2013年9月版
設備投資の立ち直りを中心に回復の足取りはやや強まり、インフレ率は緩やかに高まる方向

【鉱工業生産の回復はやや加速】
 本年4〜6月期のGDP2次速報値の公表の際に、本年1〜3月期と4〜6月期の実質成長率(年率)が設備投資の上振れを主因に夫々+3.8%から+4.1%へ、+2.6%から+3.8%へと大きく上方修正された(図表3、なおこのHPのH25.9.9付<最新コメント>“上方修正された4〜6月期成長率で消費増税に踏み切るのは早計”参照)。この比較的速い回復傾向は7月に入っても続いているようだ。
 7月の鉱工業生産は前月比+3.4%と前月減少(同−3.1%)の反動もあって大きく増加した。製造工業生産予測調査によると、8月は同+0.2%、9月は同+1.7%と引き続き上昇する予想となっている(図表1)。仮に鉱工業生産がこの予測通りに推移すると、7〜9月期は前期比+2.6%と1〜3月期(同+0.6%)、4〜6月期(同+1.5%)に比し回復が加速する。
 回復をリードしている業種は、汎用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、輸送機械などである。

【設備投資関連機械の国内向け総供給は高い伸び】
 7月の鉱工業出荷は前月比+2.0%の増加となったが(図表1)、内訳は、国内向け出荷が同+3.0%と大きく伸びており、輸出は同−0.8%の減少であった。この国産品の国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が+1.6%の増加となったため、全体で+2.8%の伸びとなった。
 総供給がとくに大きく伸びた業種は、汎用・生産用・業務用機械(前月比+8.3%)、電子部品・デバイス(同+7.7%)、一般機械(同+8.2%)、精密機械(同+10.9%)など設備投資関連の業種で、総じて国産品の供給と輸入が共に高い伸びを示している。
 7月の鉱工業製品の貿易収支は、輸入が設備投資関連の機械を中心に前月比+1.6%の増加となった反面、輸出は同−0.8%の微減となったため、前月に比し悪化した。

【賃金、雇用の回復は緩やか】
 国内需要の動向を見ると、家計消費関連では、7月の小売業販売額は前年比−0.3%と、5月(同+0.8%)、6月(同+1.6%)にかなり増えた反動もあってやや減少した。他方、7月の「家計調査」の実質消費支出(全世帯)は、前年比+0.1%とほぼ前年並みであったが、季調済み前月比では+0.9%の増加となった。
 7月の勤労者世帯の実質可処分所得は、前年比+0.4%の増加となったが、増加幅は5月(同+3.1%)以来縮小傾向にある(図表2)。
 7月の「毎勤」では、実質賃金が前年比−0.4%と5か月振りに前年を下回った(図表2)。常用雇用は前年比+0.9%と引き続き前年を上回っているが、季調済み前月比では0.0%と横這いであった。
 7月の「労調」でも、就業者と雇用者の前年比は、夫々+0.5%、+0.9%と前年を上回っているが(図表2)、季調済み前月比では就業者は横這い、雇用者は+0.2%の増加にとどまった。
 このように、雇用改善のテンポは遅々としているが、労働力人口全体は僅かずつ減少しているため、7月の完全失業率は3.8%と前月比0.1%ポイント改善した(図表2)。また有効求人倍率も0.94と前月比0.02%ポイント改善した。

【明らかとなった設備投資の回復傾向】
 国内の投資動向を見ると、昨年1〜3月期から本年4〜6月期まで6四半期続けて下落したとされていた実質GDPベースの設備投資が、去る9月9日に公表された本年4〜6月期GDPの2次速報値において上方修正され、本年1〜3月期に下げ止まり、4〜6月期に前期比+1.3%の増加となった。
 この修正は、遅きに失った言うべきで、「法人企業統計」や「資本財(除輸送機械)総供給(国産品の国内出荷+輸入)では、下表の通り、設備投資は明らかに底入れしていた。


 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)を見ても、本年1〜3月期に下げ止まり、4〜6月期は前期比+6.8%の大幅増加となり、7月は4〜6月平均比+1.4%増の水準にある(図表2)。
 始めに述べた鉱工業生産、出荷の動向を見ても、日本経済はこれ迄の家計消費、住宅投資、公共投資に加え、新たに設備投資も回復に寄与し始めたと見られる。

【住宅投資と公共投資は引き続き高水準】
 7月の住宅投資と公共投資は、引き続き高水準を保っている。
 7月の新設住宅着工戸数(季調済年率)は975千戸と4〜6月平均(981千戸)並みの高水準を維持している(図表2)。この水準は前年同月比で見ると、+12.0%である。
 また、7月の公共機関からの建設工事受注額(大手50社調査)は、前年比+4.0%の高水準を保っている(図表2)。受注額は先行指標であるから、公共投資は7〜9月期も増勢を保つと見られる。

【外需の成長寄与度は弱い】
 次に外需の動向を見ると、国際収支ベース(季調済み)の輸出は、7月も前月比−3.7%と2か月連続の減少となり、反面輸入は+2.2%と2か月連続の増加となった。
 既に見た鉱工業製品の貿易動向からも明らかなように、円安に伴う輸出数量の回復がEUやアジアの経済停滞もあって捗々しくない反面、輸入数量は国内経済の回復につれて徐々に増加している。
 このため、経常収支は、所得収支の大幅な受取超過で黒字を保っているものの、7月は3,337億円の黒字と前月比−48.3%の大幅減少となった。
 GDP統計(4〜6月期2次速報値)では、昨年4〜6月期から10〜12月期まで、外需(純輸出)は3四半期続けて成長の足を引っ張ってきたが、本年1〜3月期は+0.4%、4〜6月期は+0.2%の成長寄与度となった(図表3)。しかし、当面7月の動きを見ると、外需の成長寄与度は弱く、日本経済の回復は国内需要に支えられている。

【貸出、マネーストック、物価は政策が意図する方向へ緩やかに変化】
 日本銀行の「異次元金融緩和」の影響は、下表の通り、少しずつ金融指標に現れ始めている。
 8月のマネタリ―ベースは、日本銀行の巨額な買オペによって、前年比+42.0%と著増し、そのほとんどは金融機関の日銀当座預金に溜まって前年比+127.6%に達している。これと並んで銀行、信金の貸出前年比も少しずつ増え始めて8月は前年比+2.0%となり、それが8月のマネーストック(M2)を前年比+3.7%と僅かに押し上げている。
 マネーストックが昨年10〜12月期の前年比+2.3%から本年8月の+3.7%に高まったことと、本年1〜3月期、4〜6月期の実質成長率が高まり、6月以降の消費者物価(除生鮮食品)や4月以降の国内企業物価が前年比プラスに転じたこととの間には、何らかの関連があると見られるが、その因果関係を特定するには、まだ材料が不足している。
 ただ、「異次元金融緩和」後、貸出、マネーストック、物価が、徐々にではあるは、意図した方向に動いていることは認められる。