日本経済の展望と改革の行方─夏期特別セミナー「21世紀の日本の進路」(日刊労働通信社 H17.8.3)
8月2日(火)、3日(水)の両日、日刊労働通信社主催の夏期特別トップセミナー「21世紀の日本の進路」が東京プリンスホテルで開催され、私は3日(水)の午前中に「日本経済の展望と改革の行方」という演題で講演を行った。
以下はその際使用したレジュメと図表、および質疑応答の要旨である。
[レジュメ]
1.景気回復に主役交替の気配
(1)輸出主導型回復の失速
イ、純輸出の減少(図表1)
(イ)米国と中国の成長減速
(ロ)電子部品・デバイスの世界的在庫調整
(ハ)原油価格や素原材料の高騰に伴なう輸入増
ロ、設備投資の伸び率鈍化(図表1)
(イ)輸出関連投資のピーク・アウト
(ロ)内需関連の投資機会不足(規制撤廃不十分)
ハ、個人消費の伸び悩み(図表1)
(イ)雇用者報酬の低迷(図表2)
(ロ)増税、年金などの先行き不安(図表3)
ニ、マクロ経済政策の無策
(イ)公共投資削減(図表1)
(ロ)金融の量的緩和政策は効かず
(2)対個人サービス中心に雇用回復、内需に景気好循環の気配
イ、純輸出減少の下で05年1〜3月期は4.9%成長(図表1)
対個人サービスに対する個人消費の増加、非製造業にウェイト・シフトした設備投資
ロ、輸出関連製造業の雇用・賃金増ではなく、対個人サービスの雇用増→所得増→消費増→雇用増
2. 下期以降の日本経済の展望
(1)輸出主導型再開
イ、純輸出の再拡大期待
(イ)電子部品・デバイスの在庫調整完了(年度後半)
(ロ)原油価格の50ドル/バーレル以下への下落予想(原油産出国の増産と消費国の備蓄回復期待)
(ハ)米国と中国の成長持続期待
ロ、企業高収益からの好影響の期待
(イ)雇用増加・ボーナス増加に伴う雇用者報酬の回復期待(図表2)
(ロ)非製造業など国内関連の設備投資底入れ、回復予想
(ハ)配当増加に伴う株価回復期待
(2)再上昇期待に潜む問題点
イ、05年世界経済の拡大鈍化
(イ)米国の双子の赤字に伴う金利引上げ、成長鈍化
(ロ)中国のボトルネック・インフレ抑制に伴う成長鈍化
(ハ)非産油途上国の貿易収支悪化に伴う成長抑制
ロ、個人可処分所得は本当に増えるか
(イ)04年4〜6月期以降の成長停滞が雇用に与える悪影響の懸念(図表1)
(ロ)一時金増額のみでベースアップを認めない経営側の態度
(ハ)国民年金保険料・雇用保険料引上げ(4月)、住民税配偶者特別控除の廃止(6月)、厚生年金保険料
引上げ(9月)、定率減税半減(06年1月)、累計82,760円(標準世帯)、更に所得税増税、
消費税率引上げの計画
(3)根本的な問題点─民間部門に比して遅れている公的部門の改革
イ、小さな政府を目指す行政改革=公的部門の雇用削減・賃金抑制が進んでいない。
ロ、人口減少・高齢化の下で持続可能な基礎年金・高齢者医療・介護の社会保障制度の確立が先送りされている。
ハ、上記のイとロを欠いたまま増税路線に入れば、日本経済は大きな政府の圧迫と民間の非活性化によって決定的に停滞する。
3. ゼロ金利はいつ迄続くのか
(1)01年3月以降の金融政策の新機軸
イ、操作目標をコールレートから当座預金残高に変更。目標残高を30〜35兆円まで引上げ
ロ、全国消費者物価(除く生鮮食品)が継続的にゼロ%以上となる迄ゼロ金利政策を続ける旨約束
(2)目立ってきた弊害
イ、家計に不利、財政に有利なゼロ金利
ロ、金融機関経営も日銀オペ頼りで自主性喪失
ハ、コール市場の機能低下
(3)5月の消費者物価は前年比ゼロ%に
イ、本年10月〜明年1月以降にゼロ%を上回る可能性(図表4)
ロ、本年の景気次第で来年上期にゼロ金利政策解除へ
[グラフ]
[質疑応答]
問
日銀預金の目標残高を引下げ、来年上期には量的緩和・ゼロ金利政策が解除されるとすれば、長期金利が上昇して財政の金利負担が増加し、財政再建が難しくなるのではないか。
答
財政赤字の削減は、総支出額から金利負担を差し引いた支出と税収をバランスさせること─これをプライマリー・バランスの均衡と言う─を目標とすべきである。プライマリー・バランスが均衡していれば、金利負担が変動しても、長期的にみて政府債務の対GDP比率は低下していくからだ。
財政の金利負担を恐れて日本銀行の金利政策の自由を奪うと、結局、インフレやバブルの発生とその反動で日本経済が停滞し、長期的に財政赤字が拡大することは、既にこの10数年間に経験した通りである。
問
衆議院の解散、総選挙は、景気に悪影響を及ぼすのではないか。
答
政治の先行きが読めなくなるという不安感から、株価などには悪影響が出るかも知れない。
しかし、9月上旬頃までの時期はもともと夏休みシーズンであり、その間の政治空白によって、政策形成に大きな影響が出ることはない。
また、仮に民主党政権になった場合、マクロ経済政策が緊縮的になる訳ではない。無駄な支出は削減するが、規制改革によるビジネスチャンスの拡大には熱心に取組むであろう。また増税や社会保障負担の引上げよりも、年金・医療などの社会保障改革による無駄の排除を優先するであろう。