バブル崩壊後初の3%台成長は持続できるか(H18.2.21)



【平成17年度は+3.2〜3.5%成長へ】
   本年3月に終わる平成17年度の経済成長率は、バブル崩壊後最高の+3.2〜3.5%に達する可能性が高い。
   先週金曜日(17日)に発表された17年10〜12月期の1次速報値(このHPの<最新コメント>“民需主導で実質的にはバブル崩壊後最高の成長率となった05暦年─10〜12月期は内需、外需が揃って5.5%の高成長(H18.2.17)”参照)を前提に試算すると、本年1〜3月期がゼロ成長でも年度の成長率は+3.2%に達する。実際はプラス成長が続くと見られるので、+3.2%を超える公算が高い。
   バブル崩壊後2回の景気のピークでは、平成8(1996)年度も平成12(2000)年度も+2.8%成長にとどまった。バブル崩壊不況が始まった平成3(1991)年度は、+3.1%の成長であったが、これはバブル期のゲタをはいているためである。

【三つの過剰解消が内需主導型景気好循環の鎖をつないだ】
   日本経済に3%台成長が戻ってきたのは、「三つの過剰解消」によって、切れていた内需主導型景気の好循環の鎖がつながったからである(このHPの<論文・講演>「BANCO」“三つの過剰解消の意味(H18.1.23)”参照)。
   平成16(2004)年度までの日本経済では、輸出主導型の景気回復が起こっても、企業の収益改善は三つの過剰解消(債務返済、雇用整理、設備償却)に使われ、雇用と賃金の回復や新規設備投資にはあまり向かわなかった。このため、輸出回復→雇用・賃金・設備投資の回復→内需回復→雇用・賃金・設備投資の回復、という好循環が始動せず、輸出回復が内需主導型回復に点火するメカニズムが壊れていた。
   それが典型的に現れたのは、平成16(2004)年の景気失速である。米国と中国の成長減速で輸出の伸びが落ちると、景気全体が失速し、第2〜4四半期はマイナス成長となった。

【雇用回復はサービス業に続き製造業でも起こってきた】
   しかし、平成17(2005)年に入ると、まず国内の対個人サービス業で雇用回復が起こり、8月以降はIT部品の在庫調整一巡などから鉱工業生産が持続的に上昇し始め、製造業でも雇用回復が起こってきた。平成17年中の雇用者増加は56万人であるが、そのうち39万人がサービス業、15万人が製造業で増加している。
   長く続いた過剰雇用と過剰設備がようやく解消したことは、昨年12月調査の「日銀短観」にはっきり現れた(このHPの<最新コメント>“設備と雇用の拡大意欲が強まり景気回復に持続性が出てきた─12月調査「日銀短観」から来年の経済を読む(H17.12.14)”参照)。
   また過剰債務の解消は、国内銀行の特殊要因調査後総貸出残高が、17年中頃から8年振りに前年比プラスに転じたことに現れている。

【内需主導型回復はまだ始まったばかり】
   平成17年度に3%台成長を実現したあと、18年度以降の日本経済はどうなるであろうか。
   三つの過剰が解消してから日が浅いという意味では、民間消費と設備投資を中心とする内需主導型回復は比較的“若い”といえよう。今回の景気回復の起点を平成14(2002)年第2四半期と考えると、景気回復は「いざなぎ景気」を超えて戦後最長になる可能性がある。しかし、今回の景気は輸出主導型回復が平成16(2004)年に1回調整(失速)期を迎えたあと、新しい内需主導型回復が平成17(2004)年から始まったのである。雇用・賃金の回復も新規設備投資の拡張も始まったばかりである。平成18年度いっぱい続いても不思議はない。
   しかし問題は政策面にあり、それが企業の期待成長率にどう響いてくるかに成長の持続性が掛かっている。

【ゼロ金利解消は早過ぎても遅過ぎても景気をつぶす】
   まず金融面では、3%台成長の下でデフレ脱却は確実となり、量的緩和政策の縮小が始まるのは時間の問題であろう。その時市場関係者がゼロ金利政策も間もなく中止されると早合点すると、長期金利が過度に上昇し、企業の期待成長率を引き下げる恐れがある。
   日本銀行は、量的緩和を縮小しても、ゼロ金利政策は当分続けることを上手に市場に説明することが望ましい。そうすれば、デフレ解消に伴い実質短期金利は当分低下を続けることになるので、景気刺激の効果は強まり、同時に過度の長期金利上昇は避けられるであろう。今後どのくらいゼロ金利政策を続けるかという「時間軸」の設定が大切だ。この「時間軸」が短か過ぎると、長期金利の過度の上昇で期待成長率に悪影響が及ぶ。
   しかし逆に「時間軸」が長過ぎると、資産バブルやインフレのリスクが高まって、やはり長期金利の過度の上昇が起きる。あまり話の分かる日本銀行では困るのである。

【歳出削減6〜7割、国民負担増加3〜4割の財政再建が出来るか】
   財政面では、小泉後の内閣がどのような財政再建路線をとるかによって、企業の期待成長率が変わる。6〜7割は歳出削減、3〜4割は国民負担増加によって財政赤字を減らす大方針を立て、まず中央政府の無駄な仕事と人員(天下りOBを含む)の整理による歳出削減に取り組むことが望ましい。増税や社会保障負担増加などの国民負担増加に重点がかかると、当然企業の期待成長率は低下してしまう。
   自民党は官僚の抵抗を押し切って、歳出削減に重点を置いた財政再建を進めることが出来るのであろうか。責任を金融政策に押しつけて、ゼロ金利政策を過度に長期化させることはないであろうか。新日銀法の下では、勿論、日本銀行の政策決定の独立性は保障されているが、実際に政策委員会はどう動くであろうか。資産バブルやインフレの予想が発生すれば、長期金利は大きく上昇し、成長率の低下と金利負担増加の両面から財政再建が難しくなる。困るのは国民であるが、政府と自民党も窮地に立つことになるであろう。