年明け後の景気調整持続と下期の再上昇期待を裏付けた調査(H17.4.1)

─ 3月調査「日銀短観」の読み方 ─


【足許の調整は年明け後も続いているが長期的には調整完了の期待も】
   4月1日に発表された3月調査の「日銀短観」は、一部のマスコミやエコノミストの楽観的な見方とは異なり、昨年後半から始まった景気の調整局面が年明け後も続いていることを裏付けた。このため1日の株価はまず驚いて、値下がりして始まった。
   しかし大企業製造業は、この調整局面が深刻な景気後退につながるとは見ておらず、本年度下期には輸出の立直りを主因に緩やかな再上昇局面に入ると見ている。これに気付いたためか、1日の株価は途中から切り返し、前日比高値で引けた。
   国内の非製造業にはそのような回復再開の展望はないが、全産業ベースで長く続いたリストラがようやく終わり、雇用が増加し始めるという展望が出ている。本年度の設備投資(ソフトウェアを含み土地投資を除く)も、製造業、非製造業の双方で増勢を維持する計画である。また縮小を続けてきた金融機関の設備投資(同)が、いよいよ本年度から増加に転じる計画である。
   一口で言えば、足許の調整は続いているが、長期的には調整完了の期待をにじませた調査結果である。

【「業況判断」と「需給判断」は緩やかな景気後退を裏付けている】
   まず足許を見ると、製造業の「業況判断」DIは、12月調査に続き、3月調査でも各規模で「良い」超幅が縮小し、先行き6月も横這い(大企業)、更に縮小(中堅企業)ないし「悪い」超転落(中小企業)の予想となっている。
   他方、非製造業の「業況判断」DIは、大勢横這いで推移している。
   「業況判断」の背景にある「需給判断」、「製品在庫水準判断」、「価格判断」のDIを見ると、ここでも製造業は年明け後も悪化を続けている。他方、非製造業には大きな変化はない。
   以上のうち「業況判断」DI(製造業と非製造業)と「国内での製商品・サービス需給判断」DI(大企業製造業)をグラフに描くと、下記の図表1、図表2の通りである。昨年後半から年明け後の最近まで、製造業は一貫して悪化している。その形は、シャドウのついた過去の景気後退期と同じである。
   日本経済は、このHPの「月例景気見通し」(2月版3月版)で述べたように、明らかに緩やかな景気後退局面に入っている。





【05年度は下期の輸出回復を期待して小幅増収の予想】
   次にやや長期的な展望を見ると、05年度の売上高は、全規模全産業において、04年度よりも伸び率は低下するものの、増収の見通しとなっている。
   これを上期、下期に分けてみると、大企業製造業の輸出は、上期が前年同期比−0.5%の減少、下期は同+2.2%の増加と、はっきりと下期の回復を織込んでいる。他方国内の需要は、04年度下期(同+3.5%)、05年度上期(同+2.1%)、同下期(同+1.6%)と期を追って前年比伸び率が鈍化する予想となっている。その結果、全体としての増収率(全規模・全産業)は、輸出と国内が相殺し合い、上期と下期がほぼ同じ+1.4%と+1.3%となっている(04年度は+3.3%)。

【05年度は小幅の増収増益、利益率はバブル期のピーク並みを維持】
   このような売上高の動向を反映して、05年度の経常利益(全規模全産業)は、上期には輸出減少の影響を受ける大企業製造業の大幅減益を中心に、前年同期比−2.9%の減益となるものの、下期には同+9.3%の増益となる予想が出ている。この結果、05年度全体としては、全規模全産業ベースで+1.3%の小幅増益を確保する計画となっている(04年度は+3.3%の増益)。
   このような小幅の増収増益によって、売上高経常利益率(全規模全産業)は、05年度3.71%と前年度(3.64%)を僅かに上回る予想となっている。
   これをグラフに描いてみると下記の図表3の通りである。この売上高経常利益率(各規模の製造業と非製造業)の水準は、大企業の場合、1980年代後半のバブル期の水準に達していることが確認できる。



