予算委員会にも健全な政策論争がある(H17.2.28)


─2月3日の中塚一宏委員(民主党)の質疑─

【持続的成長と経済政策の関係を正面から取り上げた質疑】
   国会が与野党間の揚げ足取りに終始し、国民の期待する政策論争が聞かれないという政治記者の解説をよく目にし、耳にする。しかし、去る2月3日の衆議院予算委員会における中塚一宏(民主党)委員と竹中大臣、福井日銀総裁との間の質疑応答は、国民が知りたがっている景気判断と政策方向について、極めて興味深い内容を含んでおり、質の高い討論であった。
   この日の予算委員会は、終日、NHKで放映されたので、マスコミがこの質疑応答のエッセンスをどう報道するか楽しみにしていた。しかしその日の夜のTVニュースも翌日の新聞も、この中塚─竹中・福井論争を一言も報道しなかった。
   これを見る限り、低調なのは国会の政策論争ではなく、それを報道しない(できない?)マスコミの側ではないかと思わざるをえない。

【私の論文「日本経済は失速した」を素材に議論を展開】
   中塚委員の質疑に興味を持って始めからTV中継を観ていたのは、個人的な理由もあったからである。
   彼は私の論文「日本経済は失速した」(『週刊東洋経済』05年1月8日号)の2枚のグラフを参考資料として委員会に提出し、それに基づいて質疑を進めることについて、予め私に連絡していた。
   中塚委員は私の論文の内容を完全にそしゃくし、それを素材に使いながら、自分の意見を展開した。頼もしい若手議員である。
   この政策論争に一人でも多くの国民が目を通すことを期待し、以下にその抜粋を掲載する。


○中塚委員
   総理初め政府は、景気が回復をしているということを盛んに言われる。でも、ちまたで景気が回復しているなんて言われると、本当にもうぶっ飛ばされそうな感じですね。
   では、何で景気の回復というのが実感できないのか。
   今、皆さんのお手元に資料をお配りいたしております。まず、この1枚目の資料、図1は企業の経常利益を上のグラフにとってある。そして、下の方に雇用者の報酬をグラフにとってあります。(注:私の論文の図1「企業収益と勤労者所得の乖離」。)
   これを見ていただいてもうお分かりの通り、確かに企業の経常利益というのはすさまじい勢いで回復しているんですね。バブル期の頃よりも収益は改善をしていて、利益がすごく上がっているんです。ところが、他方、下の方は、雇用者の報酬はどんどんどんどんと減り続けてしまっているわけなんですね。ここにまさに、景気が回復をしていると幾ら言ったって実感をできない一番の原因というものがあるわけなんです。
   まず、総理にお伺いをいたしますが、このグラフをご覧になって、どういうご感想をお持ちになりますか。

○小泉内閣総理大臣
   確かに、このグラフを見ますと、企業収益の改善は著しい、しかし一方、雇用者の所得はそうでもない。これは、感想はどうかと言われますが、私は、これだけ企業の業績を上げて利益が出た企業は、でき得ればもっと雇用者に対して配慮していただきたいですね。従業員がよく働いたからこれだけの業績が上がっていると私は思うんですよ。お前頑張ったな、給料も上げてやろう、そういう配慮があってもいいんじゃないかと思いますね。

○中塚委員
   企業は、はっきり言って、手元にお金を残さなければいけない理由というのがあるわけですね。だから、そこを、要は政策的にどういう風にアシストしていけるのかというのが一番大切なポイントになるわけなんですね。だから、総理の意見として、儲かっているんだから給料を増やしてやれ、個人としておっしゃるのは確かにそうなんですが、それは総理大臣としておっしゃるという事とはちょっと違う。
   企業は利益を上げても、要は所得は増えていない。実は、この事が自律的な景気回復軌道に日本経済が乗るという事を妨げているわけなんですよ。
   総理にお伺いしたいんですが、自律的に景気が回復をするというのは一体どういう事なのか、どういうご理解をされているのか、お答えいただけますか。

