金融行政のあり方について (H17.3.2)
─ 指導型介入行政から市場型ルール行政へ ─
3月2日午前8時から9時まで、民主党の財務金融部門会議に招かれ、最近の日本の金融行政について話をした。衆参両院の財務金融委員会の民主党委員などの議員や秘書が多数参加し、衆議院第2議員会館の第4会議室はほぼ満席となった。
話のあと9時をやや廻る迄活発な質疑応答が行われた。ほとんどは当選1〜3回議員で、その真摯な態度は、民主党の将来性を期待させるのに十分であった。
以下は話の際に用いたレジュメである。
1. 柳沢金融行政の通常モードから竹中金融行政の危機モードへ
[結果]
(1) りそな銀行に対する「特別支援」(株主責任を問わず税金で大手行を救済)を契機に株価(03/4 のボトムは日経平均7607円)は反転上昇。
(2) 大手行の不良債権比率は景気回復にも援けられて半減。その他の改善は遅々。
(3) しかし98年以来の銀行貸出の減少傾向は止まらず、マネーサプライは低迷(2%程度)
[問題点]
不良債権比率さえ下がれば銀行はリスクをとって貸出拡張=景気回復促進に転じると考え、プロサイクリカル(この局面では不況促進的)なBISの自己資本比率規制を金科玉条のように守っていること。
2. BIS規制の「自己資本」の定義の形骸化
(1) バブル期の日本の銀行の国際的伸長を牽制するために欧米主導で導入された国際的規制
(2) バブル崩壊後は自己資本の定義の拡張、内容の形骸化
株式含み益の45%、劣後債(90年)、土地などの含み益の45%(98年)、繰延べ税金資産(99年)、公的資本の注入 ⇒ 自己資本比率の高い方が倒産リスクが高いという結果に。銀行の安全を守っているのは自己資本ではなく公的資金。
3. BIS規制のネガティブ・インパクト
(1) BISの自己資本比率規制はプロサイクリカル(景気変動増幅的)
・ 不況で信用リスクが増大 → 自己資本比率低下 → 貸出抑制 → 不況促進 → 信用リスク増大 →
・ 好況期は逆に好況促進的
(2) 「流動性のワナ」を発生させ金融政策の有効性を阻害
・ 自己資本比率の維持、不良債権比率の引下げ、収益性の向上、の三つは相互に矛盾
・ 解決策は三つの共通分母である貸出の減少、リスク・ウェイトがゼロの国債の増加、つまり貸出の「意欲と能力」の低下
(3) 将来のポートフォリオのリスク上昇、フランチャイズ価値低下
・ 税金繰延べ期間の黒字を維持するため、優良な不動産、株式、貸出から売却し、将来のポートフォリオを劣化
・ 将来の金利上昇局面で膨大な国債含み損発生、ポートフォリオ劣化
(4) 合理的な銀行経営を阻害
・ 最適な自己資本比率は銀行によって異なる。その一律規制は非効率的。
・ 相互に矛盾する自己資本比率、不良債権比率、収益率の最適組合わせを選択するのは銀行経営そのもの。その判定は市場が行うのであって、行政が規制するのは合理的経営の阻害。
4. 結論
(1) 日本はBIS規制を国内銀行に適用する義務はない。「4%」の根拠もない。国内銀行の自己資本比率規制を廃止し、行政は自己資本、不良債権、収益の内容を正確に開示させる(透明性を高める)ことに専念し、その判定を市場に委ねよ(市場規律の強化)。
(2) 国際的に活動する大手行に新BIS規制を適用する際、内部格付手法の検査に名を借りて、経営に過剰介入してはならない。あくまでも銀行自身の各種リスクの評価とその対策を正確に市場に開示させ、自己責任をとらせるのが行政の任務。
[配布された参考文献]
・ 鈴木淑夫「新BIS規制は経営リスクの評価を精緻化しない ─ 行政は開示推奨による市場規律の強化に重点を ─」(『週刊金融財政事情』2005年2月14日号)
・ HP The Suzuki Journal「竹中金融行政の功罪 ─ 自己資本比率規制をテコとする過剰介入型行政はどうなる」(H16.9.28)