株価の暴落と今後のサブプライム・ローン問題の展開

本年第1回の昼食勉強会の討論を踏まえて(H20.1.23)

【世界同時株安の中で日本の株価下落率が一番高い】
 鈴木政経フォーラムの本年第1回昼食勉強会が、1月23日(水)正午から学士会館で開かれ、菅野雅明氏(JPモルガン証券チーフ・エコノミスト)と鈴木淑夫が、年初来の株価暴落とその背景にあるサブプライム・ローン問題、それらを踏まえた今後の世界と日本の経済展望などを討論した。
 以下は、その討論の内容を含む、鈴木淑夫のコメントである。
 日本の株価は、年初から1月22日(火)まで、日経平均株価で17.9%(マイナス2700円)下落した。更に昨年のピークから見ると、実に31.2%の暴落である。その結果、水準としても2年4か月振りの1万3千円台割れとなった。今日(23日)も、終値では1万3千円台を回復していない。
 この年初来の下落率と昨年のピークからの下落率は、いずれもサブプライム・ローン問題の本家本元である米国や、金融機関の損失が大きい英国、ドイツ、フランスなどの先進国の株価下落率よりも大きい。
 そこで問題を二つに分けて考えてみよう。第一は、世界同時株安の発端であるサブプライム・ローン問題の今後の見通しである。第二は、世界同時株安の中での「日本売り」の原因である。

【サブプライム・ローン問題に伴う損失】
 長い間上昇を続けて来た米国の住宅価格が下落に転じたため、高金利の低所得者向け住宅ローンであるサブプライム・ローン(住宅ローン全体の約2割)の利払い不能、返済不能が発生し、サブプライム・ローンの証券化商品やそれを組み込んだファンドなどの金融商品の値下がりと償還不能が表面化してきたのは、昨年の7月末からである。8月にはフランスやドイツの金融機関が多額の損失を抱えたことが判明し、その後米国を始め多くの欧米金融機関の損失が表面化した。
 現在、その損失額は、2〜3千億ドル(IMF)とも4千億ドル(OECD)とも言われている。およそ30〜40兆円である。
 日本の金融機関は、国際的なハイリスク・ハイリターンの商品にあまり手を出していないので、損失は小さい。

【日本の不良債権問題との共通点と相違点】
 サブプライム・ローンの焦げ付き問題が日本の不良債権問題と似ているのは、@長過ぎた金融緩和(政策)、A将来に対する市場の超楽観論(ムード)、B金融機関の行き過ぎた融資(モラル)、C金融監督体制の不備(行政)である。@〜Cは、総てバブル期の日本でも見られた。
 しかし、日本との相違点もある。
(イ)日本の金融機関は、「金融再生プログラム」が始まる迄不良債権を隠したが、米国では四半期毎に損失を開示している(透明性)、(ロ)自己資本の毀損は日本では公的資本が入るまで埋められなかったが、米国では市場から民間資本を調達し、今後のビジネスに投入している(資本注入)、(ハ)その結果、日本では不良債権処理に「失われた10年」を要したが、米国では1年程度(本年中頃迄)と見られる(処理のスピード)、(ニ)日本では潜在成長率が4%から1.5%に落ち込んだが、米国では3%から2.5%への減速と見られている(中長期的成長期待)。

【依然として不透明なヨーロッパの状況】
 以上の(イ)〜(ニ)の相違点を考えると、米国のサブプライム・ローン焦げ付き問題は、日本の不良債権問題と違って長く尾を引かず、年央までに決着がつくかも知れない。
 従って、成長率の減速も本年4〜6月期、あるいは7〜9月期までに終わり、景気後退(2四半期連続マイナス成長)には陥らない可能性が高い。
 むしろ、心配なのはヨーロッパである。ヨーロッパ諸国は、米国程の(イ)透明性、(ロ)民間資本注入、(ハ)処理スピード、(ニ)中長期的成長期待、が存在しない。やや日本に似て、不良債権や損失を隠すきらいがある。そのため、サブプライム・ローン問題に伴う金融機関の損失の広がりや深さが、十分に読みきれない。
 しかもヨーロッパでは、不動産のバブルが崩れ、別荘地などの値下がりが始まっている。これによる新たな不良債権の発生があるので、まだ先行きが読みにくい。

【日本の株価下落率が最大となる理由は他にある】
 以上のような状況から判断すると、日本の損失は欧米の損失よりも小さいのであるから、日本の株価下落率が一番大きいことは説明がつかない。日本の株価にとっては、サブプライム・ローン問題は、下落の切っ掛けであって、下落が大きい理由は他にあると見なければならない。
 グローバル化した金融機関やファンドは、一国の株価が下落して損失が出れば、その穴埋めのために他国の株式の利喰い売りをするので、株価下落は世界中に波及し、世界同時株安となる。その時、日本の株安が大幅であれば、日本のPERが国際比較上有利になるので、日本の株式に買いが入り、株価は値上がりする筈である。そうならないと言うことは、外国の投資家が日本のPERは下がり過ぎではなく、他国よりも下がって当然と考える理由があるからである。
 理由は三つ考えられる。
 第一は、日本の一人当たり名目GDPが、OECD加盟30か国中、2000年の3位から2006年の18位まで急落したこと(このHPの<最新コメント>“円と日本経済の沈下―2008年 年頭所感”H20.1.1参照)に象徴されているように、「日本はいまや経済も3流になってしまったのである」(1月18日の通常国会冒頭における大田経済財政担当大臣の発言)。
 第二は、2001年以来「超低金利→円安→輸出増加」の経済戦略をとってきた結果、輸出に極端に偏った成長をしているため、海外経済に翻弄される体質になっていることだ。つまり、「米国がクシャミをすれば日本は風邪を引く」のである。
 第三は、福田内閣になって、日本経済を改革する姿勢が明らかに後退していることである。少なくとも、外人投資家はそう見ている。従って、日本の将来には「何の楽しみもない」と思われている。
 以上の三つの理由をひっくり返すような政権が現れない限り、日本経済の前途は暗く、日本株の相対的弱さは続くのではないか。