○小泉内閣総理大臣
   小泉が総理をやっているとますます景気が悪くなる、失業者は増える、倒産件数は増える、不良債権はどんどん増えていくと言われました。しかし、今、経済指標が良くなっているという事に対しては、皆さん、何も言ってくれないんですよね。
   この傾向は、政府が今までみたいに財政出動をして国債を増発して、公共事業をどんどん増やしなさいといって景気が回復したんじゃないんです。企業が自発的に創意工夫を発揮して努力してくれたからこそ、いわゆる政府が目標としている民間需要主導の回復軌道に乗ってきているなと。
   これを更に持続的な回復過程に持っていくようにしていこうというのが大事な局面ではないかなと思っております。

○中塚委員
   私がお尋ねしたのは、景気回復という事と自律的な景気回復軌道という事の違い。景気回復と自律的な景気回復軌道というのは違う、それが切れているという事をお話をしたいという風に思っているわけです。
   大事な事は、企業が利益を上げる、その上がった利益というのが雇用者の所得に乗っかる。雇用者の所得に乗っかって今度は消費が増える。消費が増えれば、今GDPの6割は消費なんですね。消費が拡大する事によってGDPが拡大をする。GDPが拡大をしたら、今度は更にそれによって企業収益が改善をする。これが、いわゆる自律的な景気回復軌道、内需主導の景気回復軌道という事になるわけなんです。
   ところが、過去の景気回復と今回を比べると、極端に純輸出に偏っているんですね。だから、純輸出が昨年にマイナスになった瞬間に、景気はもう失速している。総理は踊り場だという風におっしゃるが、現実問題として、やはり景気はもう今失速をしてしまっているわけなんです。結局、景気の好循環の輪というのが切れているんですね。
   輸出リード型の今回の回復が、要は内需に結び付いていないという事がこのグラフからお分かり頂けるという風に思うんですが、いかがでしょうか。

○竹中国務大臣
   まず最初に、中塚委員がお示しになっているグラフで、企業収益は増えているけれども、雇用者の報酬は増えていないではないか、これはまさに事実でございます。
   今まで、平均的に見ますと、これは労働分配率、資本分配率といいますが、3分の2くらいが労働者の取り分であった。これが90年代を通してどうなったかと言うと、3分の2から4分の3まで高まったんです。その後、ようやく近年になって、これが修正に向いつつあって、今ちょうど半分くらいまで修正されている。
   その過程で、当然、この期間だけとると、企業の収益は増えるけれども、労働者の所得はあまり増えないな。これは、しかし、やらなければいけない調整ですから、しっかりと、それぞれ痛みを分け合って、甘受しなければいけない。しかし、いいところまで来たんです。
   雇用者報酬も、16年度ようやくプラスに転じるという事に見込まれておりまして、17年度は更にそのプラスが増えるという事でございますので、今おっしゃるように、まさにそれが自律的な回復軌道に今乗せる非常に重要なポイント、私は乗りつつあるという風に思っております。(注:2月16日に発表された統計によると、16歴年の雇用者報酬は前年比マイナス0.8%と減り続けている。)

○中塚委員
   雇用者の報酬が増えていない。これで自律的な経済回復軌道に乗れるんですかという事をお尋ねしているんであって、その増えている理由と減っている理由をお伺いしているわけではないんですよ。
   次に、消費のお話をしたいと思うんですが、所得が増えていないんですから、消費の伸びに根拠がないという事なんですね。そんな中で、やはり貯蓄率がどんどんどんどんと低下をしてしまっているという事。これをこの下の方のグラフにあらわしてみました。(注:私の論文の図2「年齢階層別の貯蓄率の推移」。)
   要は、収入が増えないものだから、みんな貯蓄を取り崩しながら消費をしているという事がこの下のグラフを見て頂ければよくお分かり頂けると思う。総理、その下のグラフの方もご覧頂いてよろしいですか。お休みになっていないで見て頂きたいんですが。
   要は、貯蓄率の推移というのを見て頂ければ、60歳以上の方はどんどんどんどんと貯蓄を取り崩しているんですね。そして、もう一つ、30歳〜39歳、若い人ほど貯蓄をしたいという風に考えていらっしゃる。
   ところが、収入というのは減ってくる、それに加えて社会保険料も上がる、また税金も上がるという事になっていて、この貯蓄増加というのも今限界に突き当たりつつあるんですね。だから、消費が伸びていると言ったって、所得が伸びていないわけだから、その消費自体に根拠がない。経済回復のエンジンであった純輸出というものが、これがマイナスになった途端に、消費にも今陰りが見え出しているという事なんですよ。
   いかがですか、ここまでで。

