2007年5月版

製造業足踏みの反面、家計関連の支出と雇用に好循環の動き。1〜3月期も潜在成長率を上回る成長か


【世界同時株安から2か月経ち日本株の反発力の弱さが目立つ】
   2月末の上海発世界同時株安から2か月経ち、中国や欧米の株価は急落前の水準を回復して何事も無かったように上昇しているが、日本の株価は急落幅の5割前後を戻した所で相変わらずもみ合っている。
   米国経済、ひいては日本の輸出の先行きに不安があるためという見方が一般的だが、その米国の株価は急落前の水準に戻っているのであるから、日本の株価が冴えない主因は日本国内にあると見るべきであろう。
   前月の<月例景気見通し>で述べたように、足許から07年度上期の景気について、市場には気迷いがあるようだ。その上、世界同時株安で一時円高に振れた為替相場が、再び株安前の水準まで円安になっており、対ユーロでは一層の円安が進んでいる。これでは外貨建てで採算をとる海外の投資家から見て日本の株式投資の魅力は薄く、海外からの資金流入に勢いがなく、日本株が冴えない一因となっている。

【1〜3月期の鉱工業生産と出荷は10〜12月期急増の反動で減少】
   足許で弱い動きが目につくのは、鉱工業生産と出荷である。3月の鉱工業生産は、予測指数の前月比+1.5%増とは逆に、実績は同−0.6%減となり、出荷も同−1.5%の落込みとなった。このため、1〜3月の生産は6四半期振り、出荷は9四半期振りに前期比マイナスとなった(夫々−1.4%減、−0.7%減)。
   もっとも、4月と5月の生産予測指数は、前月比夫々+1.5%増、+1.4%増となり、4〜5月平均は1〜3月平均比+2.0%となっている。恐らく1〜3月期の生産と出荷のマイナスは、10〜12月期急増の一時的反動であろう。4〜6月期以降は再び緩やかな増勢を取り戻すものとみられる(以上図表1参照)。

【1〜3月期反動減の主因は設備投資】
   10〜12月期急増の反動減が1〜3月期に顕著に見られるのは、主として電気機械、情報通信機械、一般機械、輸送機械、金属製品などの資本財である。
   10〜12月期の年率+5.5%成長のうち、+2.1%は設備投資が年率+13.2%も伸びたためであり(図表2参照)、恐らくその反動で、1〜3月の設備投資の伸びは低下したものと思われる。足許の設備投資の指標である一般資本財出荷も、1〜3月期は前年比+3.6%増と、10〜12月期(同+5.3%増)に比して伸び率が低下した(図表3参照)。これを季節調整済みの前期比で見ると、10〜12月期の+0.5%増から1〜3月期は−1.4%減に変わっている。
   1〜3月期の鉱工業生産の弱さは、このような設備投資増加率の反動減によるところが大きいと見られる。

【10〜12月期に続き1〜3月期も家計消費が増加】
   しかし1〜3月期の国内需要は、設備投資に替わって、家計消費の伸びが支えたと見られる。
   GDPベースの家計消費は、7〜9月期に前期比−0.6%減となった反動で、10〜12月期は同+0.6%増となったが、これは主として天候不順による攪乱で、ならしてみれば横這いである(図表2参照)。
   しかし1〜3月期は、この水準から更に家計消費が伸びたようである。図表3に示したように、全世帯の消費支出は、5四半期振りに前年比プラスに転じた。これを季節調整済実質値で見ると、前期比+1.0%増である。
   同じ図表3に示した勤労者家計の可処分所得は、7〜9月期から1〜3月期に至るまで、前年比プラスを維持している。このような所得面の裏付けのある消費水準の回復が、ようやく1〜3月期から緩やかに起ってきたのかも知れない。
   因みに販売統計を見ても、1〜3月期の小売業販売額とチェーンストア販売額が、季節調整済み前期比で揃ってプラスに転じた(夫々+1.9%増と+1.2%増)。このプラスは、夫々4四半期振りと2四半期振りのことである。

【家計関連業種の雇用増加が消費回復を支える】
   家計消費回復の裏付けとなっている可処分所得の増加は、賃金の上昇ではなく、雇用拡大によってもたらされている。
   図表3に示したように、名目賃金(全産業)の前年比は、10〜12月期の−0.3%減に続き、1〜3月期も−0.8%のマイナスとなった。年末賞与の伸びが低いうえ、団塊の世代の退職に伴い、平均年齢が下がり、全体の平均給与も下がっていることが響いているようである。
   しかし、同じ図表3に示したように、雇用者は1〜3月期も前年比+1.0%の伸びを維持している。業種別に見ると、大きく伸びているのは医療・福祉(3月の前年比+45万人、+8.7%増)と飲食店・宿泊業(同+10万人、+4.0%増)で、製造業は減っている(同−13万人、−1.2%減)。
   このように、1〜3月期の国内経済は、家計消費とその関連雇用によって支えられた面が大きく、家計を中心に支出と雇用の好循環が生まれている。

【1〜3月期の成長率は潜在成長率を上回る2%台後半か】
   次に輸出入の動向を日本銀行推計の実質値によって見ると、1〜3月期は輸出が前期比+3.0%増、輸入が同+0.3%増となり、GDPベースの実質純輸出に対応する実質貿易収支は、図表3に示したように、前期比+9.6%増と10〜12月期(同+4.7%増)よりも大きく拡大した。
   以上の結果、今月17日(木)に発表される1〜3月期の実質GDPの成長率は、10〜12月期の年率+5.5%に比較して、設備投資の伸び率が低下した分だけ鈍化するものと見られるが、家計消費と純輸出の伸びが大きく寄与するため、潜在成長率の2%弱を2四半期連続で上回り、+2.5〜+2.8%程度に達するのではないかと思われる。
   また特色としては、支出や雇用の面で、製造業よりも家計消費関連の業種が成長を支えていることが指摘できる。
   従って、製造業に偏った景気動向指数(一致系列は2か月、先行系列は4か月連続して50%割れ)によって経済動向を判断すると、見誤る恐れがあると言えよう。