2008年2月版

緩やかな成長と企業業績の好転は続いているが、鉱工業生産の先行きに不安

【欧米のサブプライム・ローン問題に翻弄される日本経済】
  この7年間、日本経済は超低金利とそれに伴う円安によって、極端に輸出に偏った成長を続けて来たため、サブプライム・ローン問題に伴う欧米の金融不安と、米国の成長減速あるいは景気後退の懸念によって、大きな先行き不安に陥っている。
  株価は、年初来1月22日(火)までに、日経平均で17.9%(マイナス2700円)下落し、2年4か月振りの1万3千円割れとなった。昨年のピークから見ると、実に31.2%の暴落である。その後2月初めにかけて1万3千円を回復したが、欧米の金融不安や米国の景気指標の報道を受けて一喜一憂している(このHPの<最新コメント>“株価の暴落と今後のサブプライム・ローン問題”H20.1.23参照)。
  実体経済面でも、12月の実質輸出がやや頭打ちの気配を示し、米国の成長減速の影響が出始めた兆しが窺える。
【鉱工業生産は年明け後減少に転じると予測】
  このような中で、12月の鉱工業生産は前月比+1.4%、出荷は同+1.6%と共に増加したが、前月の減少分を取り戻せず、図表1に明らかなように、10月の水準を下回っている。生産も出荷も、8月から12月まで一高一低を繰り返しながらほぼ横這いで推移している。
  しかし、1月と2月の生産予測指数は、前月比それぞれ−0.4%、−2.2%と続落し、1〜2月平均は10〜12月平均比−1.9%の水準に下落すると予測されている(図表1参照)。
  業種別に見ると、2月の大幅下落の予測は、電子部品・デバイス、電気機械、一般機械などの減産予測が大きく響いている。これが、年明け後の輸出動向を反映した動きか、設備投資動向を反映した動きか、まだはっきりしないが、後に述べるように、設備投資は増勢が鈍ることはあっても減少に転じるとは思われないので、どちらかと言えば、対米輸出の動きを反映している可能性がある。

【賃金、可処分所得の落ち込みにも拘らず個人消費は着実な増加】
  需要動向を見ると、まず10〜12月中の個人消費は、まずまずの伸びを示したようである。販売統計を見ると、小売販売額は前年比+0.8%(前期は同−0.5%)、前期比+0.6%(同−0.8%)の増加となった。百貨店、スーパー、コンビニなどは冴えないが、家電販売額が前年比+0.4%(前期は同−0.1%)、前期比+2.8%(同+0.5%)と伸びたのが響いている。
  家計統計を見ても、消費支出(全世帯)は12月に前年比+3.1%と高い伸びとなり、10〜12月平均も同+1.4%と7〜9月期(同+1.3%)並みの伸びとなった(図表2参照)。
  もっとも、可処分所得(勤労者世帯)の方は、12月に前年比−2.7%の低下、10〜12月期平均も同−1.8%の低下となっている。雇用者は、12月に前年比+1.1%、10〜12月期平均でも同+0.9%と、着実に年率1%前後の伸びを続けているが、名目賃金が12月に前年比−1.9%、10〜12月平均でも同−0.9%の減少となっているため、所得が伸びないものと思われる(図表2参照)。賃金の落ち込みは、「特別に支払われた給与」(賞与)において著しい。
  このような中で、12月の全国消費者物価(除く生鮮食品)は前年比+0.8%の上昇となり、実質所得の一層の減少と預貯金の目減りが起きている。金融政策は物価上昇と金融不安の板ばさみになっている(このHPの<最新コメント>“板ばさみの金融政策H20.1.28参照)。

