量的緩和政策は解除、ゼロ金利政策は継続(H17.11.28)


─ 消費者物価の前年比がプラスになってもゼロ金利はしばらく続けよ─

【10月の全国消費者物価<除生鮮食品>は予想通り前年比ゼロとなった】
   本年10月の全国消費者物価(除生鮮食品、以下同じ)が、前年同月比でゼロ%となった。5月にも全国消費者物価の前年同月比は一時ゼロ%となったことがあったが、これはガソリン価格高騰による一時的なもので、6月以降は再び前年同月比がマイナスとなり、そのまま9月まで推移していた。
   それが10月に再びゼロ%になったのであるが、今度の場合は5月と異なり、一時的なものではない。11月以降もマイナスには戻らず、むしろ明年1月にかけて、ゼロ%からプラスに変わっていく可能性が高い。
   私はこの事を、既に本年7月20日付の『週刊東洋経済』の「論点」欄(100〜102頁)において、“量的緩和を解除し自縄自縛状態を解け”という論文で指摘しておいた(このHPの<論文・講演>欄に収録してあるので参照されたい)。

【10月から1月にかけて前年比はゼロ%から更にプラスになる】
   そこには次のように書いておいた。
   「消費者物価の足を引っ張り、前年比をマイナスにしているのは、公共料金と農水畜産物(除く生鮮食品)の下落である。公共料金では、昨年11月と本年1月の通信料金引下げが、消費者物価全体の前年比を0.1%ずつ引き下げた。農水畜産物(同)では、昨年10月の米価値下がりが、消費者物価全体を0.2%引き下げた。
   この二つの効果を合わせた合計0.4%が前年比マイナス幅から消えるのは、本年10月から明年1月の間である。現在(〈注〉5月)の消費者物価前年比がゼロ%であることを考えると、たとえ6月に再びマイナスになったとしても(〈注〉実際にマイナスとなった)10月以降にプラスに転じる可能性は十分考えられる」
   「本年度の成長率が01年度(−1.1%)や02年度(0.8%)のように低ければ無理であるが、03年度(2%)や04年度(1.9%)並みであれば、需給ギャップ面からもデフレ脱却の条件が出てくる」

【消費者物価プラスの背景に需給ギャップの縮小】
   本年7〜9月期までのGDP統計から判断すると、このHPの<最新コメント>“内需主導で本年度の経済成長率は2.5〜3.0%へ ─ 7〜9月期GDP統計の注目点”で詳しく述べたように、本年度の成長率は2.5%を超える可能性が高い。従って、需給ギャップは縮小を続け、需給面からも10〜1月に前年比プラスとなった消費者物価が、再び前年比マイナスに転じる可能性が薄いのである。
   そのことが、日本銀行の政策委員達によって確認されるのは、恐らく前年比のプラスが6ヶ月位持続した後であろう。つまり、来年の春頃ということになる。
   しかし、その前年比プラス幅が0.3%程度にとどまっていたのでは、本当にデフレを脱却したのかどうか、心もとない限りだという意見も出てくるであろう。やはりそこの所は、成長率と需給ギャップの見通し、海外商品市況の動向など広範な情報を用いて多角的に検討すべき事柄である。

【デフレ脱却の判断、ゼロ金利の解除は拙速に行うな】
   デフレ脱却の判断は拙速に行わない方がよい。金融政策としては、デフレを脱却したと確信できる迄、また人々がその日銀の判断を信用する迄、「ゼロ金利政策」を続けた方がよい。つまり、人々の予想インフレ率がプラスに転じる迄は、名目短期金利をゼロに保つ政策を続けた方がよいのである。
   そうしないと、折角始まった民間需要主導型の回復に金利面からブレーキが掛かるからだ。とくに、財政政策は歳出削減と定率減税打切りなどの増税で06年度は緊縮的になるので、民間需要主導型の回復を維持するポリシーミックスとして、金融の引締めは慎重でなければならない。

【量的緩和政策の縮小・解除とゼロ金利政策の継続は両立する】
   このように「ゼロ金利政策」の解除は拙速に行ってはならないが、しかし、そのことと「量的緩和政策」の解除とは別の話であることに注意しなければならない。この二つの区別を明確にしなければ、人々の認識に混乱が生じてしまう。
   「量的緩和政策」とは、準備預金制度の必要準備額(6兆円弱)を上回る余剰準備額を、日銀預金に積み上げる政策である。現在の日銀預金の目標残高は30~35兆円に達している。
   これは金融システム不安を防ぐ効果があったが、銀行貸出を刺激し、景気回復を促す効果は無かった。金融不安が去った今、インターバンク市場の機能消滅と日銀買オペへの過度の依存=流動性管理の自主性喪失というデメリットだけが残っている。
   30〜35兆円の日銀預金残高は徐々に6兆円に近付け、市場機能と流動性管理の自主性の回復を図るべきである。
   日銀預金を圧縮しても、6兆円を上回っている限り「ゼロ金利」は続く。
   この事を、日本銀行はもっと大きな声で国民に説明しなければならない。「ゼロ金利政策」と「量的緩和政策」は別である。「量的緩和政策」は縮小・解除に向かうべきであるが、「ゼロ金利政策」は拙速に解除してはならない。