2006年1月版

06年経済は後半に波乱要因を含みながら順調に船出

【本年も民需主導型成長が続き「いざなぎ景気」の最長記録に迫る勢い】
   日本経済は、一昨年の輸出主導型成長の失速を経て、昨年初めから待望の民需主導型成長が始まったが(図表1参照)、本年も基本的には設備投資と民間消費に主導された景気回復が続くであろう。そうなると、本年11月には戦後最長を記録した「いざなぎ景気」(65年11月〜70年7月の4年9ヶ月)を抜いて、景気拡大の最長記録を更新する可能性がある。
   今回と「いざなぎ景気」に共通する一つの特色は、途中に軽い調整期を挟むことによって、景気拡大の寿命が延びたことである。「いざなぎ景気」の時は67年暮から68年中頃まで「予防的金融引締め」が行われ、軽い在庫調整が起こった。その結果、悪化していた貿易収支が好転し、「国際収支の天井」が高まってその後の景気はインフレが始まるまで拡大を続けることが出来た。
   今回も、一昨年から昨年にかけて純輸出の増加が止まり、IT部品の在庫調整が起こって成長は失速し、3四半期にわたって実質GDPの水準が下がった(図表1参照)。しかしその間に設備、雇用、債務の調整が最終段階を迎え、昨年初めからの設備投資と民間消費の回復につながったのである(このHPの<最新コメント>欄“日本経済は大きな曲がり角を曲がった─05年の回顧と06年の展望”H17.12.26参照)。

【鉱工業生産はバブル期のピークを抜いて最高水準へ】
   本年はこの基調を受け継ぎ、@製造業のみならず非製造業にも広がってきた設備投資の波、およびA雇用・賃金の回復に伴う所得増加と株価上昇に伴う資産効果に支えられた民間消費、の二つにリードされて、景気回復が続くと見られる。
   最新の景気指標を見ていくと、まず11月の鉱工業生産指数は予測指数の前月比+4.6%には及ばなかったものの、同+1.4%と比較的大きく伸び、103.5(2000年=100の指数)に達した。これはバブル崩壊後のピークであった00年12月の102.7、97年5月の103.0を上回り、バブル崩壊前に記録した過去の最高水準である91年5月の103.4を僅かに上回る水準である。また12月と1月の予測指数は前月比+4.7%、同−2.0%と水準を更に切上げていくので、実績は予測ほど大幅には上昇しないとしても、傾向として生産水準が最高記録を更新して上昇していく可能性が強い(以上図表2参照)。

【設備投資、民間消費、住宅投資が順調な伸び】
   このような鉱工業生産の上昇をリードしている品目は、世界的な在庫調整の完了で生産が急回復している電子部品・デバイス、国内の設備投資と民間消費に支えられた一般機械、情報通信機械、普通乗用車などである。とくに10〜11月平均の一般資本財(輸送機械を除く資本財)の生産は、7〜9月平均比+4.2%の増加となり、足許の設備投資の強さを示している。
   民間消費は、例年よりも早い寒気の到来で冬物が動きはじめている。10月と11月の消費水準指数(勤労者世帯)は、図表3に示したように、前年比それぞれ+1.6%、+1.3%と7〜9月平均の同−1.1%減少とは様変わりにプラスの伸びを示している。
   また住宅投資の回復傾向も顕著で、同じ図表3に示したように、10月と11月の新設住宅着工戸数は前年比+8.4%、同+12.6%と7〜9月平均の同+4.9%に比し大きく伸び率を高めている。

【雇用と賃金も緩やかながら着実に回復】
   民間消費と住宅投資の背景にある雇用と賃金の動きを見ると、就業者数は11月迄7ヶ月連続して前年比増加を続けているが、その内訳を見ると、潜在的失業者を抱えていた自営業者・家族従業員が前年比で減少する反面、雇用者が9ヶ月連続して前年比増加している(図表3参照)。
   業種別に見ると、雇用が増えているのは医療・福祉やサービス業といった対個人サービスと回復し始めた製造業である。
   他方名目賃金は、10月に前年比+0.6%の増加となったあと11月は同−0.8%の減少となったが、「決まって支払われる給与」は10月同+0.6%、11月同+0.5%と着実に増えている。「特別に支払われる給与」(ボーナス)が前年を上回る12月には、給与全体として前年を大きく上回る可能性が高い。
   また株価がこの半年で4割も上昇しているので、その資産効果で奢侈品、旅行、外食、自動車などのいわゆる「選択的」消費にも動意がある。

【10〜12月期の成長率は7〜9月期を上回る可能性】
   以上のように国内の民間需要は回復を続けているので、図表3に示したように公共投資(公共工事請負額参照)と純輸出(実質貿易収支参照)が振るわない下でも、10〜12月期はプラス成長を達成したものと思われる。とくに民間消費が7〜9月期よりも確りしていることから判断すると、7〜9月期の前期比年率+1.0%を上回る成長を達成したのではないかと思われる。
   これに伴い需給ギャップもジリジリ改善していると見られ、デフレ脱却の可能性は高まっている。全国消費者物価(生鮮食品を除く)は10月に前年比ゼロ%となったあと、11月は+0.1%とこのホームページで予想した通りの前年比プラスに転じてきた(このHPの<論文・講演>欄の論文“日本銀行の次なる課題:量的緩和を解除し自縄自縛状態を解け”『週刊東洋経済』05年7月30日号参照)。

【06年経済は後半に波乱要因あり】
   06年経済の成長持続とデフレ脱却を予測して、株価の回復が著しい。しかし、06年度末までを展望すると、日本経済の前途は必ずしも平坦とは限らない。
   日本銀行は06年上期中に量的緩和の縮小に着手し、下期にはゼロ金利政策を修正するであろう。これに伴い、長期金利は少なくとも2%台には上昇してこよう。他方米国では、現在4.25%のFFレートを更に4.75%程度迄は引上げるとしても、下期には利上げ打止め感が出てくるであろう。この時、日米の金利差の予測は拡大から縮小に転じる。当然為替相場には、ドル高・円安を修整する圧力が加わるであろう。
   この金利上昇と円高の影響が下期の日本経済にどう出るであろうか。
   下期と言えば9月に小泉首相が退陣する。その結果、改革と歳出削減よりも、守旧と増税に政府・自民党の軸足が移ると、「期待」を通じて民間支出と外国人投資家の動きにブレーキがかかる。
   06年経済の出足は順調であるが、終わりはまだ見えていない。