○竹中国務大臣
   繰り返し申しますが、雇用者報酬というのはようやく増え始めた。この雇用者報酬が更に16年度から17年度にかけて増えるというような状況にあると思っておりますので、その中でまず、消費全体、所得全体がしっかりと増えていくような環境が整いつつあると思っております。
   それともう一つ、貯蓄率の低下が急激に起きている基本的な要因は、やはり高齢化が進んでいるからであるという事だと思います。60歳以上、その中で更に80歳以上とかの高齢者が増えていきますから、その意味では、ここで貯蓄率がどんどん下がっていくというのは、これは重要な理由であると思います。

○中塚委員
   私は、消費との関連で貯蓄の話をしているんですね。要は、収入が増えない中で消費が伸びているとおっしゃるが、これを見てお分かりの通り、貯蓄率は下がっていますね。その一方で、若い人達は、やはり将来に備えて貯めにゃいかぬという風にお考えになっている方が、これを見れば多いという事がお分かり頂けるという事なんです。
   そして次に設備投資のお話をしたいと思うんですが、設備投資は伸びています。伸びていますけれども、過去2回に比べるとそれは大変に弱い。
   それはなぜかと言えば、やはりこれは輸出関連の設備投資しかないからなんですね。結局、人件費を抑制して、そしれ収益が上がってきた。その上がった収益で過去の借金を返している、あるいは非効率な設備を廃棄している。不動産の損切り、そういう事をやっている。それをやっているんだけれども、ただ、ではその余ったお金を全額設備投資に使っているかというと、全然そういう事ではない。設備投資はやはり輸出関連という事に偏ってしまっているわけなんです。
   今日、日本銀行の総裁にもお越しを頂いておりますが、全国銀行貸出だってずっとマイナスなわけなんですよ。
   要は、企業は確かに儲かっている。手元に資金もある。設備投資はやっていないわけじゃないけれども、輸出関連だけだから、過去2回の景気回復に比べて設備投資は弱くなってしまっている。そして、なおかつ、銀行から金を借りてまで設備投資をしようという風には考えていないという事、これが大変大きな問題なわけなんです。
   この設備投資の問題と、そして銀行貸出の問題について、日本銀行の総裁、いかがですか。

○福井参考人
   お答えを申し上げます。
   ただいま委員のご質問の中で、設備投資が昔と少し姿が違うではないか、それから銀行借り入れがまだ減っているではないか、それから賃金の状況、なかなか雇用者報酬にうまく還元されていないじゃないか、三つの事をご指摘なさいました。民間部門の構造改革がいままさに想定通り進んでいるという事をあらわしていると私は思っております。
   設備投資も、過去のような高度成長期時代のように、大量生産、大量販売を図る為に猛烈な投資を銀行借り入れをして行うという時代から、企業ははっきり投資の対象を、焦点を絞って付加価値創造力の強い投資をしようという風に的を絞っているという事がそこにあらわれていると思います。したがいまして、借金によって、レバレッジをきかせて投資をするという事は企業はもう今後はしなくなっている。
   それから、過剰雇用の調整の一環として賃金レベルの修正という事はもうかなり今速いテンポで進めております。私の見ておりますところ、雇用者所得もようやく下げ止まってきた、これから上昇に向かう可能性が強いと言える段階まで今来たという事でございまして、民間部門の構造調整は非常に順調に進んでいる、もう少しガマンして我々緩和政策を続ければ景気回復軌道に乗せていける確信があるという風に思っております。

