国民の熱狂が招いた4年間の自民独裁(H17.9.14)


─第44回総選挙の総括─

【自公は衆議院の3分の2を制し、参議院を無視してどんな法律でも作れる】
   第44回衆議院議員選挙は、殆ど誰も予想していなかった程の自民党圧勝で終わった。朝日新聞の調査では、55%の人がこの結果に驚いたと言っている。
   自民党は自らの296議席だけで絶対安定多数(常任委員長を独占しても各委員会で多数となる269議席)を大きく上回った。その上、公明党の議席31を加えると、全議席の3分の2(320議席)を超える327議席に達する。
   憲法第59条によると、衆議院で可決された法案が参議院で否決ないし修正されても、衆議院の3分の2以上の賛成で当初案が再び可決されれば法律になる。従って、今や自公政権は、その気になれば参議院の意向を無視して、どんな法律でも作れる。事実上参議院が無くなって、一院制になったようなものだ。

【自民の得票率を上回る議席数は小選挙区制の特性】
   このような驚くべき圧勝は、言うまでもなく、480議席のうちの300議席が小選挙区制だから実現した。今回の場合、自民党の得票率は47.8%であるにも拘らず、全議席300のうち73.0%に当たる219議席を獲得した。逆に民主党は、得票率36.4%で17.3%に当たる52議席しか得られなかった。
   このような小選挙区制の下では、得票率の少ない小政党は1議席も得られないので、2大政党制が進むことになる。もともと、そのような2大政党制の下で、政権交替可能な議会制民主主義を目指して、この小選挙区制は導入されたのである。
   導入以来4回目の選挙で、2大政党制は進んだが、その結果は政権交替ではなく、万年政権政党自民党の圧勝という答が出てしまった。

【民主から改革政党のお株を奪った小泉首相】
   何故、自民党は民主党に圧勝したのであろうか。
   朝日新聞の調査によると、自民党の勝因は「小泉首相」にあるという回答が58%に達し、民主党の敗因は「党に責任」という回答が49%で一番多かった(「岡田代表」という答は24%)。つまり「小泉劇場」の仕立てが民主党を圧倒したのである。
   小泉首相は、郵政民営化の是非を問う国民投票という仕立てで、「改革する自民党、改革に反対する民主党」という演出に成功した。スローガンも、自民党が「改革を止めるな」であり、民主党が「日本をあきらめない」である。これでは勝負にならない。
   国民は小泉首相の決断力、行動力、指導力、力強さ、頑張り抜く姿勢に興奮した。派閥のリーダーが密室で合意する従来の自民党の意思決定過程とは異なり、総理・総裁が引張って行く意思決定過程に新鮮な爽快感を覚えたのである(このHPの<論文・講演>「民主主義のモデル・チェンジ(『金融財政』2005.9.1号)」参照)。

【山積する内外の課題を事実上自民党に白紙委任した結果になる】
   ところが、各新聞の調査によると、これで自民党が変わると思っている人は少数である。小泉首相個人に喝采しただけで、自民党が変わるとは思っていないのだ。
   自民党はこれだけの絶対安定多数を得たのであるから衆議院の解散を好まず、今後4年間、自公でどんな法律でも作れる状態を続けるであろう。しかも小泉首相は、来年9月に引退すると言っている。そうなると、残りの3年間は、国民が変わらないと思っている自民党が何でもやれることになる。
   それと言うのも、国民が郵政民営化の是非だけに注意を奪われ、内外に山積する他の重要課題については、事実上、自民党に白紙委任するような選挙結果を出したからである。

【日本の軍閥支配もヒットラーの独裁も議会で多数を制したところから始まった】
   93歳になるあるお年寄りが、「まるで太平洋戦争に向かっていった時のようだ」と言ったのには大きなショックを受けた。ほかにも、私の周りでは何人かの人が同じような事を言っている。確かに、日本の軍閥支配も、ドイツのヒットラー独裁も、初めは総選挙で多数を占めたことから始まり、総てを白紙委任されたように次々と法律を作ることによって確立したのである。
   早くも政府税調は、小泉首相が引退する来年秋を目途に、サラリーマンの所得増税と消費税引上げの議論を再開し、自公両党との話し合いを始めると言う。
   年金改革も、4割が保険料未納の国民年金の破綻には手をつけず、厚生・共済の一元化に着手すると言う。
   せっかく国内需要が立直りの兆しを見せ、年末にはデフレを脱却するかも知れない所まで来た日本経済も、今後4年間の自民党政権の下で保険料引上げ・サラリーマン増税・年金給付引下げが続くと、持続的成長はおぼつかないかも知れない。もしそうなれば、国民の「身から出た錆」と言うほかはない。