国民生活と福田改造内閣 (『金融財政』2008.8.11号)
「政治とは生活だ」「国民の生活が第一」。これは、昨年7月の参議院選挙で、民主党が大勝した時のスローガンである。自民党も本年1月の党大会で、「生活重視の政治」に切り換えると宣言した。
しかし、最近の国民生活は、消費者物価上昇による実質所得・実質賃金の減少、引き続く超低金利による物価上昇下の預貯金の目減り、成長減速による雇用不安、円安(とくに対ユーロ)による夏休みの海外旅行コストの上昇など、四重苦とも言うべき状況に置かれている。
このため消費者態度指数は、本年に入って急激に低下し、今回景気回復前の02年頃の水準にまで下がっている。生活重視の政治は、どこへ行ったのであろうか。
6月の全国消費者物価は、総合で前年比+2.0%、除く生鮮食品で同+1.9%と大幅な上昇を続け、騰勢は強まる気配を見せている。国内企業物価の前年比上昇幅は更に急激に拡大しており(六月は前年比+5.6%)、今後の消費者物価の一層の上昇に響いて来るであろう。
このため、可処分所得(勤労者所帯、4〜6月平均は前年比−1.9%)、賃金(全産業、同+0.2%)、消費支出(全世帯、同−1.0%)は、いずれも実質では前年比でかなりのマイナスとなる。
また家計の金融資産の平均金利を、仮に三年物定期預金金利(0.333%)と仮定すると、07年12月末現在、家計の保有する純金融資産は1163兆円であるから、本年6月末も同額だと仮定すると、その1.6(1.9−0.3)%の目減りは一八・六兆円に相当する。大型消費を控えようという心理的効果を生むのには十分な逆資産効果である。
更に、本年初めに対米ドルで100円を割り込み、対ユーロで160円を割り込む円高となっていた円レートが、最近は再び対米ドルで107円台、対ユーロで170円に接近する円安となっていることも、海外旅行のコストと輸入品の価格を高め、海外旅行や消費支出を控える動機として働いている。
サブプライム・ローン問題に端を発する世界経済の成長減速に伴い、このところ日本の輸出は増勢が鈍化しているが、加えて家計消費が実質ベースでマイナスとなって来たため、雇用情勢も悪化し始めている。6月の完全失業者は前年比+10.0%の増加となり、完全失業率(季節調整済み)は本年1〜3月平均の3.8%を上回る4.1%に達している。
4〜6月期の実質成長率はかなりのマイナスとなり、景気後退の始まりとなる蓋然性が高まってきた。
福田改造内閣は、小泉改革路線からの転換を目指し、「上げ潮派」を排除して「財政再建派」を中心に布陣を敷いた。小泉改革路線は、家計に不利、企業に有利な@超低金利、A円安、Bインフレよりデフレを心配する姿勢、を貫いてきた。もっと早くこの路線から転換し、@金利水準の正常化を急ぎ、A行き過ぎた円安の修正を進め、Bデフレ対策からインフレ対策への転換を05年頃から進めていれば、今日のように極端に輸出に偏り、家計が犠牲となる経済は改まっていた筈だ。世界の成長減速と国際商品市況高騰の影響も、もっと小さくて済み、国民生活はこれ程惨めな事にはならなかったろう。
改造内閣は、この意味の政策転換が出来るのであろうか。もし財政再建派の緊縮財政路線が前面に出てくると、景気は超低金利と円安で支えるほかはなく、国民生活の四重苦は続こう。