4〜6月期マイナス成長の先は?

―経済成長の予測と対策―(H20.8.14)


【家計消費、住宅投資、公共投資がマイナス、設備投資と純輸出は横這い】
 8月13日(水)に発表された4〜6月期のGDP統計(1次速報値)は、このHPの<月例景気見通し>(2008年8月版)H20.8.4<論文・講演>“BANCO”H20.8.11で予測していた通り、かなりのマイナス成長となった。マイナス幅は、年率−2.4%(前期比−0.6%)と民間調査機関12社の予測(−1.0%〜−2.9%)の平均(−2.2%)に近い。
 中身も、あらかじめこのHPで予測していた通り、家計消費(前期比−0.5%)、住宅投資(同−3.4%)、公共投資(同−5.2%)、輸出(同−5.2%)が軒並みマイナスとなり、設備投資が横這い圏内の動き(同−0.2%)となった。
 これを、前期比−0.6%成長に対する寄与度でみると、設備投資と純輸出は0%で、もっぱら家計消費(−0.3%)、住宅投資(−0.1%)、公共投資(−0.2%)の三つのマイナス寄与度によって、−0.6%のマイナス成長となっている。

【前回のマイナス成長は設備投資調整、今回は家計支出と輸出の減少】
 さて、このマイナス成長の先に何があるのであろうか。
 今後7〜9月期も引き続きマイナス成長となるのか、それともマイナス成長は4〜6月期だけで終わり、今後は低成長下の不況が続くのか。低成長下の不況が続く場合は、いつから回復し始めるのか。
 下のグラフに示したように、今回の景気上昇が始まる前の01年1〜3月期から02年1〜3月期まで、設備投資が5四半期連続して前期比マイナスとなったため、GDP成長率も01年4〜6月期から10〜12月期まで、3四半期連続でマイナス成長となったことがある。
 この時は下のグラフが示すように家計消費と純輸出はプラスで、成長を下支えていた。従って、この時期のマイナス成長は、企業部門の設備ストック調整によるものであった。しかし、今回のマイナス成長は、家計部門の消費と住宅投資、および輸出のマイナスによって生じてあり、前回とは性格が異なる。




【消費者物価高騰による実質家計所得の減少は続く】
 家計部門の消費と投資のマイナスは、原油・穀物・鉱物資源などの国際商品市況の高騰により、国内のコア消費者物価が4〜6月平均で前年比+1.5%も上昇し、家計の賃金・所得が前年比でかなりのマイナスとなっているためである(前掲の<月例景気見通し>2008年8月版、H20.8.4参照)。
 幸い国際商品市況は今年7月迄にピークを打って反落し、ピーク比2〜4割下落している。しかし、それでも原油、トウモロコシなどは昨年末の水準よりも1割以上高い。そのうえ、国際商品市況が国内物価に響いてくるまでには、かなりのタイム・ラグがある。現に7月の国内企業物価指数は、前年比+7.1%と6月(同+5.7%)に比べて上昇幅を拡大している。
 従って、国際商品市況の反落が国内企業物価を経て国内消費者物価に響いてくるのは年末頃となり、当面7〜9月期は家計の賃金・所得が実質ベースでマイナスを続け、つれて家計消費と住宅投資も減少して成長の足を引っ張る可能性がある。

【7〜9月期以降純輸出はプラスに戻る可能性】
 今日のマイナス成長のもう一つの原因は、輸出の減少である。サブプライム・ローン問題に端を発する米国とEUの成長減速で、欧米への輸出が減少しているためである。
 しかし、幸い米国とEUがマイナス成長に陥る蓋然性はかなり低くなってきた。他方、新興国の成長減速は小さく、アジア・中東向けの輸出は堅調である。オリンピック終了後の中国経済にやや不安はあるものの、7〜9月期以降の日本の輸出は増加基調に戻り、4〜6月期のように純輸出の成長寄与度がゼロになる可能性は低いと見られる。
 家計の消費と投資が引き続き弱く、純輸出はプラスに戻るとすれば、最後に7〜9月期以降の成長率を決めるのは設備投資の動向である。

