2005年8月版

─ 景気は内需主導で緩やかに再上昇する兆し ─

【対個人サービス業の雇用増加で失業率が低下】
   対個人サービス業を中心とする雇用と賃金の改善が個人可処分所得を増やし、増加した所得の中から対個人サービス業に対する消費が増えて雇用と賃金を更に改善する、という好循環の気配が出てきた。景気は内需主導型で緩やかに再上昇する兆しを示している。この間製造業は、純輸出の減少が続き、引続き停滞を脱していない。
   6月の就業者数は前年比+44万人増加して6418万人となり、反面完全失業者数は同−29万人減って280万人となった。この結果、完全失業率は4.2%と前月比0.2%ポイント低下した(図表1)。ほぼ7年前の水準である。
   就業者の業種別内訳を見ると、製造業(1150万人)は前年比−6万人の減少であるが、医療・福祉(574万人)が同+34万人の増加、サービス業(919万人)が同+40万人の増加となった。対個人サービス業の雇用増加が、雇用全体の改善を支える構図が明らかになっている。

【企業は正規雇用を増やし非正規雇用を減らし始めた】
   同じ傾向は常用雇用指数にも出ており、6月はサービス業が前年比+1.6%の大幅増加となっているのに対し、製造業は+0.6%(規模30人以上の事業所では+0.2%)の増加にとどまっている。
   また内訳では、4月以降パートタイム労働者が前年比で減少し、賃金単価の高い一般労働者の増加が指数全体の増加をリードしていることが特色である。因みに4〜6月平均の前年比をみると、常用雇用指数は全体として+0.5%の増加となっているが、内訳では一般労働者が+0.6%の増加であるのに対して、パートタイム労働者は−0.2%の減少である。
   正規雇用の増加、非正規雇用の減少という雇用構造の変化は、企業が労働力の需給好転傾向が始まったのを見て、雇用確保に重点を置き始めたためであろう。

【正規雇用の増加は「決まって支給する給与」を増やし始めた】
   4〜6月以降のこの雇用構造の変化は、賃金単価の上昇を通じて賃金指数の上昇に反映され始めた。図表1に明らかなように、前年比で一貫して減少してきた名目賃金指数は、4〜6月に+0.8%の増加に転じたのがその現れである。
   これには、本年3月期の企業収益の好転を反映した夏期ボーナスの増加も寄与しているが、ボーナスを除く「決まって支給する給与」でみても、4〜6月は前年比+0.5%の増加であり、前述した賃金単価上昇の影響が明らかである。「決まって支給する給与」の増加は、特にサービス業において顕著であり(同+0.5%の増加)、ベースアップを抑えて一時金増額にこだわる企業の多い製造業では、同+0.1%の増加にとどまっている。

【勤労者所得の増加で4〜6月期も個人消費は増加】
   このような雇用と賃金の回復は、当然、勤労者所得を増加させる。
   統計の精度に問題はあるが、勤労者家計統計によると、4〜6月の可処分所得は前年比+0.3%の増加となった。恐らくGDP統計と同時に公表される4〜6月の雇用者報酬は、もっとはっきり増えるのではないだろうか。
   4〜6月の勤労者所得の増加は、当然消費支出の増加に反映されると思われるが、家計統計では消費性向が72.5%に低下し、消費支出は前年比−1.8%の減少となった。
   しかし、4〜6月の販売統計を見ると、家計統計では減っている乗用車の購入が、新車登録台数の統計では前年比+8.4%と著増した(図表1参照)。また小売販売額(百貨店、スーパー、コンビニなどの合計)も、4〜6月は前年比+3.3%、季調済み前期比+0.2%とそれぞれ増えている。
   このような販売統計と前述の雇用・賃金の回復から判断すると、4〜6月期GDP統計の個人消費は、1〜3月期ほど大幅ではないにしても、雇用者報酬の増加を背景に前期比で増加したと見られる。

