「日銀短観」は短期悲観・長期楽観 (『金融財政』2005.4.14号)

   年明け後、景気は再浮上し始めたという説が、一部のマスコミやエコノミストによって唱えられていたが、四月一日に公表された三月調査の「日銀短観」は、明確にこれを否定した。昨年中頃までの景気回復をリードしてきた製造業の「業況判断」「需給判断」「製品在庫水準判断」「価格判断」などのDIは、昨年の十二月調査に続き、三月調査でも悪化を続けている。他方非製造業のこれらのDIは、好転していない。
   景気動向指数の一致系列(改訂値)も、昨年九、十月に五〇%を下回ったあと、一ヶ月おきに五〇%ラインを上回ったり下回ったりしているが、二月は再び五〇%を割った。先行系列は、昨年九月から十二月まで四ヶ月連続で五〇%を下回ったあと、本年一月に五〇%を上回ったが、二月には再び五〇%を割った。
   以上から判断すると、昨年後半に失速した景気は、年明け後も緩やかな調整局面にあると判断するほかはないであろう。実質GDPも昨年一〜三月期がピークで、その後3四半期はこの水準よりも低下しているが、本年一〜三月期にこのピークに戻る保障はいまのところない。
   しかし、同じ三月調査の「日銀短観」は、景気がこのままズルズルと後退を続ける訳ではないという企業の見方を示していることも、見落してはならないであろう。
   大企業製造業は、国内売上高の前年同期比について、〇四年度下期三・五%、〇五年度上期二・一%、同下期一・六%と期を追って伸び率が鈍化すると見ているが、他方で輸出が〇五年度上期の〇・五%減から、下期には一転してニ・ニ%増に回復すると見ている。これを主因に、全規模全産業ベースの〇五年度増収率は、国内と輸出が相殺し合い、上期一・四%、下期一・三%とほぼ同じ伸びを維持する。その結果、〇五年度の経常利益も、一・三%の小幅増益を確保し、四年連続の増益となる計画である。これによって大企業の場合は、売上高経常利益率が〇四年度に続いてバブル期のピーク並みの水準を維持することになる。
   このような楽観的な計画の根拠は何であろうか。一つは明らかに下期の輸出回復予想である。これは中国や米国の順調な成長と世界的なIT調整の完了が前提になっている。因みに大企業製造業の電気機械は、「業況判断」DIが昨年十二月調査の「良い」超一一%ポイントから本年三月調査の「悪い」超三%ポイントへ一四%ポイントも悪化したあと、先行きは再び「良い」超七%ポイントに戻ると見ている。同じような最近の悪化と先行きの急回復の予想は、自動車、精密機械などの輸出関連業種に見られる。果してこのような輸出立直りによる業績急回復があるのか、今後十分に注意して見て行かなければならない。
   楽観的計画のもう一つの根拠は、企業の長期にわたる自主的な経営改革の努力が、本格的に実ってきたことであろう。小幅な増収でも増益を確保し、高い売上高経常利益率を維持できるのはその一つである。
   この利益に支えられ、〇五年度の設備投資(ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、三月調査時点で早くもプラスである。輸出関連の伸びは鈍化するが、製造業と非製造業のバランスがよくとれて伸びる。またリストラが完了し、「雇用人員判断」DIが「不足」超に変わり、雇用者数も増加に転じた。
   企業の利益がこのようにして内需に向ってくれば、景気の下期再浮上は本物になるが、果してどうなるであろうか。