2005年2月版

─ 現状は緩やかな景気後退ではないのか ─

【今回の景気回復のピークは昨年7月頃の可能性がある】
   日本経済は昨年中頃に失速したあと、そのまま横這いを続けている。経済成長率(年率)は、昨年4〜6月期−0.6%、7〜9月期+0.2%のあと、以下に述べるように10〜12月期もほぼゼロ成長であったと見られる。昨年1年間のうちで一番高水準の実質GDPは、1〜3月期であったということになるかも知れない。そうであれば、その後の3四半期はマイナス成長期だ。
   景気動向指数の一致系列は、8、9、10月と3ヶ月連続して50%を割ったあと、11月は確報段階で50%を上回った。しかし12月は、現在判明している指標から判断して、再び50%を割ったようである(2月4日に発表された12月の一致系列は33.3%となり、予想通り50%割れ。先行系列は9,10,11,12月と4ヶ月連続して50%割れ)。
   一致系列が3ヶ月連続して50%を割ったあと、50%をはさんで上下する場合には、3ヶ月連続で50%を割った直前が景気の転換点である可能性が高い。今回の景気回復のピークは、昨年7月頃かも知れない。

【10〜12月期の生産は前期に続いて2四半期連続の低下】
   12月の鉱工業生産は、予測指数の前月比−0.9%の下落幅を上回る同−1.2%の低下となった。この結果、10〜12月期の平均は前期比−0.8%の減少となり、7〜9月期(同−0.7%)に続いて2四半期連続して生産水準は低下した(図表1参照)。
   本年1月と2月の予測指数は、前月比夫々+2.8%、−1.2%となっているが、実績が常に予測を下回る最近の傾向からみて、生産水準が上昇に転じるかどうかはまだ分からない。
   12月は出荷が前月比+0.7%の増加となり、在庫率が同−2.8%の低下となったが、これは電子部品・デバイスの在庫調整が進んだからではない。12月の電子部品・デバイスの在庫率は、前月比+4.7%の増加となり、前年比+63.5%の高水準である。IT部門からの生産調整圧力は、まだ当分続くであろう。
   12月の在庫率低下の主因は、自動車部門である。12月の輸送機械部門は、鋼材不足や工場火災の影響で自動車が減産を迫られたため、生産は前月比−3.0%の低下、出荷も同−0.9%の減少を余儀なくされ、在庫率は同−22.4%の急落となった。

【純輸出は2四半期連続で縮小、個人消費も10〜12月期は弱い】
   次に需要動向を見ると、10〜12月期の純輸出は、7〜9月期に続いて2四半期連続で成長の足を引張ったようだ。12月は実質輸出と実質輸入が夫々前月比−3.7%減、同−7.2%減と共にマイナスとなったが、10〜12月期を平均すると、実質輸出が前期比+1.3%増加したのに対し、実質輸入は同+2.6%の増加と伸び率が輸出を上回った。このため実質貿易収支は前期比−2.9%の減少となり、前期(同−6.1%減)に続いて縮小した(図表2参照)。純輸出リード型の景気回復が、始めに述べたように昨年中頃を境に終焉したことと符号している(図表3参照)。
   純輸出と並んで弱いのが個人消費である。12月の可処分所得(勤労者)は前年比−3.4%低下し、個人消費(同)も同−3.5%の低下となった。10〜12月期を平均しても、前年比夫々−1.1%、−1.4%の下落である。勤労者世帯の消費水準(図表2参照)も、12月は同−3.9%、10〜12月期は同−1.6%の低下である。小売販売額も11月と12月は前月比減少した。
   背景となる雇用の動きを見ると、12月の雇用者数は前年比−0.4%と14ヶ月振りにマイナスとなり、10〜12月平均の前年比も+0.1%とプラス幅を縮小した(図表2参照)。景気失速の影響が、遅行指標の雇用に響いて来たのかも知れない。10〜12月平均の名目賃金が前年比−0.2%の減少(図表2参照)であるから、[雇用者数×名目賃金=勤労者所得]も前年比−0,1%の減少となり、前述の可処分所得のマイナスと照応している。

【設備投資と住宅投資は増勢持続、公共投資は引続き減少傾向】
   10〜12月期の成長を下支えたのは設備投資である。12月の一般資本財出荷(図表2参照)は前年比+23.2%と再び大きく伸び、10〜12月期の平均も同+14.4%の増加となった。
   また10〜12月期の住宅投資も、新設住宅着工戸数が7〜9月期に前年比+9.8%と大きく伸びているので、増勢を維持したとみられる。ただ、住宅優遇税制が昨年末に期限切れとなり、10〜12月期の新設住宅着工は前年比ゼロ%に急落しているので(図表2参照)、本年は住宅投資が減勢に転じると見られる。
   なお公共投資は、公共工事請負額(図表2参照)から判断して、引続き減少している(図表3参照)。

【実質GDPが3四半期連続で横這いでも景気後退ではないのか】
   以上の生産動向や需要動向から判断すると、始めにも述べた通り、10〜12月期の前期比成長率は横這い圏内の動きであろう。
   純輸出、個人消費、公共投資が減少し、設備投資と住宅投資が増加すると見られる。注意する必要があるのは在庫投資である。鋼材不足などによる自動車の生産と在庫の減少が、原材料、仕掛品、製品、流通の各段階の在庫投資の思わぬ減少を招くと、成長率を下振れさせるかも知れない。
   いずれにせよ、10〜12月期で3四半期連続のゼロ成長近傍の動きとなる可能性が高いのである。政府はこれを「景気後退」と認めず、経済学的にはあいまいな「景気の足踏み」と言い続けるのであろうか。市場は政府よりも正直である。将来の平均的な長期名目成長率の予想を反映する長期金利(10年物国債の市場利回り)は、昨年7月頃は1.8%台であったが、その後ジリジリと低下し、秋以降は1.4%台、年明け後は1.3%台、ごく最近は1.3%を割った。市場の予想成長率は明らかに下方修正されている。