2007年6月版

景気は1〜3月期の足踏みを脱し、市場は夏場の追加利上げを織り込み始めた

【1〜3月期の成長率2次速報は設備投資のマイナスからプラスへの修正で上方修正されよう】
   10〜12月期急拡大の反動で、1〜3月期の鉱工業生産は6四半期振りの前期比マイナスとなり(図表1参照)、成長率も10〜12月期の年率+5.0%(図表2参照)から1〜3月期は同+2.4%に低下したが、その後明らかとなって来た4月以降の景気指標を見ると、1〜3月期の足踏みは一時的であり、4月以降は再び着実な拡大が始っているようである。
   また、1〜3月期の鉱工業生産がマイナスとなり、成長率が低下した主因は設備投資の弱さにあったが(このHPの<月例景気見通し>2007年5月版“製造業足踏みの反面、家計関連の支出と雇用に好循環の動き。1〜3月期も潜在成長率を上回る成長か”参照)、一昨日(6/4)発表された1〜3月期の「法人企業統計調査」によると、GDP統計で前期比−0.7%(10〜12月期は+2.4%)となった名目設備投資は、同+2.8%となっている。
   やがて発表される1〜3月期GDPの「2次速報値」では、設備投資が上方修正され、つれて成長率も年率で少なくとも2%台後半に上方修正されるのではないか(図表2参照)。

設備投資の推移(前期比%)
                06/1〜3    4〜6    7〜9    10〜12    07/1〜3
  GDP統計        4.7        2.6      1.2       2.4       −0.7
法人企業統計      6.3        5.0      0.6       5.1       2.8


【夏場の追加利上げを織り込み始めた金融・資本市場
   このような経済指標の動きを反映して、市場では株価が少し確りしてきた。一高一低のうちに、昨日(6/5)は日経平均の終値で4か月振りに18千円台に乗った。また夏場の政策金利の追加利上げ+0.25%を織り込み始め、10年物の長期国債利回りは一頃の1.6%台から1.8%台へ、6か月物の政府短期証券入札金利は0.5%程から0.7%近くに上昇している。
   このHPの<最新コメント>“6〜7月中の追加利上げの可能性を吟味する”(H19.5.25)で述べたように、参院選後の8月を待たず、6〜7月中に追加利上げが行われる可能性もあると私は考えており、その条件は徐々に整って来たように見える。

【鉱工業生産は1〜3月期の一時的調整を終え再上昇へ】
   具体的に見て行こう。
   4月の鉱工業生産の実績は、前月比−0.1%の微減と2か月連続の減少となったが、出荷は同+0.9%の増加となった(図表1参照)。また、生産予測指数によると、5月は前月比+1.8%、6月は同+1.4%と2か月連続の大幅上昇となっており(同)、実績が予測の通りであれば4〜6月期は前期比+1.7%の増加となる。
   実績は予測を下回ることが多いので、このような大幅上昇になるとは限らないが、1〜3月期の減少は一時的で、4〜6月期には再び緩やかな増加基調に戻ると見られる。
   1〜3月期の減少を招いた電気機械、情報通信機械、一般機械などの資本財の減産は、4月には増産に転じており、4月になお減少した輸送機械、電子部品・デバイスは5、6月の予測指数では上昇に転じる予定である。
   資本財を中心とする一時的な生産調整は終わったようである。足許の設備投資を反映する一般資本財(資本財、除輸送機械)の出荷も、4月は前月比+8.7%の大幅増加となり、前年同月比も3月の一時的マイナスから再びプラスに戻ってきた(図表3参照)。

【家計消費と雇用の回復が好循環を形成】
   1〜3月期に確りした動きを示した家計消費(実質GDPベースで前期比+0.9%、図表2参照)は、4月も同じような動きを続けている。消費支出(全世帯)の前年比は、1〜3月期+0.6%増加のあと、4月は+1.1%増と増加幅を拡大した。売上高統計でも、4月の小売業販売額は、前月比+0.4%増となった。
   消費回復の背後にある雇用動向は、引続き着実に改善している。4月の雇用者数の前年比は、1〜3月期の+1.0%増から+1.6%増へと増加幅を拡大した。
   前年比を業種別に見ると、製造業は+0.9%にとどまっているが、医療・福祉(+5.5%)、飲食店・宿泊業(+4.8%)、卸売。小売業(+1.6%)など家計消費関係の雇用増加が目立つ。この3業種の前年比雇用増加は64万人に達し、製造業の10万人を大きく上回っている。前月の<月例景気見通し>でも述べたように、家計支出と雇用増加の好循環が、景気上昇を支え始めている。
   このような雇用情勢を反映して、4月の完全失業率は0.2%ポイント低下して3.8%となり、10年振りに3%台へ戻って来た。

【米国は成長減速とインフレの両にらみ、円安修正局面も
   日本銀行の推計によると、4月の実質輸出は前月比−3.2%の減少、実質輸出は同−0.6%の減少となり、実質貿易収支は同−8.1%の悪化となった(図表3参照)。これは前月大幅好転(同+29.4%)の一時的反動と見られる。
   米国経済の成長減速は底をつき、景気の悲観論は後退している。むしろ失業率が低いままなので、賃金上昇に伴う先行きのインフレ率上昇が懸念されており、当分は景気減速とインフレの両にらみが続き、政策金利は動かないのではないか。そのような下で日本の追加利上げが早まると、円安修正の局面があるかも知れない。
   まだ4〜6月期の統計が出始めたばかりであるが、1〜3月期に引続き、4〜6月期も潜在成長率を上回る着実な成長が続くと見られる。