景気の持続は確認できたが再利上げの材料には乏しい

―12月調査「日銀短観」を読んで(H18.12.15)


【業況判断、売上・収益計画、設備投資計画は好転】
 本年4〜6月期と7〜9月期の実質成長率が、年率+1.1%、同+0.8%といずれも従来公表の計数(同+1.5%、同+2.0%)よりも大きく下方修正され、2%前後と思われる潜在成長率を下回ったので、本年度上期のマクロの需給ギャップは拡大しており、景況はこれまで考えられていたよりも弱いのではないかという疑問が浮かんでいた。
 しかし、本日(12/15)発表された12月調査「日銀短観」によると、企業の業況判断は緩やかに好転を続けており、売上・収益計画、設備投資計画、雇用計画などは、いずれも前回9月調査に比して上方修正されている。景気の拡大基調は比較的確りしている。
 ただ、年度下期の売上・収益について、企業は慎重な見方を変えていない。

【売上・収益は減速するが売上高経常利益率はピークを更新】
 まず「業況判断」DIは、9月調査では先行き悪化の予想が出ていたが、12月調査では、非製造業中堅企業を除き、各規模(大・中堅・中小、以下同じ)の製造業と非製造業で9月調査に比して好転した。
 業況の背後にある売上・収益計画を見ると、全規模全産業の合計で、06年度売上計画は9月調査比で+0.8%ポイント上方修正され、前年比+3.6%の増収となった(前年度実績は同+4.8%)。
 これに伴い、06年度の経常利益の予想も、全規模全産業の合計で、9月調査に比して+2.9%ポイント上方修正され、前年比+4.7%の増益予想となった(前年度は同+12.3%)。
 この結果、06年度の売上高経常利益率は、全規模全産業で4.05%となり、高水準の前年度(4.01%)を更に上回る予想となっている。
 とくに大企業製造業の本年度売上高経常利益率は、6.60%と予想されており、バブル期のピーク(89年度5.75%)を上回った前年度(+6.48%)を更に上回る最高記録の更新が予想されている。

【設備投資と新卒採用の計画は上方修正】
 このような売上・収益計画を反映して、本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み、土地投資を除く)も、全規模の製造業・非製造業・金融機関の合計で、8月調査比+1.3%ポイント上方修正され、前年比+10.6%の増加と、前年度の同+8.7%増を上回る伸びとなっている。
 また、『雇用人員』判断DIでは、各規模の製造業と非製造業で「不足」超幅が拡大しており、全規模全産業の合計では、「不足」超が8月調査8%ポイント、12月調査10%ポイント、先行き13%ポイントと拡大している。
 このため07年度の新卒採用計画は、全規模の製造業・非製造業・金融機関の合計で、8月調査比+2.7%ポイント上方修正され、+9.3%の増加となっている。

【本年度下期の減速減益予想は変っていない】
 以上のような順調な景気拡大を示す指標の中で、少し気になる点を探すと、本年度下期の売上高減速と経常利益減少の予想が改まっていないことである。
 全規模全産業ベースで見ると、06年度上期の売上高は前年比+4.7%増(9月調査比+1.0%ポイント上方修正)のあと、下期には同+2.5%(同+0.6%)と減速する計画となっている。
 このため経常利益の予想も、同じベースで見て、上期の前年比+12.8%の増益から、下期には同−2.2%の減益となっている。
 売上高減速の一つの理由は、輸出である。大企業製造業の輸出は、前年比で見て、05年度下期+16.8%増、06年度上期+15.1%増から下期には+7.1%増と大きく落込む予想となっている。
 足許の輸出動向や明年の海外経済動向から判断すると、このような急激な減速は考えにくいが(このHPの<月例景気見通し>06年12月版“鉱工業生産の上昇は加速し目先年度下期減速の兆しはない”参照)、この点は明年の3月調査の「短観」結果が待たれるところである。

【マクロの需給基調は引き締まっていない】
 もう一つ気になるのは、国内需給と物価の動向である。
 「国内での製商品・サービス需給」判断DIを見ると、9月調査も12月調査も、製造業は6%ポイントの「供給超過」、非製造業は17%ポイントの「供給超過」のまま横ばいで推移しており、先行きは両産業とも「供給超過」幅の若干の拡大を予想している。
 「製商品在庫水準」判断DIの「過大」超幅は拡大していないので、在庫調整を起こす程ではないとしても、物価動向には影響がありそうである。
 「販売価格」判断DIと「仕入価格」判断DIの「上昇」幅は、9月調査よりも縮小しており、「販売価格」判断DIの先行きは「下落」超に転じる予測である。

【再利上げの材料にするは不充分な内容】
 以上、12月調査「日銀短観」から判断すると、景気の順調な拡大は続いているが、企業は依然として下期減速の不安を持っており、国内のマクロ需給状況から見て、必ずしも物価の基調は強くない、ということであろう。
 「金融機関の貸出態度」判断DIは各規模企業で大幅な「緩い」超を続けており、「借入金利水準」判断DIの「上昇」超幅も各規模企業で縮小している。
 現在、企業金融面から景気にブレーキが懸かっているとは見られないが、日本銀行の再利上げについては、需給ギャップと価格の動向から判断して、もう少し様子を見た方が良いのではないか(このHPの<論文・講演>雑誌“政治圧力の中で問われる日銀の情勢判断”『週刊東洋経済』06年12月9日号参照)。
 次回の3月調査「日銀短観」の本年度下期の売上げ実績見込みと来年度の売上げ予想が待たれる。