2005年9月版

─ 手放しでは楽観できない景気の前途 ─

【製造業の生産活動は停滞を脱していない】
   製造業の生産活動は引続き停滞している。7月の鉱工業生産は、前月比−1.1%の減少と予測指数の前月比(−0.2%)を上回る幅の減少となった。図表1をみると分かるように、この7月の水準は昨年上期の水準よりもやや低い。本年に入ってからは、1月をピークに、一高一低のうちに低下傾向を示している。
   もっとも、8月と9月の生産予測指数は、それぞれ前月比+2.3%と大きく上昇し、9月は本年1月のピークを抜く形になっている。実績が予測を大きく下回る傾向が続いているので、これ程大きく上昇するとは思われないが、再び上昇に転じる可能性はある。

【IT部品の在庫調整は進んでいるが製造業全体の在庫が増えている】
   予測指数上昇の業種別内訳を見ると、2ヶ月連続して増えるのは電子部品・デバイス工業である。昨年央からの生産調整によって、電子部品・デバイスの製品在庫や在庫率は、7月現在、ほぼ前年水準並みに下った。しかし、前年水準自体が極めて高いので、これで在庫調整が終わったとは見られない。しばらくは、生産や出荷が増加しながら在庫率が低下するという調整の最終局面が続くであろう。
   IT部品の在庫調整は、進捗しているが、図表1に明らかなように、ここへ来て鉱工業全体の在庫率が大きく上昇してきた。これが8月以降の出荷回復によって解消する「前向き」の在庫投資であればよいが、出荷、とくに業界が期待する下期の輸出回復が実現しないと、在庫調整圧力が加わってくる。

【景気のリード役は輸出関連製造業から内需関連非製造業へシフト】
   8月版の「月例景気見通し」でやや詳しく述べたように、本年に入ってからの景気再上昇を支えているのは、輸出関連の製造業ではなく、内需関連の非製造業である。GDPの需要項目にそくして言えば、図表2に明らかなように、02年第4四半期から04年第2四半期までの純輸出リード型から、05年第1四半期以降の内需(個人消費と設備投資)リード型に変わったということである。そして、その内需回復の背景には、雇用・賃金の回復に伴う勤労者所得の増加がある。

【製造業の雇用減少から失業率は4.4%へ悪化】
   図表3に示したように、7月も名目賃金は前年比+1.7%の上昇と上昇幅を広げた(実質では+2.0%の上昇)。これはボーナスが前年比+4.7%と大幅に上昇したためで、「決まって支給する給与」は前年比+0.3%にとどまっている。
   他方、7月の雇用者数は前年比+0.5%と前月(+0.8%)より上昇幅が縮小した。これは製造業の雇用者数(1151万人)が前年比−2.3%の減少となったためである。サービス業(927万人)は同+6.6%、医療・福祉(561万人)は同+3.5%と、対個人サービス関連の雇用は引続き伸びが高い。
   製造業の雇用減少を反映して、7月の完全失業者数は前月比16万人増加して294万人となり、失業率は前月比0.2%ポイント上昇して4.4%となった(図表3参照)。

【設備投資の回復傾向は続く】
   7月の国内需要の動向をみると、所得面の回復傾向にも拘らず、個人消費は家計統計(図表3の消費水準)も販売統計も冴えなかった。このため貯蓄率は高まっており、これが秋以降の消費に向かうかどうかが注目される。
   他方設備投資は、7月の一般資本財出荷が前月比+1.7%と増加したことから見て、本年1〜3月以降の回復傾向(図表2参照)は続いていると見られる。
   この間公共投資は一貫して減少しており、7月の公共工事請負額は前年比−12.7%の大幅な落込みとなった(図表3参照)。

【外に原油価格高騰、ハリケーン被害、内に自民党の増税路線】
   以上のように、景気は主役の交替を伴いながら再び上昇し始めたため、このところ海外投資家の日本株購入が活発化し、株価は年初来高値を更新している。
   秋以降、輸出が回復して、内需と外需が揃って景気を牽引するようになると、この景気には持続性が出てくる。
   しかし、前途には少なくとも二つのリスク・ファクターが出てきた。一つはバーレル70ドルを超す原油価格の高騰である。もう一つは、米国のハリケーン被害だ。この二つの相乗効果によって米国の景気上昇が予想外に鈍化すると、日本の下期輸出回復期待にも影響が出てくる。
   その上、総選挙期間中は隠している07年以降の自民党の増税路線が、自公政権が続く場合に公然と語られ始めると、折角回復してきた個人消費に、「期待」を通して悪影響が及ぶ(このHPの<論文・講演>「民主主義のモデル・チェンジ」H17.9.1参照)。
   日本の景気は、まだ手放しで楽観できる状態ではない。