「子育て支援」の小泉自民党案と民主党案を比較する(H17.8.22)


─総選挙の争点[その3] ─

【妊娠・出産費用50万円に対し現在の出産・育児一時金は30万円】
   若い人が子供を産み、育てることが経済的、社会的に難しくなっているため、日本の出生率が年々低下しており、間もなく日本の人口は減り始める。
   小泉自民党政権は、この傾向を止めるため、いくつかの対策を行ってきた。今回は、子育て支援のため、これまで小泉自民党政権が打ってきた対策と、民主党がマニフェストの中で、政権を取ったら直ちに実行すると約束している子育て支援策を比較してみよう。
   現在、妊娠・出産の費用は、厚労省調べで約50万円かかるが、これは医療保険の対象にならない。小泉政権は、出産・育児一時金を30万円交付することにしているので、現在、妊娠・出産費用の自己負担は差引き約20万円である。これは、平均的な若い夫婦にとっては、かなりの負担であり、子供を持つことをためらう一つの理由になっている。

【小学校4年生から中学校3年生まで現在は何の支援措置もない】
   次に育児については、小学校3年生まで、第1、2子は月5千円、第3子以下は月1万円の児童手当が支給される。
   その後16歳から22歳まで(高校生・大学生に相当)の子供については、所得税の課税所得を計算する際、一般の扶養控除(38万円)よりも25万円多い特定扶養控除(63万円)が適用される。差引き25万円に限界税率(10〜37%)を乗じた額(2.5〜9.25万円)が支援額である。
   以上の現行制度には、少なくとも三つの問題点がある。
   第1に、小学校4年生から中学3年生までは、義務教育期間であるにも拘らず、何の育児支援措置もない。
   第2に、小学校3年生までの月5〜10千円の児童手当ては、実際の育児費用に比べて少な過ぎる。
   第3に、特定扶養控除は課税最低所得に達しない低所得層には、何の効果も及ぼさない。

【1歳児になる迄の育児休暇制度と保育所の不足】
   実際の育児において困難な問題は、費用の負担だけではなく、核家族化が進んでいる今日、誰が幼児の面倒をみるかという問題である。
   現在の育児休暇制度の対象は、原則1歳になるまでであるから、共働きの夫婦の場合、1歳児以上の子供の面倒を誰がみるか、その制度的保証が日本の社会に存在していない。
   そこで不安があっても保育所に預けることになるが、現在保育所入所を待つ待機児童の数は全国で2万5千人居ると言われている。このことから分かるように、保育所の数が不足している。
   幼稚園は比較的多いが、この幼稚園が保育所を兼営する幼保一体化は禁止されている。幼稚園を所轄する文科省と保育所を所管する厚労省の縄張り意識が障害となっているからである。
   働く女性が子供を持つことをためらう大きな理由は、この保育所の不備である。

【妊娠・出産費用50万円を全額国がみる民主党案】
   以上の現行制度に対して、民主党はマニフェストの中で次の育児支援策を公約している。
   まず、妊娠・出産費用については、現行の出産・育児一時金30万円に対し、更に出産助成金20万円を追加し、妊娠・出産費用の自己負担をゼロにする。
   次に育児費用の支援については、所得水準にかかわらず、義務教育終了年齢(中学3年生)まで、一人当たり月1万6千円の「子供手当て」を支給する(年19万2千円)。
   また同じく義務教育終了年齢まで、医療の自己負担を1割(現行3割の3分の1)に軽減する。

【義務教育終了まで手厚い育児支援をする民主党案】
   この民主党案は、前述した現行制度の三つの問題点、即ち、小学校4年生から中学3年生までの育児支援措置が途切れる、育児手当ての金額が少な過ぎる、低所得層に効果が及ばない、を一挙に解決する。
   この子供手当て創設の財源としては、広範な歳出の見直しによって浮く財源を充てる(後述“財政再建─総選挙の争点(その4)”参照)。現行制度が専業主婦、高校生・大学生の子供を優遇しているのを見直し、義務教育終了までの子供を育てる共働きの若い夫婦を優遇しようという政策思想がその背景にある。

【共働き夫婦の育児支援に集中する民主党案】
   民主党案では、育児休暇制度について、希望すれば5歳児(小学校入学前)まで延長することが出来るようにする。
   しかし、もっと大切なのは、育児施設の拡充である。現在1万4千ヶ所で行われている保育を4年間で2万ヶ所増やし、待機児童を解消することを民主党は公約している。
   その際民主党は、幼保一体化を解禁し、また父母の就業実態に合わせた保育時間の延長をするとしている。
   以上の民主党案は、現行の子育て支援制度を大きく改善するものであるが、それが実行可能であるのは、税制という歳入側と手当てという歳出側を一体化し、また省庁の縦割りの壁を壊して、一つの戦略を貫いているからである。それは、専業主婦と高校生・大学生を優遇するよりも、共働き夫婦の義務教育終了までの育児を支援することを最優先にするという政策思想である。
   国民は、よくこの点を考え、小泉自民党の現行制度と民主党の育児支援制度のどちらが望ましいか、選択して欲しいと思う。