【住宅投資は1〜3月期から反動的に増加、設備投資は少なくとも08年度上期まで緩やかに増加する見込み】
  昨年7月の改正建築基準法の施行に伴う建築確認の申請と許可の混乱は、少しずつ収まってきたようである。
  新設住宅着工戸数の前年比は、8月に−43.3%、9月に−44.2%と大きく落ち込んだ後、前年比マイナス幅は徐々に縮小し、12月は−19.2%となった(図表2参照)。季節調整済みの前月比で見ると、10月から増加し始めており、10〜12月期の前期比は+19.6%の反動増となった。
  実質GDP統計で、7〜9月期に前期比−7.9%(年率−27.9%)と大きく下落し、同期の成長率を−0.3%(年率−1.2%)引き下げた住宅投資は、10〜12月期にもう一度小幅の減少をする可能性はあるが、本年1〜3月期以降は反動的に増加し、成長を押し上げる要因となろう。
  建築基準法改正の攪乱的影響を受けているもう一つの分野は、建築関連の設備投資である。建築着工(民間のうち非住居用)の前年比も7月からマイナスとなり、10月には−54.2%とほぼ半減したが、その後は毎月減少幅を縮め、12月は−2.2%とほぼ前年水準に戻った。設備投資に対する悪影響は10〜12月期で終わり、1〜3月期からは反動的な増加要因となろう。
  一般資本財の出荷を見ると、10〜12月期は前年比+1.2%と上昇幅を縮め(図表2参照)、季節調整済み前期比では−1.9%の減少となった。設備投資の先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)を見ると、7〜9月期に前年比−1.4%と減少幅を縮め、季節調整済み前期比で+2.5%と増加した後、10〜12月期は前年比0.0%と前年水準に戻り、前期比は+0.9%の増加となった(図表2参照)。1〜3月期の予想も、前年比+3.9%、前期比+3.5%と増加傾向を持続する。設備投資の緩やかな増加は、少なくとも08年度上期まで続きそうである。

【米国の成長減速を背景に10〜12月期の輸出は鈍化】
  最後に輸出動向を見ると、10〜12月期の通関ベースの輸出金額は、前期比+1.4%と前期の+2.8%、前々期の+2.6%に比して伸び率が落ちた。日本銀行が試算した実質輸出の前期比も、10〜12月期は+1.4%と前期(+6.1%)に比し増加率が鈍った。このため、10〜12月期の実質貿易収支も、前期比+5.8%と前期(同+15.7%)に比して好転の幅が縮小した。10〜12月期の米国の成長減速(年率+0.6%)が響いてきたのかも知れない。
  米国経済では、サブプライム・ローン問題を背景とする住宅投資の減少(10〜12月期は前期比−23.9%の落ち込み)に加え、住宅価格下落の逆資産効果などによって、個人消費(前期比+2.0%、前期は同+2.8%)と設備投資(同+7.5%、同+9.3%)も伸び率が少し落ちて来た。また1月には、雇用が4年5か月振りに減少に転じた。

【10〜12月期は前期並みかやや下回るプラス成長の見込み】
  以上のように、サブプライム・ローン問題に端を発する金融の動揺(とくに株価暴落)と米国の成長減速(日本の輸出鈍化)の影響が、日本経済の先行き不安を強めているが、2月14日(木)に発表となる10〜12月期の実質GDPには、まだ深刻な影響は出ないのではないかと思われる。
  7〜9月期の実質GDPは、純輸出の成長寄与度が前期比+0.5%に達したため、内需の成長寄与度は住宅投資の同−0.3%が響いて同−0.1%とマイナスになったものの、全体として+0.4%(年率+1.5%)の成長となった(図表3参照)。
  これに対して10〜12月期は、純輸出のプラスの成長寄与度が下がる反面、住宅投資のマイナスの成長寄与度が縮小すると見られるため、ほぼ7〜9月期並みの成長(年率+1.5%)となる可能性がある。しかし、設備投資の増加率がやや低下し、家計消費も物価上昇に喰われると、前期の成長率を下回り、年率+1%前後に鈍化することもありうる。
  いずれにせよ企業業績の好転は続いているので、このところの株価はやや下がり過ぎの感がある。市場の一部にある利下げ観測も、的外れであろう。