日本の物価が上がり始めた

―日銀は金利水準の正常化を急げ―(H19.12.1)

【11月の消費者物価前年比の上昇は物価が上がり始めた証拠】
 11月30日に発表された10月の全国消費者物価指数(総合)と同(除く生鮮食品)は、前年同月比でそれぞれ+0.3%、+0.1%の上昇となった。前月には前年比がまだマイナスであったので、1か月の動きだけで消費者物価が上がり始めたと見るのは早すぎる、という意見もある。しかし、それは間違っている。
 政府や日本銀行は、全国消費者物価指数について、「除く生鮮食品」の「前年比」を見て、これ迄物価が下がり続けいている、「デフレ」が収まっていない、などと言ってきた。しかしこれは、二つの点でミスリーディングであり、物価上昇の認識を誤らせるものだ。

【「除く生鮮食品」は短期の指標、趨勢の判断は「総合」指数で】
 第一に、「除く生鮮食品」を見るのは、生鮮食品の価格が季節性や天候事情などによって大きく変動するため、これを入れた指数は物価の短期的な基調を見にくくするからである。
 しかし、家計の消費行動、国民の生活にとっては、生鮮食品の価格動向も重要である。それによって、消費購買力が左右されるからだ。従って、短期の物価動向を判定するために、便宜上、攪乱的な動きをする生鮮食品を除くのは良いが、長期の物価の趨勢を判定し、消費購買力や国民生活への影響を見るためには、生鮮食品を含む「総合」指数を見なければならない。金融政策の参考とすべき物価指数も、物価の趨勢を見るのであるから、「総合」指数である。

【最近8か月間に消費者物価は+1.4%、企業物価は+2.7%上昇した】
第二に、「前年比」は「前月比」に比べて変化にタイムラグがある。前月比で物価の下落が止まり、上昇し始めたとしても、前年の水準を上回ってプラスになるには、通常、6か月前後のタイムがあるからである。そのため、前年比だけで見ていると、物価上昇の判定が遅れてしまう。
下のグラフは、全国消費者物価と国内企業物価の推移を、昨年の8月から今年の10月まで描いたものである。消費者物価も企業物価も、今年の2月をボトムに上昇に転じていることが分かる。最近8か月の上昇率は、消費者物価が+1.4%、企業物価が+2.7%である。前年比を見ていると、10月になって上昇率が初めてプラスに転じ、+0.1%や+0.3%になったように見えるが、既に8か月にわたって+1.4%や+2.7%の上昇をしているのである。その間日本銀行は政策金利(無担コール翌日物)を0.5%の超低水準に据え置いたままだ。つまり、実質金利はどんどん下がっていたのだ。



【「デフレ」は04年迄に終わりその後は価格体系の変化である】
 このように、物価は既に上昇に転じているのであるが、そもそも「デフレ」がまだ続いているとか、「デフレ」を脱却した確証がない、と言う政府の認識が間違っている。
 このHPでしばしば指摘しているように、マクロ経済の供給超過に基づく一般物価水準の持続的低下、つまり「デフレ」は、04年までに終わっている。その後最近まで進行していたのは、国内企業物価の上昇(資源・エネルギーなど素材価格の上昇)と消費者物価の下落(デジタル製品やサービス料金の下落)、あるいは投資デフレーターの上昇と消費デフレーターの下落、という価格体系の変化である。
 この価格体系変化の主因は、グローバル化とIT化による価格、料金、賃金、家賃、地代の国際的平準化がもたらす内外価格差の縮小(日本の国内物価の国際的割高の解消過程)と、新興国の発展に伴う資源・エネルギー価格のグローバルな上昇である(例えばこのHPの<最新コメント>“第2次安倍内閣の「新経済成長戦略」持続は歴史の流れに逆行し国民生活の向上を妨げる”H19.8.27)<論文・講演>BANCO“福田新内閣のマクロ経済戦略”H19.10.4参照)。
 そしてこの8か月間、遂に資源・エネルギー価格の上昇が消費者物価の上昇に波及し始め、価格体系の変化にとどまらず、一般物価水準が上昇し始めたのである。

【一般物価水準の指標はGDPデフレーターではなく総需要デフレーター】
 一般物価水準の指標として、一般に消費者物価とGDPデフレーターが引用される。消費者物価については、上述のように、既に上昇し始めた。しかし、GDPデフレーターはまだ下落しており、これが「デフレ」を脱却していない証拠として引用されることが多い。
 しかし、GDPデフレーターは、一般物価水準の指標としては、欠陥がる。GDPというのは、「国内需要+輸出」(総需要)から輸入を差し引いた「国内需要+純輸出(輸出−輸入)」である。国内で生産あるいは支出される付加価値の合計、つまりGDPあるいはGDEとしてはそれで正しい。
 しかし、日本経済の一般物価の指標としては、GDPデフレーターではなく、「総需要デフレーター」がより適切である。輸入デフレーターを差し引く前の総需要デフレーターこそが、日本の企業に対するトータルの需要のデフレーターであり、日本の経済主体のトータルの支出のデフレーターであるからだ。

【総需要デフレーターは05年度以降上昇している】
 この区別は、資源・エネルギー価格の上昇で輸入デフレーターが大きく上昇している最近の物価動向を判断する際は、特に大切である。何故なら、一般物価の指標である総需要デフレーターが上昇していても、輸入デフレーターを差し引いたGDPデフレーターは下落してしまうからだ。下の表のように、まさにそのことが、05年度以降に起きている。





【金利正常化の開始が遅れ正常化のテンポも遅過ぎるのではないか】
 以上みてきたように、「デフレ」は04年迄に終わっており、その後価格体系の変化の下で、全国消費者物価は本年3月から10か月間上昇し、また総需要デフレーターは05年度から上昇している。資源・エネルギー価格の動向から判断すると、11月以降も、全国消費者物価は前月比と前年比の両方で上昇を続けるであろう。
 このような物価動向から判断すると、昨年(06年)7月のゼロ金利政策解除は遅すぎたのかも知れない。また本年2月以降、政策金利を引き上げないでいるのも、問題ではないか。少なくとも後世の経済史家は、そう判断する可能性がある。
 8月以降のサブプライム・ローン問題で内外の金融システムに不安があるため、政策金利の引き上げが先送りされている事情は分かる。
 しかし、参院選などに遠慮せず、7月に利上げをすべきであった。また12月こそは、利上げに踏み切るべきではないか。
 上に示したグラフを見れば分かるように、本年3月以降の物価上昇で、日本の実質金利は低下している。これが後に禍根を残すような効率の悪い投資や融資、あるいは投機を引き起こさないと、誰が言い切れるのであろうか。