これは4〜6月期+1.1%(年率)、7〜9月期+0.8%(同)の反動によるもので(図表1参照)、本年1〜3月期は再び緩やかな成長に戻る可能性が高い。

【1〜3月期の生産は足踏み、設備投資は先行きに鈍化の兆し】
   再び緩やかなテンポに戻る兆しは、いくつか出ている。
   まず、鉱工業生産の予測指数は、前月比で1月−2.8%と大きく減少したあと、2月は+0.1%の微増にとどまり、図表2に明らかなように、年明け後の生産は足踏み状態に入りそうである。10〜12月期の生産上昇の加速をリードした資本財と関連原材料の在庫がやや増えていることから見て、短い調整期に入る可能性がある。
   第2に成長をリードしている設備投資の6〜9か月の先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)が図表3に明らかなように、7〜9月期と10〜12月期に前年比マイナスになっている。また本年1〜3月期の見通しも、前年比+0.1%にとどまる。
   6〜9か月の先行指数であることから見て、設備投資の勢いが本年1〜3月期から徐々に落ちてくる可能性がある。

【輸出は引続き成長をリード】
   確り成長を支え続けると見られるのは輸出である。日本銀行の推計によると、10〜12月期の実質輸出は前期比+1.1%増、実質輸入は同−0.4%減となり、実質貿易収支は前期比+4.9%の好転となった(図表3参照)。
   海外経済の先行きについても、本年の米国経済は潜在成長率並みの3%弱の持続的成長軌道に軟着陸する可能性が高まっており、これ以上の利下げはなく、秋以降は成長の加速を抑える緩やかな利上げ局面に入るとの見方が多数になってきた。
   中国経済も、明年のオリンピックまでは高成長が続くとの見方が大勢である。その他のアジア諸国とEUについても、拡大は持続すると見られている。
   このような海外市場動向に加え、円安の恩恵もあり、輸出は今後も成長のリード役を続けると見られる。

【本年は輸出が引続き順調、消費は下支え、設備投資は鈍化】
   以上を総括すると、2月15日に発表される10〜12月期GDPは、2%弱とみられる潜在成長率を大きく上回る成長率となり、マクロの需給は好転するが、これは成長率が低かった4〜6月期と7〜9月期の反動による面が大きい。
   本年1〜3月期以降は、家計消費が雇用増加と賃金の多少の増加を背景に、緩やかながら増加基調を保ち、輸出も引続き成長をリードするため、設備投資の伸びが落ちてきても、潜在成長率並み(1.5〜2.0%)の拡大基調を辿るのではないか。