【調整局面は05年度上期に終わり下期は輸出主導型再回復の期待】
   以上から判断すると、企業は現在の緩やかな調整局面が05年度上期中に終わり、輸出の回復を主因に、下期は再び緩やかな景気回復局面に入ると見ているようである。
   輸出中心の再回復の主役は、IT調整の完了であろう。大企業製造業の電気機械の「業況判断」DIをみると、昨年12月調査の「良い」超11%ポイントから、本年3月調査の「悪い」超3%ポイントへ14%ポイントも悪化したが、先行きは再び「良い」超7%ポイントへ戻ると見ている。同じような最近の悪化と先行き急回復の予想は、自動車、精密機械など輸出関連業種にも見られる。
   従って、本年下期好転の企業予想は、この輸出見通しが当たるかどうかに懸かっていると言えよう。

【設備投資は輸出関連への偏りが消え全般的に上昇持続】
   下期好転に基づく小幅の増収増益と高水準の売上高経常利益率を前提に、企業は設備投資と雇用についても、05年度は前向きの計画を持っている。
   前述したように、05年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資額を除く)は、全産業ベースで大企業は前年度比+2.4%増加(前年度は同+6.8%増加)、中堅企業は同+4.3%増加(同+6.6%増加)、中小企業は同−8.4%減少(同+10.3%増加)となり、全体では+1.1%増加(同+7.3%増加)となっている。中小企業はこの時期の計画がマイナスであっても、計画が固まるにつれて上方修正されてくることを考えると、増加率はもう少し高めに見てよいであろう。
   業種別で見ると、04年度は輸出関連の多い製造業で+19.7%の増加(非製造業は+2.2%の増加)と輸出関連に偏っていたのに対して、05年度は製造業+2.1%の増加、非製造業+0.7%の増加とバランスがとれてきた。特に中堅企業では、非製造業の伸び(+5.3%)の方が製造業(+2.0%)よりも高い。
   業種別にもう一つ注目されるのは、金融機関である。不良債権の処理が進み、業態別の垣根を越えた再編が進み始めた金融界では、05年度の設備投資計画(同)が前年度比+8.9%の増加と04年度(同0.7%増加)を大きく上回っている。

【「雇用判断」は「不足」超へ、雇用者数は増加傾向】
   好調な企業収益を背景とするもう一つの注目すべき動きは雇用計画である。「雇用人員判断」DIは、全産業ベースで、中堅・中小企業で揃って「不足」超に転じ、大企業でも「過剰」超幅が縮小を続け(12月調査3%ポイント、3月調査1%ポイント)、先行きは「過剰」と「不足」がトントンの0%ポイントになる予想である。
   このような判断を背景に、現実の雇用者数も中小・中堅企業では既に増加に転じていたが、減少を続けていた大企業も、昨年12月末に前年比+0.1%と微増に転じた。このため全規模合計では、昨年6月末から前年比で増加に転じ、12月末は同+0.9%の増加となっている。

【緩やかな景気後退の後、景気は再上昇か】
   以上のように、本年3月調査の「日銀短観」は、「短期悲観、長期楽観」という面白い結果になった。「短期悲観」は、一部のマスコミやエコノミストの希望的観測を否定する客観的データである。このHPの「月例景気見通し」通り、現状は緩やかな景気後退局面にある。
   しかし、「長期楽観」は、高い企業収益率が、設備投資の持続と雇用の回復につながるという理想的な姿を描いている。ただしその根拠が、05年度下期の輸出急回復の期待であり、これが外れた時は「長期楽観」も大きく崩れることに注意する必要がある。
   景気変動は「山低ければ谷浅し」である。昨年中頃までの今回景気回復の山は低かっただけに、現在の景気後退の谷は浅いかも知れない。その代わり、本年下期以降の再回復も、緩やかな低い山となるのではないか。もし高くなるとすれば、雇用回復が国内需要の本格的な回復を呼び起こした場合であろうが、賃金の抑制状況から見て、今のところその可能性は薄い。