○中塚委員
   企業が利益を上げても、だからそれを賃金に転化できないという一番の原因は、要はやはり手元に資金を置いておきたいわけですね。何で資金を置いておきたいかといえば、やはりそれは過去に対する借金の返済というのもあるでしょう。もう一つは、やはり景気の先行きというものに企業だって自信が持てないという事ですよ。
   これから企業は資金需要がないようなお話をされました。要は、企業は銀行から借りて設備投資までする事はないんじゃないかという事をおっしゃいましたが、でも、ちまたではそんな事は決して無いですよ。やはり、貸してほしいんだけれども貸してくれないという声の方が圧倒的に多いんですね。
   大体政治の世界や経済の世界で言うところの中小企業というのは、私らが選挙区で回った時には中堅企業なんです。私達が普段会うというのはほとんど統計の中にもあらわれてこないような人がほとんどなんですね。そういった零細企業のようなところでは銀行の貸し出しが伸びてこないというのは、設備投資に、増えてはいるが勢いがないという事をあらわしているという風に私は思います。
   問題は、色々な、景気が良くなってきているんだという風に具体的に皆さんのおっしゃる指標に全然相関関係がない。企業の収益が上がったって雇用者の所得は上がっていませんね、設備投資が増えているとはいうものの輸出関連に偏っているじゃないですか、しかも、銀行から金を借りてまで設備投資しようという会社は無いじゃないですか、だからこそ、自律的な景気回復の軌道にはまだ至っていないんじゃないですかと。
   加えて、その自律的景気回復軌道に、景気の回復の端緒であった輸出というものが今大変に弱含んでしまっている。だから、私は、景気は踊り場じゃなくて失速をしたんだという事を申し上げているわけなんです。
   そんな中で、やっちゃいかぬ事というのは、何といったってやはり国民負担なんですね、国民負担を増やしていくという事なわけなんです。やはり、4年の10月以降、17年までずっと年金の保険料が上がっていく、年金の給付もどんどんと下がっていく事になるでしょう。また5年以降、今年の国会では介護保険料の引き上げというものも議論になってくる、所得税ではもう4年に配偶者特別控除の上乗せ部分の廃止をやった、老年者控除の廃止もした、そして公的年金控除の上乗せ部分というものもなくした。
   こういった事で、色々な負担増というものは増えてくる。所得が増えていかない中で所得に対して課税を強化するということ、これはやはり今行うべき政策ではないんじゃないのかという事なんですね。いかがですか。

○谷垣国務大臣
   今おっしゃった事は、一つ一つ個々の事で言って頂くとやはり違うんだと思うんです。全体をやはり見て頂く。
   例えば、年金課税の見直し等というような事もございました。これは、それだけをとれば負担増でありますけれども、年金の、3分の1から2分の1という事で国庫負担を増やしていこうという事で年金に対する安心につなげていこう、そういう中で年金の支給額も年々増大している、こういう形があるわけでございます。それから、例えば配偶者控除の見直し等も、これは当然、女性の、主婦の雇用、雇用といいますか仕事を持っているというのが進んできた結果でもございますけれども、それを廃止したかわりに少子化対策をやっていこうというような全体で見て頂かなきゃなりません。
   それから、多分、今おっしゃった中に定率減税をどうして圧縮していくのかという事もあろうかと思いますが、定率減税、これは段階的に私はやっていく必要があると考えているわけですが、平成17年度では1850億円ほどのいわば負担をお願いするという事でありますが、44兆の税収の中で1850億。それから他にも増減がありますので、全体では1700億をちょっと切る程度の負担増でございますので、先ほど竹中大臣あるいは日銀総裁からご答弁したような経済の認識を踏まえますと、私は、今委員がおっしゃるような、失速とおっしゃいましたけれども、委員のご議論は大変いい議論でしたけれども、失速というところは私はちょっと当たらないんではないかと思っております。

○中塚委員
   それは、失速したなんて言ったら定率減税の縮減なんかできませんからね。それはもう皆さんは、景気は回復をしているという前提で定率減税を縮減する、廃止するという事をおっしゃっているわけだから、それは皆さんは、失速したとは口が裂けても言えないと思いますよ。でも、私は、失速をしているのではないかという事を申し上げている。それで、そのタイミングで、こういった定率減税の問題に手をつけるのは本当に今のタイミングとして大丈夫なのかという事を問題提起している。
   あともう一つ。雇用者所得が減少をしている。その事について申し上げたいのは、やはり社会保険料の引き上げというのはすごい大きいんですね。やはり、輸出関連大企業は、生産回復の過程の中でどんどん正規雇用を優先的にリストラしている。残った正規社員の時間外労働と非正規雇用の増加で生産増加を賄っているわけなんです。
   結局、社会保険料は引き上がっていくものだから、正規雇用で、要は正社員でやると社会保険料の負担というのが本当にでかいんですね。今、社会保険いろいろありますが、年金、医療、介護、雇用保険、全部合わせると支払い給与の10%くらいですよ、これを企業家が負担するのは。しかも、保険料というのは税金と違って外形標準的ですよね。赤字、黒字には関係ない。要は、支払い給与に応じて10%の保険料を払わなきゃいかぬという事になっている。10人雇ったら11人分の給料を支払わなきゃいけないという事なんですね。だから、正社員をどんどんどんどんと切っていく。そして、あるいは生産拠点を海外に移していく。
   だから、保険料をこうやってどんどんどんどん上げていくという事は、我が国の産業の空洞化というものをますますと促進をしてしまう事になるわけなんですね。いかがですか。

