内需主導型回復を裏付けた4〜6月期GDP(H17.8.12)


─ 実勢は年率3%程度の成長 ─

【在庫投資の減少が4〜6月期の成長率を大きく引下げた】
   本日(8月12日)公表された本年4〜6月期GDP統計(第1次速報)によると、4〜6月期の実質成長率は前期比+0.3%(年率換算+1.1%)と、私の予想の範囲内(年率+1〜2%)でやや低目の数字となった。
   しかし、これは私が下振れ要因として指摘しておいた在庫投資が、実質成長率を0.5%も引下げる大幅減少となったためである(このHPの<月例景気見通し>(2005年8月版)“景気は内需主導で緩やかに上昇する兆し”参照)。

【4〜6月期の成長率の実勢は年率3%程度】
   在庫投資の成長寄与度は、04年10〜12月期が+0.2%、05年1〜3月期が+0.3%と、在庫の積上がりを反映してやや大きかったが、4〜6月期は在庫調整が進捗したため−0.5%と大きな反動減となった。
   在庫投資の増加は成長の先喰いであり、その減少は先喰い分の吐き出し、ないしは成長ポテンシャルの先送りである。従って、4〜6月期の成長率の実勢はもっと高く、0.5%近く上乗せした前期比+0.7%〜0.8%(年率+3.0%程度)と見てよい。
   他方、本年1〜3月期の年率+5.4%の高成長は在庫投資の増加によって嵩上げされているので、実勢は年率4%程度と見るべきであろう。それでも、年明け後の成長率の実勢は、1〜3月期+4%、4〜6月期+3%であるからかなり高い。

【4〜6月期の外需の成長寄与度は実勢より高く出ている】
   4〜6月期の+0.3%成長では、昨年7〜9月期から本年1〜3月期まで3四半期続いた純輸出(外需)のマイナスがプラスに転じて+0.2%ポイントの成長寄与度となった。
   しかし、ここでも、輸出が1〜3月期に前期比−0.1%の減少となった反動で、4〜6月期に+2.8%と大きく伸び、輸入の+1.6%をはるかに上回ったことが響いている。ならして見れば、純輸出(外需)の成長寄与度は、昨年7〜9月期から本年4〜6月期までほとんどゼロであり、輸出リード型成長は昨年7〜9月期以降失速したままだという判断は変えなくてもよいであろう。

【4〜6月期は1〜3月期に続いて内需主導型成長】
   本年4〜6月期の+0.3%の成長は、表面的には内需の寄与度が+0.1%ポイント、外需の寄与度が+0.2%ポイントと、一見外需主導型成長が復活したように見えるが、既に述べたことから分かるように、内実はそうではない。
   在庫投資の反動減を調整した内需の成長寄与度は、+0.6%ポイント程度と高く、輸出の反動増を調整した外需の寄与度は+0.1%ポイント程度にとどまる。これは、1〜3月期(内需の寄与度+1.3%ポイント、外需の寄与度−0.1%ポイント)と同様、内需主導型の成長である。

【マイナス成長期を脱し、内需主導のプラス成長期に入った】
   図表1を見れば明らかなように、02年4〜6月期から04年1〜3月期まで2年間続いた純輸出と輸出関連製造業中心の設備投資にリードされたプラス成長は、純輸出の減少と設備投資の頭打ちによって04年4〜6月期から10〜12月期まで3四半期のマイナス成長に陥ったが、05年1〜3月期と4〜6月期は、個人消費と設備投資という内需の二本柱にリードされて、再び新しいプラス成長局面に入った。
   4〜6月期は、個人消費の成長寄与度が+0.4%ポイント、設備投資の成長寄与度が+0.3%ポイントで、この二つの内需の柱だけで+0.7%(年率+2.8%)のプラス成長を実現している。



【内需の好循環で雇用者報酬が増え始めた】
   4〜6月期のGDP統計で、もう一つ注目されるのは、4〜6月期の雇用者報酬が前期比で名目+1.5%、実質+1.6%と大きく増加し、図表2に示したように、名目では02年頃の水準に達し、実質ではそれを上回ったことである。
   このような雇用者報酬の回復は、このHPの<論文・講演>欄の“日本経済の展望と改革の行方”(日刊労働通信社、H17.8.3)“景気回復に主役交替の動き”(『金融財政』05.8.1号)で指摘しているように、対個人サービス業を中心に、雇用・賃金の回復→雇用者報酬の回復→対個人サービス向け消費の回復→雇用・賃金の回復、という内需の好循環が始まり、景気の再上昇を支え始めたためである。



【設備投資の中身も製造業から非製造業へウェイト・シフト】
   内需主導型成長を支えるもう一本の柱は設備投資であるが、ここでも輸出関連製造業から対個人サービス非製造業へのウェイト・シフトが始まっている。
   7〜9月期の機械受注見通しによると、民需(除く船舶・電力)は全体として前期比+0.9%増、前年比+8.2%増であるが、これを製造業と非製造業に分けてみると、前期比では製造業が−6.2%減、非製造業が+5.2%増である。また前年比では、製造業の+6.7%増に対して、非製造業ではこれを上回る+10.9%増となっている。
   日本経済の成長主導要因は、対個人サービス業を中心とする好循環にウェイトを移している。これに輸出主導型回復の再開が上乗せされれば、下期の成長率は加速するであろう。しかしそれが無くても、マイナス成長に逆戻りする恐れは、当分の間無くなったと言えよう。