雇用・設備・在庫の調整が進み、企業収益は下期に底を打つが、これらの調整で国内需要は引き続き弱く、輸出見通しの下振れも加わって回復は緩やか

―9月調査「日銀短観」のポイント(H21.10.2)


【総括―輸出見通しの下方修正もあって回復テンポは6月調査の見通しより下振れ】
 10月1日(木)に発表された09年9月調査「日銀短観」によると、「業況判断」DIは6月調査に続き2期連続の緩やかな改善となり、先行きも改善する見通しとなっているが、その「悪い」超幅はまだかなり大きい。10月から始まる09年度下期売上高の前年同期比減収率は、6月調査比やや拡大し、また設備と雇用の「過剰」超幅の縮小は、6月調査で予想されたほどには進んでいない。09年度の設備投資計画の前年比減少率は、製造業を中心に6月調査比やや拡大した。雇用者数は09年3月末から前年比減少に転じている。
 このように回復は進んでいるものの6月調査時点の見通しに比べれば下振れしているが、これは主として09年度の輸出見通しの下方修正に伴う大企業製造業の見通し下振れによるものである。他方、大企業非製造業の09年度下期の売上高の計画は、前年比+0.1%と6月調査に比べて僅かに上方修正され、また非製造業と金融機関を合計した09年度設備投資計画は、6月調査に比して下方修正されていない。

【「業況判断」は3期連続改善、中堅・中小企業の極端な悲観的見通しは後退】
 「業況判断」DIから見ていくと、大企業の「悪い」超幅は28%と6月調査比11%ポイント縮小したが、しかし6月調査の先行き予想(26%)ほどには改善していない。
 これに対して中堅企業と中小企業では、「悪い」超幅はそれぞれ−35%、−43%と6月調査比それぞれ9%ポイント、6%ポイントの改善となり、6月調査の先行き予想(それぞれ−39%、−48%)よりも4〜5%ポイント大きく改善した。
 中堅企業と中小企業の「業況判断」DIの水準は大企業よりも悪く、改善幅は小さいが、3か月前の極端な悲観的見通しはやや後退したようだ。
 また「業況判断」DIの水準は、各企業規模とも、過去に記録した93年、98年、01年のボトムよりはかなり改善された水準に戻ってきた(下図参照)。


【輸出は09年度上期に予想を上回る落ち込み、下期の回復予想も下振れ】
 6月調査時点の予想に比して大企業の「業況判断」の改善テンポは下振れし、中堅・中小企業のそれは上振れしたのは、大企業の中で高い比率を占める輸出関連製造業の輸出見通しが下方修正されたためと思われる。
 大企業製造業の売上高の計画を見ると、6月調査に比べて、09年度上期の輸出は−1.7%の下方修正、国内需要は−0.1%の下方修正、下期は輸出が−1.5%の下方修正、国内需要は+0.1%の上方修正となっている。この結果、09年度全体では、輸出が前年比−20.4%、国内需要が同−12.0%、全体として同−14.2%の減少と見込まれている。
 もっとも、売上高の落ち込みはもっぱら年度上期に集中しており、下期は輸出+3.3%、国内需要+0.1%、合計+0.9%の前年同期比増加の計画である。

【在庫調整の進捗から供給超幅は縮小、価格下落圧力はやや後退】
 国内では、在庫調整が着実に進み、悪化した需給状況が徐々に修正されつつある。
 国内での「製商品・サービス需給判断」DIの「供給超過」幅は、製造業・非製造業、大企業・中堅企業を問わず、下表の通り、着実に縮小している。
 この背景には、下表の通り、「在庫水準判断」DIの「過大」超幅の縮小があると見られる。
 このため、製造業の「販売価格判断」DIの「下落」超幅は、大企業で−19%、中堅企業で−29%と6月調査比それぞれ5%ポイント、4%ポイント改善し、とくに6月調査の先行き予想に比べると、それぞれ3%ポイント、6%ポイントの改善となっている。当初予想したほどには、強いデフレ圧力は懸っていないようだ。
 「需給判断」DI、「販売価格判断」DIはいずれもまだ水準としてはかなり悪いが、それでも93年、98年、01年の「供給」超過幅、「下落」超幅のボトムよりは、縮小している。





【設備過剰感は強く、09年度設備投資計画は下方修正】
 このように在庫調整の進捗に伴う供給超過の縮小は徐々に進んでいるが、国内最終需要の改善につながる設備、雇用の回復は、まだみられない。
 09年度設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、製造業・非製造業・金融機関を合計したベースで、6月調査比−0.5%下方修正され、前年比−12.7%と08年度(同−5.9%)を大きく上回る減少率となった。
 内訳をみると、下表の通り、製造業の下方修正の幅が大きく、非製造業・金融機関の合計は下方修正がゼロである。また前年比減少率も、製造業が−26.7%と極めて大きく、非製造業・金融機関は−5.1%にとどまっている。
 背後にある「生産・営業用設備判断」DIを見ると、製造業・非製造業とも各規模企業で6月調査よりは「過剰」超幅が縮小しているが、それでも製造業の「過剰」超幅(大企業34%、中堅企業33%、中小企業35%)は、93年、98年、01年のピークを上回っている。


【雇用、設備の調整進捗で企業収益は底打ち】
 「雇用人員判断」DIも、製造業・非製造業の合計で「過剰」超20%と、6月調査の23%よりはやや改善し、先行きは15%と更に改善する予想となっている。
 しかし、現実の雇用者数(製造業・非製造業・金融機関の合計)は09年3月末に前年比−0.4%と減少に転じ、6月末は同−1.1%と減少幅を拡大した。
 雇用と設備の調整圧力はまだ懸り続け、家計消費と設備投資を中心とする内需回復の兆しは当面見えていない。前述の売上高計画を見ても、大企業製造業の国内需要は09年度下期に前年同期比+0.1%になるものの、非製造業全体の下期売上計画は同−2.5%の減少である。
 しかし、雇用と設備の調整は、企業収益の改善には寄与していると見られる。09年度下期の経常利益(製造業・非製造業合計)は極端に落ち込んだ前年同期に比して2.1倍となり、売上高経常利益率は2.79%と水準としては極めて低いが、08年度下期(1.30%)、09年度上期(1.55%)に比して改善する見込みである。