【製造業の生産活動は停滞したまま】
   次に製造業の動きに目を転じると、6月の鉱工業生産は前月比+1.5%と予測指数(同+1.7%)をやや下回る増加となった。しかし5月の減少(前月比−2.8%)が大きかったため、4〜6月の生産の平均は前期比−0.4%と再び低下した。予測指数は7月−0.2%、8月+1.9%と一高一低を繰り返す形となっているが、実績はやや低めに出る傾向が続いているので、大勢としては停滞を脱する事なく推移していると判断される(図表2参照)。
   ただ、4〜6月期は出荷が増加(前期比+0.9%)し、在庫と在庫率が低下した(図表2参照)。特に在庫調整の進む電子部品・デバイス工業では、6月に出荷が+7.8%と大きく伸び、在庫率は−5.2%低下した。もっとも在庫率の水準は前年比+29.8%とまだ高く、在庫調整完了はやはり年末近くになるのではないか。

【4〜6月期の純輸出は減勢維持、設備投資は増加】
   製造業に対する主な需要をみると、4〜6月の純輸出は、実質輸入(前期比+2.1%)が実質輸出(同+1.4%)を上回る伸びとなったため、実質貿易収支ベースでみて−0.5%の悪化となった(図表1参照)。
   米国と中国の成長は4〜6月期も底固いので、純輸出の減少には人民元切上げの思惑に基づくリーズ・アンド・ラグスの影響があるかも知れない。2%の人民元切上げは小幅すぎるので、毎日の変動幅の範囲で更にクローリング・アップするのではないかという思惑が残っている。従ってリーズ・アンド・ラグスはまだ解けないのではないか。
   次に設備投資は、4〜6月期の一般資本財出荷が前年比+3.8%(図表1参照)、前月比+4.7%のそれぞれ増加となったことから判断して、引続き増加していると見られる。
   他方公共投資は、公共工事請負額(図表1参照)の減少傾向からみて、4〜6月期も減り続けていると見られる。

【4〜6月期実質GDPは内需主導で年率1〜2%程度のプラス成長か】
   以上を総括すると、近く公表される4〜6月期の実質GDPは、1〜3月期の年率+4.9%の成長(図表3参照)に比べれば大きく鈍化するものの、1〜3月期と同じ内需主導型で年率1〜2%程度のプラス成長になるのではないかと見られる。
   即ち、純輸出は昨年7〜9月期から本年本年4〜6月期まで、4四半期連続で減少する可能性が高いものの、1〜3月期に続いて4〜6月期も、個人消費と設備投資の増加でプラス成長となる可能性が高い。始めにも述べたように、対個人サービスの雇用・賃金の回復→勤労者所得の増加→対個人サービスへの支出増加、という好循環が始まっているからである。ただし下振れ要因としては、在庫投資の減少という伏兵に注意する必要がある。
   また先行きについては、二つのリスクがある。
   第1は、このような内需主導型の景気好循環がいつ迄続くかという持続性の問題である。対個人サービスの支出増加に限界はないのか。
   第2は、多くの企業が期待しているように、年度下期に再び純輸出が増加し始めるかどうか。米国と中国の成長減速の程度、原油価格上昇の世界景気に与える影響など不確定要因が少なくない。

【量的緩和・ゼロ金利政策の転換も視野に入ってきた】
   このような二つのリスクが重大な支障にならないならば、GDPベースの需給ギャップが徐々に縮小し、全国消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比が、本年度下期中にゼロ%以上となり、量的緩和政策解除の条件が整う可能性が高まって来るであろう(このHPの<論文・講演>「日本銀行の次なる課題:量的緩和を解除し自縄自縛状態を解け(『週刊東洋経済』2005年7月30日号「論点」)」参照)。
   これに伴い、先行きの予想短期金利が上昇し、中・長期の金利がジリジリと上昇し始めるであろう。これは円高要因であるが、米国の金利も年末に向けて更に引上げられる可能性が高いので、大きく円高に振れて景気に悪影響を及ぼす可能性は低い。
   2005年分路線価が東京都で13年振りに上昇したように、このところ大都市圏の地価底入れが顕著になってきた。消費者物価だけではなく、地価にも目配りする必要が出てきた。量的緩和・ゼロ金利政策の転換も視野に入れて、今後の金融情勢を考える時期に来ている。