米中貿易戦争の激化が世界経済の動揺を通じて日本の輸出、ひいては成長の減速に響いてきた(H31.3.18)
―『世界日報』2019年3月18日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【米国の株価動揺】
 このところ世界の株価が動揺している。ニューヨークのダウ平均株価は、昨年10月初めには2万7000㌦を窺(うかが)っていたが、その後徐々に値を下げ、特に12月に入ってからは急落して、年末には2万1000㌦台まで下げた。つれて10月初めには2万5000円台を窺っていた日本の平均株価も値を下げ、12月初めには2万2000円台、さらに年末には1万8000円台まで急落した。

【切っ掛けは12月の米国の利上げ】
 リーマン・ショック後の世界同時不況から立ち直り、長期回復の波に乗っていた世界の株式相場は、米中貿易戦争に伴う先行き不安から昨年10月に入ると徐々に弱気が広がっていたが、12月に入って急落した直接のきっかけは、米国の金融政策である。米国では2015年12月にゼロ金利政策と決別し、以後16年中に1回、17年中に3回、18年中も8月までに3回、都合8回フェデラルファンド(FF)レートの誘導目標を0・25%刻みで引き上げ、2・00~2・25%としていた。18年中にあと1回の利上げが示唆されていたものの、世界の株価の変調を眺めて、12月の連邦公開市場委員会(FOMC)では様子を見るのではないかという見方が市場の一部に出ていた。しかし、FOMCは12月19日、予定通りFFレートを0・25%引き上げ、2・25~2・50%とした。このショックで世界の株価は、前述の通り2割前後の急落となったのである。

【年明け後米国の金融政策転換の兆しを受けて株価は様子見】
 これを見て連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、年明け早々の講演で「市場は中国経済中心に世界景気の下振れを不安視している。金融政策はリスク管理だ。迅速かつ柔軟に政策を見直す用意がある」と発言し、1月30日のFOMCでは、19年中にさらに2回の利上げを示唆していた従来の政策シナリオから、利上げ中止、もしくは中断の政策シナリオへの転換を強く示唆した。これを受けて世界の株価は値を戻し、2月までにニューヨークダウは3分の2戻し、日経平均株価は半値戻しとなった。

【日本経済は10~12月期の回復も弱い】
 しかし今後を展望すると、日本の株価の背後にある経済の先行きはリスクに満ちている。昨年7~9月期に、自然災害の影響を主因に前期比マイナス0・6%のマイナス成長となった後、10~12月期に入っても回復の勢いは弱く、前期比プラス0・5%の増加にとどまった。この結果、10~12月期の実質国内総生産(GDP)は、前年同期比プラス0・3%となり、1年間わずかな成長に留まった形となっている。
 鉱工業生産を見ても、1月は前月比マイナス3・7%とやや大きく下がったので、仮に2月と3月に製造工業生産予測調査(前月比2月はプラス5・0%、3月はマイナス1・6%)の通りに推移したと仮定しても、1~3月期は前期比マイナス1・4%の下落となる。この1年間、1四半期ごとにプラスとマイナスを繰り返している形である。

【日本の成長減速の主因は「純輸出」の減少】
 昨年1年間、事実上成長が足踏みしていた原因を、GDPの構成要素によって見ると、国内民間需要は、家計消費と企業設備投資の底固い増勢を中心に、成長に対して0・9%のプラス寄与度となっている。公的需要は公共投資の減少と政府経常支出の増加が相殺し合い、成長への寄与度はマイナス0・1%であり、財政政策はほぼ中立的であった。最後に海外需要は、輸入の伸びがほぼコンスタントであったのに対して、輸出の伸びが年後半に大きく鈍化したため、差し引き「純輸出」は成長に対して0・5%のマイナス寄与度となっている。

【世界経済の成長減速が日本の輸出、ひいては成長の減速要因】
 昨年1年間、為替相場は大きく動いていないので、日本の輸出鈍化の主因は世界経済の成長鈍化にあったと見てよいであろう。国際通貨基金(IMF)は、昨年4月の時点で、世界経済は17年に11年以来最高となるプラス3・8%成長を達成した後、18~19年にはさらにプラス3・9%成長に達するであろうと予測していた。しかし18年後半の成長減速を見た後、本年1月には、当初のプラス3・9%から大きく下方修正し、18年をプラス3・7%に、19年をプラス3・5%とした。この世界経済の成長減速こそが、最近の日本経済の足取りを弱くしている主因と見ることができる。

【米中貿易戦争の激化に伴う世界経済の減速】
 このような世界経済の減速を招いた原因は、米国の自国産業「保護」最優先の政策と、中国の自国産業「発展」最優先の政策の激突である。当初米国は中国からの産業機械、電子部品などの輸入500億㌦相当に25%の関税上乗せを打ち出し、中国は報復として米国からの自動車、大豆などの輸入500億㌦相当に25%の関税を上乗せした。
 これを見た米国は、中国に進出した米国企業の知財保護、技術移転強要中止、サイバー攻撃中止など5分野の協議で3月1日までに合意に達しなければ、中国からの輸入2000億㌦にさらに10%の関税を課し、25%とすると通告した。これは報復関税で対処できる域をはるかに超えた要求である。中国は農産物輸入の拡大などの新しい譲歩策を提案しており、米国は3月2日からの関税引き上げを延期して交渉中である。国家の巨額な補助金などでハイテク産業の育成を急ぐ中国の国家資本主義の根幹に係る構造改革の要求だけに、果たしてどうなるであろうか。