2011年2月版
10〜12月期マイナス成長のあと、アジア向け輸出と家計消費の回復で再び緩やかなプラス成長へ

【10〜12月期はマイナス成長の蓋然性が高いが10暦年は主要先進国中最高の成長率】
 12月の景気指標が出揃った現時点で判断すると、10〜12月期の成長率は5四半期振りにマイナスとなった公算が高い。しかし、先立つ4四半期(09年10〜12月期〜10年7〜9月期)に実質GDPは+5.3%と大きく上昇したので(図表3)、10歴年の成長率は、10〜12月期がマイナスでも、+4%台前半の高い成長率を記録したと見られる。
 これは、ユーロ安に伴って輸出を大きく伸ばしたドイツ(IMF見通しでは+3.6%)や大型の財政刺激で回復を促進したアメリカ(同+2.8%)を上回り、主要先進国中最高の成長率である(このHPの<論文・講演>“経済成長に自信を取り戻せ”『世界日報』2011年1月11日号Viewpoint参照)。
 本年1〜3月期以降を展望すると、昨年12月から輸出の伸びが高まり始め、また緩やかな雇用回復を背景に可処分所得も徐々に立ち直っているため、再びプラス成長に戻る蓋然性が高い。

【生産、出荷は10〜12月期に減少のあと1〜3月期には大幅上昇の予測】
 12月を中心に足許の景気指標を順次みていくと、10月に5か月間の生産調整を終えて底を打った鉱工業生産は、11月の前月比+1.0%に続き、12月は同+3.1%とやや大きく上昇した。また製造業生産予測調査によると、1月は同+5.7%と更に大きく上昇したあと、2月は同−1.2%と微減する形となっている(図表1)。
 この結果、10〜12月期の生産の平均は、10月までの下落が響いて前期比−1.7%となったが、1〜2月の生産予測の平均は10〜12月平均に比して+7.6%の大幅上昇となる。
 他方、鉱工業出荷も11月(前月比+2.6%)、12月(同+1.1%)と2か月連続して回復した(図表1)。しかし10月までの下落が響き、出荷も10〜12月期の平均は前期比−1.7%の減少となった。ただしその内訳をみると、輸出向けが同+3.2%、国内向けが同−3.1%となっており、輸出の立ち直りと内需の前期からの反動減のコントラストが際立っている。
 業種別にみると、生産、出荷の回復を主導しているのは、10月までの生産調整の中心であった乗用車、電子部品・デバイスなどである。

【第3次産業を中心に雇用は緩やかに回復、失業率は低下】
 12月の雇用動向は、「労調」の就業者数(前年比+0.1%。前月比+0.3%)、雇用者数(同+0.2%、同+0.1%)、「毎勤」の常用雇用者数(同+0.5%、同+0.1%)が、いずれも増加した。「労調」の完全失業者は前年比−0.6%、前月比−3.9%と減少したので、完全失業率は4.9%と前月比−0.2%ポイント低下し、10か月振りに5%を割った(図表2)。
 業種別に就業者数の内訳をみると、製造業(前年比−3.0%)と建設業(同−3.6%)は引き続き減少しており、雇用回復を支えているのは医療・福祉(同+2.2%)、教育・学習支援(同+5.2%)、生活関連サービス(同+2.9%)、学術研究・専門・技術サービス(同+4.1%)、宿泊・飲食サービス(同+4.1%)などのサービス業と卸・小売業(同+2.9%)である。
 国内の第3次産業が雇用の回復を支える構図がはっきりと現れている。

【雇用と賃金の緩やかな回復に支えられて可処分所得は増加傾向】
 12月の実質賃金は前年比−0.5%と12か月振りの低下となり、10〜12月期の平均も同−0.2%と4四半期振りの減少となった(図表2)。これは、「特別に支払われる給与」(賞与)が前年を下回ったためで、「決まって支給する給与」(定例給与)は「所定外給与」(時間外手当)を中心に引き続き前年を上回っているので、賞与のウェイトが下がる1月以降の実質賃金は、再び前年を上回る蓋然性が高い。
 12月の賃金の前年比微減を反映して、「家計調査」の実質可処分所得(勤労者所帯)も12月は5か月振りに前年を下回った(−1.4%、図表2)。しかし、10〜12月期の平均では、賃金の微減にも拘らず、前年比+1.8%と4四半期連続して前年を上回っている(図表2)。これは、緩やかな雇用回復によるものと見られる。

