2009年10月版
7〜9月期は政策効果と交易条件の好転で6四半期振りに国内需要がプラスに転じた可能性

【経済活動の緩やかな回復の中で、企業収益、設備投資、家計消費に底打ちの兆し】
 輸出のリバウンドを切っ掛けにして、経済活動は引き続き緩やかに回復しているが、その水準は急激な落ち込みをみせた昨年10月以前の水準に比べてまだかなり低い。
 しかし、雇用、設備、在庫の調整が進んできたため、09年度下期の企業業績は前年下期に比べ減収の下で増益に転じる見込みである(<最新コメント>雇用・設備・在庫の調整が進み、企業収益は下期に底を打つが、これらの調整で国内需要は引き続き弱く、輸出見通しの下振れも加わって回復は緩やか―9月調査「日銀短観」のポイント(H21.10.2)参照)。
 また8月は家計消費と設備投資が増加したため、7〜9月期は内需の成長寄与度がプラスに転じる可能性が出てきた。これが持続性のある動きかどうかが今後注目される。
 
【生産は引き続き上昇し10月までに昨秋来の落ち込みの3分の2を回復する見込み】
 8月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+1.8%、+1.0%と6か月連続して上昇した。また9月と10月の生産予測指数は、それぞれ+1.1%、+2.2%と更に上昇を続ける見込みである。実績が予測通りになれば、7〜9月期の生産は前期比+7.2%と4〜6月期(同+8.3%)に近い増加率となる。また10月の生産の前年比は−13.2%とボトムの本年2月(同−38.4%)に比して前年比の落ち込み幅を約3分2回復することになる。しかし、大幅な落ち込み前の昨年9月の水準に比べると、まだ−16.1%の低水準である(以上図表1)。

【鉄鋼、一般機械、電子部品・デバイス、乗用車が回復をリード】
 総じて生産、出荷の回復テンポは徐々に鈍化しているが、根強く続いている。しかし昨年9月以前の水準に戻るには、予想外の需要回復でテンポが早まらない限り、まだ半年はかかりそうである。
 業種別にみると、アジア向けの輸出が伸びてきた鉄鋼と一般機械、内外の需要が立ち直ってきた電子部品・デバイス(液晶テレビ、携帯電話、PC用など)、国内需要がエコ・カー減税などの政策効果で回復してきた乗用車などが、全体の生産回復を引っ張っている。これらの業種は、生産調整の結果在庫率がかなり下がっており、出荷の伸びがそのまま生産の回復に反映されている。

【雇用悪化に底打ちの気配】
 8月の雇用指標をみると、「労調」の就業者数は前年比−1.7%、雇用者数は同−1.3%と、いずれも前月(それぞれ同−2.1%、同−1.4%)より減少幅を縮小した。また完全失業者は同+32.7%と前月(同+40.2%)より増加幅を縮めた。この結果、8月の完全失業率は5.5%と前月(5.7%)より0.2%ポイント低下した(図表2)。
 他方、「毎勤」の常用雇用者数は、前年比−0.1%と前月(同−0.1%)と同じく微減であったが、総実労働時間は前年比−1.4%と前月(同−2.3%)よりも減少幅が縮小した。 4〜6月期からのプラス成長が、8月になってようやく雇用の改善に結び付く気配が出てきている。業種別にみると、就業者が増加しているのは医療・福祉(前年比+6.8%)、学術研究、専門・技術サービス(同+4.5%)、生活関連サービス、娯楽(同+0.4%)などの対個人サービス関係である。

【家計の所得は引き続き悪化】
 所得面をみると、「毎勤」の現金給与総額は前年比−3.1%と前月(同−4.8%)よりは下落幅を縮小した。これは、前述のように総実労働時間の前年比減少幅が縮小したためとみられる。
 他方、「家計調査」の可処分所得(勤労者所帯)をみると、8月は前年比−5.5%と前月(同−3.0%)よりも減少幅を拡大した(図表2)。中身をみると、所帯主の所得が大きく落ち込んでおり、配偶者など所帯主以外の所帯構成員の収入は、大きく減少幅を縮小している。家計を助けるアルバイトの増加と見られる。

【交易条件の好転が消費者物価の下落を通じ実質消費を拡大】
 このような所得動向の下で、8月の「家計調査」の消費支出(全世帯)は、名目では前年比−0.1%と僅かに前年水準を下回ったが(図表2)、全国消費者物価(除く生鮮食品)が前年比−2.4%の下落となっていることを反映して、実質では前年比+2.6%、季調済み前月比では+1.9%の増加となった。
 このような消費者物価の下落は、昨年高騰した石油、穀物などの国際商品市況が反落していることと、円高による輸入品の値下がりによるところが大きい。この二つの要因により、このところ輸入物価の下落は輸出物価の下落を上回っており、日本の交易条件は大きく好転している。8月の輸入物価は前年比−34.6%であるのに対して、輸出物価は同−14.5%であり、1年間に交易条件は30.7%好転した。
 実質GDPに交易条件の好転を加えた値が実質GDI(国内総所得)であり、交易条件の好転が消費者物価の下落を通じて実質の国内総所得を増やし、景気回復の好転に寄与し始めている。