【設備投資は今後も緩やかに増加か】
 本年度の設備投資計画の調査によると、設備投資の伸びは低いものの、増加は続く。
 6月調査の「日銀短観」では、本年度の設備投資計画(全産業+金融機関、ソフトウェアを含み土地投資を除く)は前年度比+3.6%増と前年度の前々年度比(+2.7%増)をやや上回る伸びとなっている。8月5日に政策投資銀行が発表した本年度の設備投資計画調査は前年度比+4.1%増と、前年度の前年度比(+7.7%)は下回るものの、プラスである。
 機械への投資の6〜9か月先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)は、本年4〜6月期まで4四半期連続して前期比増加を続けており、4〜6月期の前年比は+5.3%となっている。
 これらの指標から判断すると、企業の先行き観が急激に悪化するようなことが起こらない限り、7〜9月期以降の設備投資は緩やかな増加傾向を辿り、成長を下支えるものと思われる。

【ベスト・シナリオは本年度下期に最悪期脱出、ワースト・シナリオは来年度上期まで不況持続】
 以上を総括すると、家計部門の消費と投資および公共部門の投資が7〜9月期も減少し、他方で企業部門の設備投資と純輸出が7〜9月期に増加する可能性が高い。
 従って、蓋然性としては、7〜9月期はゼロに近いプラス成長となるのではないか。
 更に10〜12月期から来年までを展望すると、下振れリスクとしては、消費者物価の高い上昇が続き家計部門の実質所得の減少が長引くリスク、景気停滞の中で設備投資計画の下方修正が起きるリスク、米国やEUの成長減速が予想外に大きくなり、あるいは長引くリスク、などである。
 これらのリスクが表面化しなければ、米国経済が最悪期を過ぎる本年度下期に、日本経済も輸出の回復や先行き不安の後退で最悪期を過ぎることとなろう。
 これらのリスクのいずれかが表面化すると、日本経済の低成長、場合によっては時折のマイナス成長は、来年度上期まで続くかも知れない。この場合は、物価上昇率は低下するが、不況は1年半、あるいはそれ以上続くことになろう。

【政府・与党と野党は内需主導に転ずるための対策を打ち出せるか】
 このような展望を前にして、政府・与党は来週どのような景気対策を打ち出し、どのような補正予算を臨時国会に提出してくるのであろうか。家計の消費・投資の回復に実効のある手が打たれるであろうか。そうでなければ、日本経済は不況を脱したとしても、再び輸出に偏った成長に戻り、企業に有利、家計に不利な超低金利と円安の下で、家計・国民生活は停滞し、力を欠いた成長を続けるとこになるであろう。
 野党、とくに民主党は、総選挙に向けたマニフェストの中で、ガゾリンなどの暫定税率の廃止による消費者物価の引き下げ、定率減税復活などの所得税減税、官製市場の整理による国内の民間ビジネス・チャンスの拡大など、日本経済を内需主導型・国民生活中心型の経済に転換することのできる政策を打ち出せるのであろうか。

【GDPデフレーターの下落持続は価格体系変化の反映、デフレ持続ではない】
 4〜6月期もGDPデフレーターは前年同期比−1.6%の下落となっている。しかし、これを見てデフレが続いているとか、デフレの懸念が残っているなどと考え、超低金利とこれに伴う円安基調を続けていたのでは、いつまでたっても日本経済は内需主導型、国民生活中心型の経済には戻れない。
 下表のように、国内の消費デフレーターも投資デフレーターも2四半期以上続けて上昇している。警戒すべきはデフレではなくインフレであり、スタグフレーションである。
 GDPデフレーターは、総需要デフレーターから輸入デフレーターを加重平均で差し引いたものであるが、これが下落しているのは、総需要デフレーターの上昇以上に大きな幅で輸入デフレーターが上昇している、という価格体系の変化が進んでいるからであって、デフレを意味するものではない。
 政府・与党も野党も、物価上昇やスタグフレーションが国民生活を圧迫している現状を十分に認識し、金利水準の正常化と円安の是正を進める政策態度を明確にすべきであろう。