2010年6月版
新年度入り後も内外需揃って着実に回復

【鉱工業生産、出荷は引き続き順調に回復】
 日本経済は、政府の見通しを上回る成長経路で、順調に回復を続けている(このHPの<最新コメント>“デフレ終焉と雇用者報酬回復の兆し。10年度は2%台成長の公算”H22.5.20、および<論文・講演>「経済人」“成長上振れとデフレ終焉の兆し”H22.6.3参照)。
 4月の鉱工業生産、出荷は、前月比それぞれ+1.3%、+1.6%となり、5月と6月の生産予測指数は前月比それぞれ+0.4%、+0.3%の上昇持続となった(図表1)。
 実績が予測指数の通りになると、4〜6月期は前期比+2.2%とやや増勢は鈍化するものの、5四半期連続の上昇となる。もっとも、6月の生産予測指数は、前回好況期のピークである08年9月の水準を、まだ−12.1%下回っている。

【個人消費は引き続き底固い拡大】
 需要動向をみると、09年第2四半期から10年第1四半期まで4四半期連続して拡大している実質家計消費は(図表3)、4月には「家計調査」の全世帯ベースで前年比−0.7%(図表2)、季調済前月比−6.3%の減少となった。
 しかし「販売統計」では、4月の小売業販売額が前月比+4.9%、季調済み前月比+0.5%と引き続き増加している。ただし、家電販売額だけをみると、前年比は+13.6%と高い伸びを続けているものの、季調済み前月比では、前月に+7.1%と著増した反動で、−2.2%と反落した。これはエコポイント制度の変更に伴って対象外となる薄型テレビの3月中の集中的値引き販売とその反動によるものとみられる。家電に対する消費需要の基調は、4月以降も底固いようだ。
 また、乗用車新車登録台数(季調済み)の前月比は、4月+6.1%、5月+1.3%と続伸し、エコカー優遇制度を背景とする好調な売れ行きが続いている。

【実質賃金、可処分所得、雇用者報酬は回復傾向】
 「家計調査」の実質可処分所得(勤労者所帯)をみると、4月も前月比+0.8%と3か月連続して増加している(図表2)。このため、実質消費の減少に伴って季調済み消費性向は前月比−5.4%ポイント低下し、72.7%となった。4月の「家計調査」の実質消費減少は恐らく一時的な動きで、「販売統計」の増勢持続の方が実勢を現わしているとみられる。
 「毎勤」の実質賃金は、4月も前年比+2.8%と5か月連続して上昇しており(図表2)、これらが実質可処分所得の増加を支えているとみられる。
 1〜3月期のGDP統計によると、雇用者報酬は名目で前期比+1.6%、実質で同+1.9%と増加に転じたが、これも1〜3月期からの賃金回復傾向を反映した動きであろう。
 消費の回復は、エコ制度などの政策に促された動きから、次第に可処分所得の回復に裏付けされた動きに変わってくる可能性がある。

【4月は雇用情勢回復が足踏み】
 この間にあって、4月の雇用情勢はやや冴えない動きとなった。「毎勤」の常用雇用と「労調」の雇用者、就業者は、それぞれ前年比+0.1%(季調済み前月比は−0.2%)、−0.2%、−0.8%にとどまった。
 他方、4月の完全失業者は前年比+2.9%、季調済み前月比+2.4%と増加したため、完全失業率は5.1%と前月比0.1%ポイント上昇した(図表2)。
 1〜3月期の実質成長率+1.9%(1次速報値、年率)や鉱工業生産の上昇持続から判断すると、4月の雇用情勢の不冴えは年度替りに伴う一時的な足踏みで、5月以降再び緩やかに持ち直すのではないかと思われる。

【住宅投資は底を打ち持ち直しへ】
 次に投資動向をみると、住宅投資は新設住宅着工戸数(季調済み)が09年8月をボトムに回復しているため、GDPベースでも本年1〜3月期から5四半期振りの増加に転じた。4月の新設住宅着工戸数は前年比+0.6%と実に17か月振りに前年を上回った(図表2)。住宅投資は低水準ながら4〜6月期以降も緩やかな持ち直しを続けよう。
 設備投資は、GDP統計(1次速報値)で09年10〜12月期、10年1〜3月期と2四半期連続で前期比増加となった。しかし、1〜3月期GDPの2次速報値に用いられる1〜3月期の「法人企業統計」の設備投資(金融業、保険業を含む全産業)が、前年比−10.9%とGDPの設備投資の1次速報値、前年比−5.6%を下回ったため、2次速報値では設備投資が下方修正される可能性がでてきた。
 足許の機械に対する設備投資と機械輸出の動向を示す一般資本財出荷は、1〜3月期の前期比+14.3%のあと、4月は1〜3月平均比+9.1%と大きく続伸している。


【設備投資は09年10〜12月期からの緩やかな回復傾向を持続】
 先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季調済み前期比で09年10〜12月(+1.1%)、10年1〜3月(+2.9%)、4〜6月(見通し+1.6%)と緩やかながら増加しており、5月30日付日経紙の設備投資計画調査(1472社)も、10年度は前年比+11.0%と3年振りの増加と報じられている。
 これ等の先行指標や一般資本財出荷などを総合的に判断すると、1〜3月期GDPの2次速報値で下方修正されることはあっても、設備投資は既に底入れしており、今後も緩やかな回復の歩みを続けていくとみられる。

【4月の実質貿易収支の黒字は大きく拡大】
 最後に外需の動向をみると、4月の輸出は前年比+40.4%と最近の伸び率のピーク(2月の+45.3%)に比べればさすがに伸び率が頭を打ってきたが、前月比は+2.3%、1〜3平均比は+2.5%と引き続き着実に増加している。
 輸出先別にみると、4月はASEAN向け(前年比+58.6%)、大洋州向け(同+58.9%)、中南米向け(同+53.3%)の伸びが高く、これまで全体をリードしてきた中国向け(同+41.4%)の伸びを上回っている。他方、米国向け(同+34.5%)、EU向け(同+19.8%)の伸びは、引き続き新興国・途上国向けの伸びに比して低い。
 4月の輸出を実質に換算すると(日銀推計)、前月比+6.5%、1〜3月平均比+8.9%と更に伸び率は高くなり、実質輸入(同)の同+3.6%、+1.6%を上回っている。
 このため4月の実質貿易収支(GDP統計の純輸出に対応)は、前月比+14.3%、1〜3月平均比+32.2%と大きく拡大した(図表2)。外需の成長牽引力は引き続き強い。

【新年度の2%台成長はほぼ確実】
 以上のように、新年度入り後も、家計消費と設備投資を中心とする国内需要と新興国・途上国向け輸出を中心とする海外需要によって、日本経済は順調な拡大を続けている。
 新年度は、前年度1〜3月期の年率+4.9%の成長によって既に+1.5%のゲタを履いているので、4〜6月期以降の内外需揃った回復によって、2%台の成長率を記録することはほぼ確実であろう(図表3)。