○竹中国務大臣
   大変、個々にご指摘の点は、これは我々も非常にその通りだという風に思う部分がたくさんございます。
   これは大変狭い道でありますけれども、負担はできるだけ増やさないようにする、その為に小さな政府を作る。しかし、その中で、将来の保険財政、国の財政に不安が出ないような形でのしっかりとした負担、そういった狭い道をやはり歩んでいかなければいけないという事に尽きるのではないかと思います。
   結果として、雇用者報酬は今ようやく下げ止まって増加の兆しにありますので、これは、負担は大きくならないように我々は注意をしておりますけれども、将来の安定性の為にも、今の時点でそれが経済の失速を招くというような状況では私はないと重ねて申し上げたいと思います。

○中塚委員
   小さな政府という事をおっしゃった。でも、だからこそ、今この国会で問題になっているのは政治と金の事なんじゃないんでしょうか。
   景気の話に戻りますが、そういった意味で、景気というのは、私ははっきり言ってもう失速をしたという風に思っています。やはり鉱工業生産、昨年の7〜9月以降、マイナスですね。在庫率も上がってきている。景気動向指数の一致係数は、8、9、10月と50割れですよ。11月は50より上がりましたけれども、恐らく、発表される12月の指数はまた50を割ると思うんです。3ヶ月連続で50を割ったら、これは景気が後退局面に入ったという事に間違いない。だから、皆さんは踊り場だとか色々な事をおっしゃるが、やはり、輸出が落ちてきたという事、それに関連をして日本経済は失速をしている。
   日本銀行は、経済、物価の見通し、中間評価というのをお出しになっている。その中で、2005年度はCPIがプラス0.1になるという予測をされているわけですね。CPIがプラスになるまで金融緩和を続ける、ゼロ金利政策を続けるという風におっしゃっていたわけですから、これが0.1になったという事は、そろそろ、ゼロ金利政策、金融緩和というのも解除の条件が整いつつあるんではないか。でも、日本銀行としては今の政策態度をしばらくお続けになるという事のようですね。
   私は、この事は、日本銀行としても今の景気の回復の足取りというものがやはり強いという風にはお考えになっていないからこそ、金融緩和はCPIがプラスになったっておやめにならないという風にお考えになっているんじゃないか思うわけなんです。
   今、景気の現状認識、政府は、景気がよくなったという事で定率減税の縮減、廃止にまで手をつけようとしているわけですが、日本銀行も、同じように景気がよくなると言いながら、ゼロ金利政策はやめない、金融緩和はやめないという事についてご説明を頂きたい。
   結局、政府のやっている政策のそのしわ寄せが全部日本銀行に行っているんじゃないか。要は、日本銀行は独立しているという事になっていますが、政府の景気、経済に対する政策のしわ寄せはみんな日本銀行に行っていて、ひょっとしたら総裁は、ゼロ金利政策を解除したい、金融緩和をやめたいという風にお考えになっているのかも知れないけれども、もうどうしようもない、自縄自縛に陥っていらっしゃるんじゃないか。いかがでしょうか。

○福井参考人
   まず、経済の認識でございますが、先ほどもちょっと申し上げました通り、日本経済の底力は次第に整ってきているけれども、まだ本当に持続的な回復パスに乗るまでに、あるいは物価の面で見てデフレ脱却という事に確信が持てるまで、もう少し距離を残しているという事でございます。
   CPIをお話になられまして、そちらの面から少し条件が整ってきているんではないかというご判断をおっさられましたけれども、私どもの方は、そこのところはまだかなり厳しく見ております。
   したがいまして、現在とっております量的緩和政策の枠組み、これは堅持しながら、景気がより持続的な回復パスにしっかりと乗っていくこと、同時に、物価の面でデフレ脱却の確信が持てるようになる事、ここをしっかり見届けたいという事でございます。

