2005年3月版
─ 緩やかな景気後退局面、先行きは企業戦略次第 ─
【鉱工業生産は引続き弱含み横這い】
3四半期連続してマイナス成長を記録し、緩やかな景気後退に入った日本経済は、年明け後も調整局面を続けている。
1月の鉱工業生産は、予測指数の前月比+2.8%には及ばなかったものの、同+2.1%と比較的大幅な上昇となった。この結果、指数のレベルは102.1となり、生産が下落傾向に転じる前の昨年5月のピーク102.0にほぼ並んだ。
しかし、1月の生産増加は、前月の乗用車の生産が鋼材不足や工場火災の影響で減産を余儀なくされたことの反動増加による面が大きい。前月12月と1月の鉱工業生産の平均は101.1であり、2月と3月の予測指数も101.6(前月比−0.5%減)と100.6(同−1.0%減)である。これを描いた図表1を見れば分かるように、1〜3月の生産の推移は、引続き弱含み横這いの範囲内にある。
【電子部品・デバイスの生産調整はまだ続く】
2月と3月の実績が予測通りになるとすれば、1〜3月期は前期比+1.4%と3四半期振りの増加となるが、実績が予測を大きく下回り続けている最近の傾向から判断すれば、ほぼ横這いの結果に終わるのではないか。
生産調整の主因となっている電子部品・デバイス工業では、2月の生産も前年比−7.9%と抑制されているが、それでも1月の在庫率は前年比+45.9%の高水準にある。ひと頃の前年比+60%超の水準に比べれば在庫調整は進んでいるが、在庫を正常な水準に戻すための生産調整が完了する迄は、少なくともあと半年はかかるのではないか。
このような鉱工業生産の動向を反映して、景気動向指数の一致系列は、8、9、10月と3ヶ月連続して50%を割り込んで景気後退開始のシグナルを発したあと、11月以降は1ヶ月おきに50%を上回ったり下回ったりしている。まだ発表されていないが、1月は50%を上回る順番であろう。しかし先行系列の方は九月以降4ヶ月連続して50%を下回り続けており、こちらの意味するものの方が深刻である。
【1月の個人消費は増加したが持続性に疑問】
需要動向を見ると、1月は個人消費が久し振りに比較的確りした動きを示した。
1月の勤労者世帯の消費水準指数は、図表2の通り、前年比+2.6%となり、前月の同−3.9%から一転して大きく増加した。季節調整済みの前月比では、+8.1%の大幅増加である。販売統計を見ると、1月の小売業販売額(百貨店、スーパー、コンビニ)の前年比が+5.7%の増加と前月(同−0.8%)に比し大きく好転しているのが目立つ。
これは1月に入って急に冷え込んだため、冬物の衣料や暖房器具、燃油などの売れ行きが伸びたためである。勤労者世帯の1月の消費性向は、このため88.7%と昨年10〜12月平均の73.9%に比し急上昇した。1月の消費増加には所得増加の裏付けがなく、必ずしも持続性はない。
【設備投資は先行きを含め比較的確りした動き】
1月は設備投資も比較的確りしている。1月の一般資本財出荷は、図表2の通り、前年比+23.2%と高い伸びを維持した。これを季節調整指数でみると、前月比+7.6%、10〜12月平均比+16.1%の大幅な伸びとなる。
先行きを示す機械受注(除船舶・電力)は、図表2で示したように、このところ前年比増加率が縮小していたが、本年1〜3月期の見通しは前年比+17.5%と再び伸びを高める予想となっている。
もし実績がこの通りになれば、設備投資は本年7〜9月期頃までは増勢を維持し、成長を下支えることが期待される。
図表3を見れば明らかなように、昨年4〜6月期からの3四半期連続のマイナス成長は、公共投資の一貫した下落傾向に加え、最近2四半期は個人消費と純輸出が低下したためである。唯一これを下支えているのが、設備投資だ。
その意味で、設備投資の今後の動向が、経済全体の調整局面の深さと長さを決める一つの要因となろう。
【純輸出は1月も減少を続けている】
個人消費と並んでマイナス成長をひき起こした純輸出は、1月も減少を続けている。
1月の実質輸出は前月比+4.6%と、12月減少(同−3.7%)の反動もあって増加したが、実質輸出も同じく12月減少(同−7.1%)の反動で+7.7%の大幅増加となった。
このため1月の実質貿易収支は、前月比−5.1%の減少、10〜12月平均比−0.5%の減少である。純輸出は引続きマイナス成長の主因の一つである。
【好調な企業収益がどこへ向かうかで今後の調整の程度が決まる】
今後の日本経済を展望すると、好調な企業収益がどこに向かうかによって決まってくるであろう。
@ 雇用の増加・賃金の上昇に向かえば、01年から昨年04年まで毎年減り続けている雇用者報酬が05年には増加に転じ、個人消費の回復に持続性が出てくる。経済全体の調整局面は終わり、比較的早くプラス成長に転じ、景気は再上昇するであろう。
A 好調な企業収益が設備投資に向かえば、前述の通り現在の調整局面を浅くし、純輸出の回復を持って景気は緩やかに再上昇しよう。
B しかし、先行きの見通し難から、高収益が借入金返済や内部留保の蓄積に向かえば、現在の緩やかな調整局面がダラダラと続く可能性もある。
最近の若干の株価回復や長期金利の小幅な上昇は、@とAのシナリオに期待をかけているのかも知れないが、現時点では、この緩やかな景気後退がどうなるか、まだ早断は出来ない。