【政策効果で家電製品と乗用車の売り上げが回復】
 次に販売統計をみると、8月の小売販売額は前年比−1.8%と前月(同−2.4%)や前々月(同−2.9%)に比し減少幅を縮小している。季調済み前月比では、7月、8月と2か月連続して増加し、更に実質ベースではもっとも大きく伸びていると見られる。
 これには、エコ・ポイントの政策効果で、液晶テレビや冷蔵庫などの家電製品の売り上げが伸びていることが響いている。
 また8月の乗用車新車登録台数は、前年比+3.2%と実に13か月振りのプラスに転じた。自動車業界団体の調べでは、9月の新車販売台数も14か月振りに前年を上回った。エコ・カー減税や新車購入補助金の効果で、ハイブリット車などに人気が出ている。
 このように、7、8月の家計消費は、所得面の回復が遅れているにも拘らず、消費者物価の下落と政策効果によって伸び始めており、7〜9月期のプラス成長に大きく寄与すると見られる。但し、賃金の回復が遅れていることから判断すると、消費回復の持続性にはまだ不確実性がある。
 
【設備投資に底打ちの気配】
 次に、設備投資の動向をみると、足許の動きを示す8月の一般資本財の出荷は、前年比−33.6%と前月(同−39.3%)に比して下落幅を縮小し(図表2)、季調済み前月比では+6.9%の増加となった。また季調済みの7〜8月平均を4〜6月平均と比べると、+1.9%の増加となり、7〜9月期は8四半期振りの前期比増加に転じる可能性がでてきた。これには、一般機械などの輸出回復の影響も含まれているが、設備投資底打ちの兆しである可能性が高い。
 9月調査「日銀短観」の全規模全産業の設備投資計画(含む土地投資額)をみると、09年度下期は前年比−16.9%と上期(同−17.7%)より下落幅を縮小しており、6月調査の計画に比し、下期は+1.8%ポイントの上方修正となっている。ここにも、設備投資底打ちの気配が見られる。
 6〜9か月の先行指標である8月の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、前年比−26.5%と前月(同−34.8%)より減少幅を縮小し(図表2)、前月比では+0.5%と僅かに増加した。また7〜8月の平均は4〜6月平均を−4.3%下回っているが、7〜9月の見通し(前期比−8.6%、前年比−31.6%)を4.7%上回っている。

【住宅投資は減少持続、公共投資は伸び率鈍化】
この間住宅投資は、8月の新設住宅着工戸数が前年比−38.3%と下落幅を拡大していることから見て(図表2)、当分下落傾向を改めないと見られる。
また公共投資は、8月の公共投資請負額が前年比+8.7%と3〜6月頃の高い伸びに比べると増加幅を縮小していること(図表2)から判断すると、08年度補正予算や09年度当初・補正予算の政策効果の一巡につれて、今後は増加率が鈍化すると見られる。

【交易条件の好転で実質の純輸出が増加】
 最後に外需の動向をみると、8月の通関は輸出が前年比−36.0%(前月は同−36.5%)、季調済み前月比−0.7%(前月は同−1.3%)、輸入は前年比−41.3%(前月は同−40.8%)、季調済み前月比−1.0%(前月は同+3.0%)と、輸出入共に頭打ちとなっているが、これを実質ベースに引き直してみると(日銀試算)、輸出は前月比+1.5%、輸入は同+1.0%と輸出の伸びが僅かに高く、実質貿易収支の黒字は前月に比しやや拡大した(図表2)。これも交易条件好転の影響である。
 この結果、7〜8月の実質貿易収支の平均は、4〜6月平均比+27.2%の増加となっており、7〜9月期の実質GDP統計では、「純輸出」が引き続き増加し、成長にプラスの寄与となる蓋然性が高い。

【7〜9月期は国内需要と外需が揃ってプラス成長に寄与する可能性】
 以上、8月までの主要経済指標を中心に景気動向をみてきたが、これを総括すると、7〜9月期には内需と外需が揃って成長に対してプラスの寄与をする蓋然性が高まってきた。
 5四半期振りにプラス成長に転じた4〜6月期は、外需の成長寄与度が+1.6%、内需のそれが−1.1%、差し引き+0.6%(年率+2.3%)のプラス成長と、もっぱら外需に依存したプラス成長への転換であった(図表3)。しかし、7〜9月期は、エコ・カー減税、新車購入補助金、エコ・ポイントなどの政策効果と、前年の石油・穀物などの国際原料品市況高騰の反動落ちと円高による輸入品の値下がり=交易条件の好転から消費者物価が下落しているため、実質ベースの家計消費がプラスに転じている。また、5四半期下落を続けてきた設備投資(図表3)にも、ここへきて底打ちの気配がでてきた。他方、公共投資の増加、住宅投資の減少という基調には大きな変化はない。
 この結果、5四半期連続して減少を続けてきた国内需要は、7〜9月期にプラスに転じた可能性が高くなってきた。
 そうなると、外需の成長寄与度もプラスなので、7〜9月期の成長率は4〜6月期を上回るプラス成長となる蓋然性がでてきた。9月の景気指標の発表が待たれるところである。