○中塚委員
   今の日本銀行の総裁のご答弁、自律的回復軌道にしっかりと乗るまでという事がありました。要は、私が今まで申し上げた事を裏付けていらっしゃるわけですね。だから、金融緩和もやめない、ゼロ金利政策もやめないという事なわけであって、だから、今、総裁のご答弁という事を引用しても、政府が、景気はよくなった、これからもよくなり続けるとして、その上で定率減税を縮減する、廃止をするというのは、やはり誤った政策態度であるという事が言えるという風に思います。
   そして次に、消費税の問題に関連して日本銀行の総裁にお伺いをしたいんですが、現状であっても要は景気の回復というものに確信が持てない、回復軌道にちゃんと乗っているという風には思えないという事だったわけでありますが、他方、政府の方はこの消費税の問題というのを議論し始めている。「平成19年度を目途に、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現する。」という事を政府として言っているわけですね。
   ただ、政府の政策態度の方向性として、今回、定率減税も縮減する、廃止をするという法律案が出てくるという事になれば、消費税の引き上げを緩和する為の施策という事については恐らく政府はとれないでしょうね。そうなると、結局、今と全く同じ事なんだけれども、消費税を上げるという事になったら、経済政策はやはり金融政策がどうしてもメインにならざるを得ないという事になりかねない。結果、今と全く同じですが、定率減税の廃止、縮減というものを政府がやる。それで、日本銀行はこの金融緩和を続けていくという事ですね。
   要はショックアブソーバーの役割をお果たしになろうとしているという事だと思いますが、消費税が今後引き上がっていくという事になった時に、その時に、では、金融緩和、ゼロ金利政策やめますという風に果たして本当に言えるんでしょうか。今、日本銀行の独立性という事について申し上げましたけれども、果たして、本当に日本銀行が独立をしているという事であるならば、政府のそういった消費税の引き上げのもたらす契機に対するマイナスのインパクト、それを緩和する為に金融政策はやはり今と同じフルアクセルを踏み続けていかなければいけないという事になるんじゃないですか。いかがですか。

○福井参考人
   私の単なる感想でございますが、政府におかれて色々な政策をとられる場合にも、あるいは私ども自身が金融政策を行っていきます場合にも、その政策をとるに当たって、全く何の障害もない、極めて、何と言いますか無菌状態の中で政策が遂行できるという風な事は、実際の生身の経済のもとでは無いという風に私は思っております。と同時に、一つの政策がとられた場合に、差し引き計算で別の政策に単純に負担がかかるという風な考え方も、必ずしも私は適当でないという風に思っています。
   現在の状況に即して言えば、委員がおっしゃる通り、日本の財政の現状、それから社会保障制度の再構築が国民的要望になっている、こういう現状からいきまして、政府におかれて、今後非常に長期的なプログラムになると思いますけれども、具体的に、歳入歳出面、それから社会保障制度の再設計という事が国民的合意のもとにきちんとなされていくべきだと。私ども金融政策をお預かりしております立場からも、ここは重大な関心事項でございますけれども、仮に、税金の面で厳し目の政策がとられる、あるいは社会保障制度の面で、国民にとってこれは少し負担じゃないかという風な政策が加味されていく場合にも、その全体の制度設計と将来の方向性、つまり、何と申しますか、道筋や手段について長期的な方向性が国民の前にできるだけ透明な形で示される。つまり、国民生活、一人一人の事を考えた場合に、将来の予見可能性、将来の生活設計の中にそれを取り入れられていけるという条件を少しでも多く政府が提供してくださるという事は、金融政策の負担はそれだけ軽くなるわけでございます。
   そういううまい組み合わせで是非国会の議論も進めて頂ければ、あるいは政府の方の決断もして頂ければと願っておりまして、我々は単純な差し引き計算でネガティブなインパクトを金融政策が全部受け止めていく自信はございません。

○中塚委員
   総裁からお願いをされましたが、いずれにしても、やはり金融政策はちゃんと金融政策として独立してやっていく。くれぐれも政府の政策によって自縄自縛に陥るような事がないように。やはり政府の経済財政運営というものと日本銀行の金融政策というものはちゃんと別だと、その上でちゃんとご判断を頂きたい。