景気回復に主役交替の動き (『金融財政』2005.8.1号)

   今回の景気回復は、〇二年四〜六月期から始まり、途中〇三年一〜三月期のマイナス成長を唯一の例外として、〇四年一〜三月期までの8四半期、二年間はプラス成長を続けた。この8四半期に実質GDPは五・六%成長したが、その成長に対する純輸出の寄与率は+二九・四%に達し、更に輸出関連製造業を中心とする設備投資の寄与率+二六・八%を加えると、成長の過半は輸出と関連設備投資に主導された。
   その後〇四年四〜六月期と七〜九月期はマイナス成長、一〇〜一二月期はほぼゼロ成長となって、日本経済は失速することになった。その主因は、純輸出の成長寄与度が七〜九月期以降マイナスに転じ、また設備投資の伸びが頭打ちとなって成長に寄与しなくなったからである。同じ時期、〇四年七〜九月期と一〇〜一二月期に鉱工業生産も前期比マイナスとなった。輸出主導型の回復は完全に失速したのである。
   ところが、本年一〜三月期になると、純輸出の成長寄与度は相変わらずマイナスを続け、鉱工業生産も横這いを続ける中で、実質GDPは年率四・九%も成長した。成長の半分は個人消費の増加によるもので、更に設備投資の久方振りの増加も寄与した。もしこの個人消費の増加が、高収益を挙げた輸出関連製造業における雇用・賃金の回復によってもたらされた動きであれば、輸出主導型回復の延長線上の動きと言える。しかし、雇用統計を見るとそうではない。
   最新の五月の統計を見ると、就業者数(総務省調べ)は前年比四六万人増えて六四三五万人となったが、製造業(一一三五万人)は前年比四万人減っている。増えたのはサービス業(九二二万人)の三三万人増と医療・福祉(五七一万人)の四一万人増である。
   また同じ五月の常用雇用者数(厚労省調べ)は、前年比二二万人増えて四三一四万人となったが、このうち製造業(八六一万人)は僅かに六万人の増加にすぎない。半面、医療・福祉(四三四万人)は一三万人増、情報通信(一四九万人)は四万人増、各種サービス(六三六万人)は七万人増、教育学習支援(二五九万人)は四万人増である。
   この四業種を広義の対個人サービスと呼べば、合計常用雇用者数は一四七九万人で製造業の一・七倍である。この分野における雇用の回復を背景に、個人消費が増えることによって、純輸出がマイナスの下での四・九%成長が実現したのである。
   対個人サービスの雇用拡大を支えているのは、個人消費の構造変化である。本年一〜三月期の全世帯消費支出(実質)をみると、合計は前年比−〇・五%の減少であるが、内訳は財に対する支出が同−一・四%の減少であるのに対して、広義サービスに対する支出は同+〇・七%の増加である。広義サービスのうち特に増加が目立つのは、保険医療四・三%、交通通信二・〇%、光熱水道二・四%、教養娯楽〇・三%などとなっている。これらの支出が一〜三月期の個人消費の増加、ひいては四・九%成長を支えた。
   この支出傾向はその後も続いており、最新の四月と五月も、財に対する支出は前年比マイナス、広義サービスに対する支出は前年比プラスだ。少子高齢化が進む中で、高齢者の医療介護への支出、子育て期の教育への支出、若い人々の通信への支出が伸びているのであろう。
   輸出関連製造業から対個人サービス非製造業へのシフトは、雇用面に顕著に出ているが、設備投資面にも兆しはある。主役交替で景気回復のシナリオが変わるかどうか、注目される。