2006年12月版

鉱工業生産の上昇は加速し目先年度下期減速の兆しはない

【年度下期減速の予想と異なり10〜12月期の生産上昇は加速の気配】
   鉱工業生産は、本年に入ってから季調済み前期比で1〜3月期+0.6%、4〜6月期+0.9%、7〜9月期+1.0%と比較的緩やかな上昇にとどまっていたが、10月の実績は前月比+1.6%と予測指数の−0.2%とは逆に大幅な上昇となり、更に11月と12月の予測指数も前月比それぞれ+2.7%、+0.1%と水準を大きく高める見込みである。仮に10月と12月の実績が予測通りであれば、10〜12月期は前期比+3.7%の大幅上昇となる。図表1を見ても、10月以降、生産の増勢が加速する気配が明らかに窺える。
   日銀「短観」を始め、多くの見通しによれば、日本経済は本年度下期に成長減速、あるいは踊り場に入るとされているが、少し様子が違ってきたようである。

【自動車、一般機械、IT部品の増産が主因】
   10〜12月期の生産加速をリードする業種は、輸出好調の自動車、設備投資と輸出に支えられた一般機械、それに電子部品・デバイスである。電子部品・デバイスについては、IT部品の在庫過剰から軽い生産調整に入るという見方があったが、世界的な携帯電話やデジタル家電の好調な伸びによって、部品に対する需要は伸び続け、在庫調整の懸念は後退している。
   電子部品・デバイス工業の10月の生産は、前月比+2.8%の大幅増加となったが、在庫率は逆に同−0.8%の低下となっており、11月の生産計画も強気である。

【設備投資の足許は確りしているが、先行指標にやや不安】
   足許の設備投資と一部輸出の動向を反映する一般資本財出荷は、7〜9月期に前年比+6.2%と前期(同+7.7%)に比して上昇幅を縮め、季調済み前期比では−1.3%の減少となっていたが、図表2に見る通り、10月は前年比+9.9%と上昇幅を拡大した(7〜9月平均比+4.0%増)。資本財の生産予測指数の動向をみても、10〜12月期の設備投資と輸出は順調に伸びると見られているようである。
   6〜9か月先の設備投資動向を示す機械受注(民需、除く船舶・電力)は、図表2に示したように、7〜9月期に前年比−1.1%の減少に転じた。このため、年度替り以降の設備投資動向が懸念されているが、10月も前年比−1.2%、前月比+2.8%(7〜9月平均比−0.2%)と勢いはない。

【米国経済は巡航速度にソフトランディングか】
   年度下期減速説の最大の根拠は、米国の成長減速に伴う輸出の頭打ちである。
   米国経済は05年に+3.2%の成長をしたあと、本年に入り、4〜6月期は年率+2.6%成長、7〜9月期は同+1.6%成長と減速している。主因は住宅投資の大幅な減少である。
   これに伴って住宅価格も弱含みに転じてきたが、その「逆」資産効果は今のところ消費に現われていない。住宅価格は過去5年間に5割も値上がりしているので、むしろその「順」資産効果が残っている上、ガソリン価格が値下がりしているため、GDPの7割を占める個人消費は引続き底固く推移している。加えて設備投資の堅調もあって、10〜12月期の成長率は再び2%強に戻るとの見方が多い。07年の予測も、潜在成長率に近い3%前後の予測が多い。

【現在のところ輸出は順調な伸びで成長をリード】
   米国経済と並んで日本の輸出を大きく左右する中国経済は、05年の+9.9%成長のあと、本年は3四半期連続で10〜11%台成長を続けている。他の東アジア経済やEUも、大きく減速する気配がない。日本の輸出環境には、年度下期の日本経済の減速を招くような変化は、今のところ見当たらない。
   10月の通関輸出実績は、季調済み前月比で+0.5%増となった。これは、7〜9月平均比+0.3%増の水準である。輸出の増勢には、特に下振れ気配は見られない。

【雇用・賃金の伸びは低く消費は冴えない動き】
   このところやや冴えないのは、民間消費の動向である。7〜9月期のGDP統計<第2次速報>では、実質民間消費が前期比−0.9%の減少となり、7〜9月期の実質成長率の足を引張る−0.5%の寄与度となった(図表3参照)。
   GDP統計の実質雇用者報酬を見ると、7〜9月期は前期比−0.1%の減少となっている。従って、7〜9月期の民間消費の減少は、所得の減少と消費態度の消極化(消費性向の低下)の双方から来ていると見られる。
   10月の雇用者数を見ると、図表2に示したように、前年比+0.8%の増加となったが、伸び率は1〜3月期+2.1%、4〜6月期+1.5%、7〜9月期+1.2%に比して落ちている。
   他方、10月の名目賃金は前年比ゼロ%と頭を打った(図表2参照)。このような雇用と賃金の動向からみて、雇用者報酬の伸びは引続き鈍く、これが民間消費の動きを冴えないものにしている。
   今後、年末賞与増額の動きが、年末と正月の消費にどの程度の影響を及ぼすかが、注目される。

【7〜9月期GDPの第2次速報は年率+0.8%に下方修正】
   7〜9月期の実質GDPの第1次速報は、11月の「月例景気見通し」で予測した年率+1%前後よりも上振れし、同+2.0%と発表されたが、本日(12/8)発表の第2次速報では、同+0.8%に下方修正された。第2次速報では、私の予想通り、設備投資の伸びが落ち、個人消費のマイナス幅が拡大したため、国内需要の成長寄与度はマイナスとなり(−0.2%)、純輸出の成長寄与度のプラス(+0.4%)によって、+0.2%(年率+0.8%)の成長が確保された(図表3参照)。
   第1次速報のあとに発表された7〜9月期の「法人企業統計」によると、法人企業(全企業)の設備投資の伸びは、下表のように減速している。「法人企業統計」の結果を織り込んだGDPの<第2次速報>では、設備投資の伸びが下方修正され(前期比+2.9%→+1.5%)、つれて7〜9月期の成長率全体も下方修正されたのである。

                                名目設備投資の前年比
                                          06/1〜3     4〜6     7〜9
名目GDPベース(第1次速報)     7.6%     8.7%     10.8%
法人企業統計ベース          13.9%     16.6%     12.0%