【乗用車買い急ぎの反動減から10〜12月期の家計消費は減少】
 10月と10〜12月期の家計消費は、「販売統計」でも「家計調査」でも前年を下回った。
 即ち、12月と10〜12月期の小売販売額は、前年比それぞれ−2.1%、−0.4%、前月比それぞれ−4.1%、−3.3%といずれも減少した。また12月と10〜12月期の消費水準指数(全世帯)は、前年比それぞれ−3.2%、−1.3%の減少となった(図表2)。
 10〜12月期の前年比減少は、小売販売額が4四半期振り、消費水準指数は2四半期振りである。
 これはかねて予想されていた通り、エコカー補助金が9月上旬で打ち切られたため、それまでの乗用車需要急増の反動が9月中旬以降に出たことによるものである。乗用車新車登録台数は、季調済年率で4〜6月期に459.5万台(前期比+4.5%、前年比+22.0%)、7〜9月期に477.0万台(同+3.8%、同+13.4%)と急増したあと、10〜12月期は321.4万台(同−32.6%、同−27.2%)に落ち込んだ。

【1〜3月期以降の家計消費は再び増加か】
 実質GDPベースの家計消費は、7〜9月期まで6四半期連続して増加し、09年4〜6月期以降の経済回復を支えてきたが(図表3)、10〜12月期は7四半期振りに減少することがほぼ確実と見られる。
 しかし、二つの理由から、1〜3月期以降は再びプラスに転じてくるのではないかと思われる。
 第1の、そして最大の理由は、既に見た通り、雇用と賃金の緩やかな回復に支えられて、可処分所得が徐々に立ち直っていることである。10〜12月期についても、可処分所得の増加にも拘らず乗用車を中心に家計消費が減少したため、平均消費性向は63.8%(勤労者家計)と前年(64.2%)よりも低くなった。乗用車の先喰い需要によって家計の購買力全体が先喰いされた訳ではない。購買力は1〜3月期以降に持ち越されている。
 第2に、落ち込んだ乗用車新車登録台数の前年比は、11月の−29.8%を底に、12月は−25.5%、1月は−19.0%と減少幅を縮小している。各社の新車発表の営業努力もあって、乗用車需要の減少は遠からず下げ止まってくるのではないか。

【住宅投資は増加、設備投資は足踏み】
 次に投資動向をみると、実質GDPベースで1〜3月期から増加傾向に転じた住宅投資は、10〜12月期も新設住宅着工戸数が季調済年率で840千戸(前期比+3.1%、図表2)と増勢を辿っていることからみて、増加したものと思われる。政策金利引き下げの効果と可処分所得増加の影響が大きいとみられる。
 設備投資は、実質GDPベースで4四半期連続して回復しているが(図表3)、10〜12月期の一般資本財(資本財<除輸送機械>)出荷も、前期比+1.0%の増加となった。しかしその内訳をみると、輸出が+2.8%と大きく伸び、国内向けは−0.9%の減少となった。設備投資の緩やかな増加傾向には変化がないと思われるが、10〜12月期は足踏み傾向を示すかも知れない。

【12月からアジア向けを中心に輸出の伸びは再び高まる傾向】
 最後に外需の動向をみると、12月の通関ベースの輸出入は、季調済前月比で輸出がアジア向けを中心に+5.7%と伸びを高め、輸入は+3.0%にとどまったため、差し引き貿易収支は+31.9%の黒字拡大となった。10〜12月期の季調済前期比では、輸出の伸び(+3.8%)が輸入の伸び(+4.7%)を下回り、貿易収支の黒字は−3.1%の微減となった。
 日銀推計の実質輸出の季調済前期比でも、10〜12月期は実質貿易収支が−3.2%の微減となった(図表2)。
 他方、経産省調べの鉱工業出荷内訳をみると、10〜12月期の季調済前期比は輸出が+3.2%の増加、輸入が−1.2%の減少となり、実質貿易収支の黒字は大きく拡大している。
 このところの世界的な資源価格の上昇を反映して、日本の輸入物価の上昇率が輸出物価のそれを大きく上回っているので、実質ベースの純輸出の動向をみるには、金額ベースからの推計値よりも鉱工業出荷のような実物統計の方が適切に事態を反映しているかも知れない。

【10〜12月期は5四半期振りのマイナス成長か】
 以上の分析を踏まえると、来る2月14日に公表される10〜12月期の実質GDPは、家計消費の一時的減少と設備投資の足踏み傾向を主因に内需の成長寄与度がマイナスとなり、外需のプラス寄与度も大きくないので、年率−2%前後の、マイナス成長となる蓋然性が高い。
 ただし、その場合でも、10暦年の前年比は+4.2〜+4.3%となり、主要先進国中最高の成長率となる見込みである。
 また既に述べたように、可処分所得の回復を背景に今後の家計消費は立ち直ってくると思われるし、アジア向けを中心に12月から輸出の伸びが再び高めっているので、本年1〜3月期以降はプラス成長に戻る蓋然性が高いと思われる。