参院選後の政局と民主党の課題(H19.7.30)
【衆議院は与党多数、参議院は野党多数の場合の国会運営のルール】
今回の参院選の結果、参議院では民主党が第一党(109名)となり、これを中心に、野党・他は合計139名に達して多数を制し、自公の与党は102名の少数派に転落した。たとえ自民、公明両党が統一会派を組んでも、民主党一党の数にも及ばないので、民主党が参議院議長と多数の委員長ポストを握り、参議院の運営をリードするであろう。他方、衆議院では引続き与党が3分の2の多数を占めて、運営を支配している。このように衆参両院がネジレた国会で、これからの日本の政治はどのように動いて行くであろうか。
与野党の賛否が対立している法案については、衆議院で可決された政府・与党提出の法案は、参議院で否決され、参議院で可決された野党提出の法案は、衆議院で否決される。いずれも法律として成立しないことになる。
但し、例外が二つある。
予算の議決と条約の承認については、憲法第60条と第61条により、衆議院の採決が国会の議決となる。また、参議院で否決された法案を衆議院が3分の2以上の賛成で再度可決すると、法律として成立する(同58条)。
【野党は衆議院で可決された反対法案の参議院審議を遅らせる】
以上のルールを前提に、与野党はどのような戦略と戦術を採るであろうか。
野党は、どうしても成立させたくない政府・与党提出の対立法案が衆議院から参議院に送られてきた時に、さまざまの戦術(「吊るし」たまま審議に入らない、あるいは審議に入っても延々と時間をかける)を用いて議決をせず、審議未了で廃案に追い込む戦略をとるであろう。
もっとも、憲法第59条の規定により、衆議院で可決した法案を参議院が60日以内に議決しない場合は、衆議院は参議院がその法案を否決したとみなすことが出来る。この場合、衆議院はその法案を3分の2以上で再度可決すれば、法律として成立させることが出来る。
このようなケースでは、野党が反対する法案を与党が成立させるためには、参議院に送付した後60日以上かかるので、成立までにこれまでになく長い時間がかかる。予算関連の「日切れ法案」が年度末までに成立せず、予算の執行に支障をきたすことも起り得る。
また、国会の会期末まで60日を切った段階で参議院に送付された法案は、審議未了で廃案になる危険性が高い。従って、通常2〜3か月の会期で開かれる秋の臨時国会(今回参院選後の国会も同じ)では、野党の反対する法案は2か月の会期では成立せず、3か月の会期でも始めの1か月以内に衆議院で可決して参議院に送付しておかないと成立しない可能性が高い。さし当り本年10月末に期限切れとなるテロ特措法などが大問題になるであろう。
【与党は「一本釣り」で参議院の多数派工作を強化する】
そこで与党は、次のような戦略、戦術をとるのではないか。
まず大方針として、参議院の野党を切り崩す多数派工作をするだろう。おいしい条件を出して自民党に移ることを勧める「一本釣り」である。法案ごとに政府・与党案に賛成の野党議員を探し出して切り崩し工作を行い、「一本釣り」につなげようとするであろう。もっとも、参議院で与党が多数となるためには、最低19名の「一本釣り」が必要であり、容易ではあるまい。
また戦略的に、国政の運営に支障をきたす「何でも反対」の「無責任野党」と吹聴し、国民の支持を与党に引き付けようとするであろう。
戦術的には衆議院の審議を早めて、参議院への法案送付の時期を早めるであろうが、野党が抵抗するので、衆議院は混乱するであろう。
どうしても速く成立させたい重要法案については、与党が野党に協議を申し入れ、98年の「金融再生法案」の時のように、野党案をほとんど「丸呑み」して(実際は自民党案の内容を巧妙に組み込んで)、修正案を作ろうとするかも知れない。
【民主党議員は「小異を残して大道につく」態度で結束できるか】
以上のような与党、とくに自民党の戦略、戦術に対して、野党、とくに民主党はどのように対応すべきであろうか。
まず守りとしては、何よりも結束を固めることである。今回の参院選で、折角国民の支持を得て実現した参議院の多数を、絶対に維持しなければならない。とくに、野党、あるいは民主党の中で意見の割れている対立法案について、野党間や党内の議論はつくしても、一度決った決定に造反する議員を出さないようにすることが大切である。そこで隙を見せれば、自民党の多数派工作に乘ぜられるであろう。
国民が支持した「生活が第一」の政治を行うために、政権交替を実現するという「大道」を最優先し、個々の法案についての若干の意見の違いという「小異」は残して、民主党議員は結束して進まなければならない。それが民主党を参議院の第1党にした国民の付託に応える道である。
【民主党は対立法案を参議院で可決し衆議院にどんどん送り込め】
次に民主党は、対立法案について単に政府・与党案を参議院で否決するだけではなく、積極的に民主党の案を参議院に提出して可決し、衆議院に送り込むべきだ。それによって、国民は政府・与党案と民主党案のどちらが国民のためになるのかを判断することができる。何でも反対の無責任野党ではないことも示せる。
衆議院で民主党案が否決されても、国民が政府・与党案と民主党案を比較できるので、民主党案の支持が多ければ、その動きが世論調査に反映される。与党も簡単には否決できなくなる。その積み重ねによって、衆議院の解散、総選挙を求める世論を高め、政府・与党を解散、総選挙に追い込むことも出来よう。
これを政権交替を実現する民主党の基本戦略とすべきである。その成否は、民主党の政策立案能力、政権担当能力など本当の実力を、国民がどう見るかに懸かっている。
【将来ビジョンとマクロ経済の裏付けで民主党政権に対する国民の安心感は高まる】
今回の参院選において、「あなたの生活より大事なものはない」、「国民の生活が第一」「政治とは生活だ」という小沢代表の言葉は、格差に悩む国民の心を打った。これは1年半前に私がこのHPで主張した事(<政治評論>“格差拡大と生活リスク増大に対し原理・原則をふまえた体系的批判をせよ”H18.2.14)と同じである。小沢代表はもともとそう考えていた筈であり、その考え方で民主党を指導し、今回の選挙を推進されたことは、大変嬉しいことである。次の総選挙で政権交替を実現するためには、これを更に裏打ちする将来ビジョンとマクロ経済政策を示さなければならないと思う。
国会の党首討論や参議院に提出する民主党法案などを通じて、民主党政権は、「どういう日本を創ろうとしているのか」という大きなビジョンを示し、その時国民生活とそれを裏付ける日本経済はどのような姿になるのかを、政策と共に具体的に示さなければならない。年金制度についても、民主党案と現行制度をつなげる過渡期の姿を分り易く示し、根拠のない国民の疑念や不安を解消しなければならない。
将来のビジョンと政策が自民党より優れていると国民が判断した時、国民の衆議院解散の声は高まり、総選挙で民主党が勝利する日が近づくであろう。