2019年3月版
米中貿易戦争に伴う世界経済の減速が輸出の減少を通じて日本の景気に響いてきた

【米中貿易戦争の影響が日本に響いてきた】
 米中貿易戦争はひとまず休戦に入った。中国が輸入拡大などのいくつかの譲歩案を出しているため、米国は更に交渉を継続することとした。これに伴い中国から米国への輸入2千億ドル分の関税を現行の10%から25%へ引上げることは延期された。
 しかし、既に実施された関税引上げなど貿易戦争の影響から、世界の経済成長は減速し始め、それが日本の輸出減速を通じて景気全般に響く気配が出てきた(このHPの<論文・公演>新聞“米中貿易戦争の激化が世界経済の動揺を通じて日本の輸出、ひいては成長減速に響いてきた”(H31.3.18)―『世界日報』2019年3月18日号“Viewpoint”参照)。

【1〜3月期の鉱工業生産は前期比減少の可能性】
 1月の鉱工業生産と出荷は、前月比、それぞれ−3.7%、−4.0%の大幅減少となった。2月の製造工業生産予測調査によると、前月比で2月は+5.0%増、3月は−1.6%減である。仮に2月と3月の鉱工業生産が、製造工業生産予測調査の通りになったと仮定すると、1〜3月期は前期比―1.4%減となる(以上図表1)。これは17年10〜12月期から6四半期の間、1四半期毎に前期比プラスとマイナスを繰り返している形となり、本年1〜3月期の推計値は17年10〜12月期の実績に比し―0.8%低い水準となる。
 本年1〜3月期は、自然災害などの特殊要因がないので、もしこの通りになるとすれば、生産の基調が下振れ始めた兆しかも知れない。

【1月の国内向け総供給は、消費財を除き、3か月連続の減少】
 1月の出荷(前月比−4.0%)を輸出と国内向けに分けると、輸出は前月比−8.9%の大幅下落、国内向けも同−3.3%の減少である。この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け鉱工業製品総供給は、輸入も同−2.6%と減少したため、全体で−3.7%とかなりの減少となる。これで3か月連続の減少となるため、その水準は18年の平均を−5.2%下回り、3年前の2015年の総平均とほぼ等しい。
 1月の国内向け総供給の前月比を財別に見ると、落ち込みの大きいのは資本財(除、輸送機械)の前月比−9.3%で、増加したのは消費財の+1.9%のみである。

【家計消費は底固い上昇】
 「実質消費活動指数+」(日銀試算)は、昨年4〜6月期から毎四半期緩やかに上昇しているが、本年1月も106.8と前月比+0.2%、10〜12月平均比+0.4%と増加となった(図表2)。「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)も1月は前月比+0.7%とやや大きく伸びた。
 背後にある1月の実質可処分所得(同)は、前年比+3.9%の水準にあり、「労調」の雇用者数は前年比+0.2%と緩やかながら増加している(図表2)。
 1月の完全失業率は2.5%と0.1%ポイント上昇したが、新規求人倍率は1月も2.48倍(前年は最高が9月の2.44倍)と著しく高いので、失業率の上昇はミスマッチによるものと見られる(図表2)。

【輸出関連の設備投資に変調か】
 10〜12月期のGDPベースの実質設備投資は、10〜12月期の「法人企業統計」の設備投資(季調済み)が前期比+3.3%の増加となったため、1次速報値の同+2.4%から2次速報値の同+2.7%へ上方修正された。
 足許の設備投資動向を示す資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)も、10〜12月期は前期比+3.8%と高かった(図表2)。しかし、1月の前月比は−9.3%と急落し、10〜12月平均比−11.7%の水準にある。2月と3月の動向によるが、1〜3月期は4四半期振りの前期比マイナスとなるかも知れない。
 6〜9か月の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)が、昨年10〜12月期に前期比−3.2%と6四半期振りに減少したあと、更に本年1月には前月比−5.4%の減少となったことも、設備投資意欲の変調を示唆しているのかも知れない(図表2)。
 中国などアジア向けの輸出変調で、輸出関連企業の設備投資態度が慎重化しているのだとすれば、米中貿易戦争の影響が日本の輸出のみならず、設備投資にも響いてきたものとして、今後の景気展望を大きく左右しうる。

【住宅投資は引き続き弱含み横這い、公共投資は1〜3月期に一時的増加も】
 住宅投資は先行指標の新設住宅着工戸数が弱含み横這いで推移していること(図表2)から見て、引き続き微減傾向を辿るものと見られる。
 公共投資は17年7〜9月期から6四半期にわたって緩やかに減少しているが、1月に公共建設工事受注額が前年比+22.7%と急増したこと(図表2)から見て、今後の発注動向如何では、一時的に1〜3月は微増するかも知れない。

【1〜3月期の「純輸出」は引き続きマイナスの成長寄与か】
 1月の経常収支は、貿易サービス収支が輸出の減少(前月比−5.3%)から517億ドルの黒字にとどまったものの、第1次所得収支の黒字が1兆9859億円に達したため、1兆8330億円と増加した。所得収支はGNI(国民総所得)には反映されるが、GDP(国内総生産)には入らないため、1〜3月期のGDPの「純輸出」は、貿易サービス収支の赤字を反映し、引き続きマイナスの成長寄与度となろう(図表3)。