2009年7月版

景気は最悪期を脱したが下期はなお不透明

【在庫調整の進捗に伴い生産、出荷のリバウンドが続く】
 景気が最悪期を脱したことが、一段とはっきりしてきた。
 5月の鉱工業生産と出荷は、それぞれ前月比+5.9%、+4.5%とかなり大幅な増加となり、6月と7月の生産予測指数も、それぞれ同+3.1%、+0.9%と5か月連続で上昇する形となっている(図表1)。仮に実績が予測通りになるとすれば、生産は2月のボトムから6月までに+18.6%上昇し、昨年10月からの落ち込み幅の37.8%を取り戻すことになる。また4〜6月期の生産は、前期比+8.7%と5四半期振りに大幅な増加となる。
 回復を主導している業種は、落ち込みの激しかった乗用車、電子部品・デバイス、一般機械、情報通信機械、鉄鋼などの主力輸出製品である。世界同時不況の衝撃で、現地と国内に過剰在庫が積み上がり、その在庫減らしで急激に落ち込んだ輸出と生産・出荷が、在庫調整の進捗につれてリバウンドしたのである。
 因みに鉱工業生産者在庫は、昨年9月から12月まで+3.4%増加したあと、本年1月から5月までに−12.0%減少し、5月現在、前年水準を−8.3%下回っている。

【実質「純輸出」は4〜6月期に増加に転じる】
 5月の通関輸出と輸入は、前年比それぞれ−40.9%、−42.4%と4月(それぞれ−39.1%、−35.8%)よりも減少幅が拡大したが、これらは恐らく連休の日並びの関係で今年の休日が多かったためであろう。
 輸出を国・地域別にみると、アジア向け(前年比−35.5%)と中南米向け(同−36.4%)の減少幅が、米国向け(同−45.4%)やEU向け(同−45.4%)よりも小さいという状態が続いている。
 実質GDP統計の「純輸出」に対応する実質ベースの輸出入の動向を日本銀行の推計によって見ると、5月の季節調整済み前月比は、輸出が+5.1%の増加、輸入が+2.2%の増加となり、実質貿易収支の黒字(05年平均100の指数)は108.2となり、前月(85.9)より更に拡大した(図表2)。
 また、4〜5月平均の実質貿易収支の黒字は96.6となり、1〜3月平均(23.7)を大きく上回っている。実質GDP統計の「純輸出」は3四半期続けて減少し、とくに昨年10〜12月期と本年1〜3月期の大幅なマイナス成長の主因となったが、4〜6月期には4四半期振りに増加に転じ、プラス成長の要因となる。

【企業心理はやや好転したが先行きの見通しは下振れ】
 このような生産、出荷、輸出の回復を反映して、6月調査「日銀短観」では、2年間続いた「業況判断」DIの「悪い」超幅拡大が縮小に転じ、先行きも更に縮小する形となった。3月頃まで極端な悲観に傾いていた企業心理は、やや落ち着きを取り戻したように見える。
 しかし、同じ6月調査「日銀短観」で、先行きの売上高、設備投資、雇用の計画は、3月調査に比して下方修正された(このHPの<最新コメント>“業況は最悪期を脱したが、売上高、設備投資、雇用の見通しは下振れ―6月調査「日銀短観」のポイント”H21.7.1参照)。
 本年度下期の売上高の計画は、3月調査の前年比+1.8%から今回は同−1.4%に下方修正され、本年度の設備投資計画(金融機関を含む全産業、ソフトウェア投資を含み、土地投資を除く)は、同じく前年比−9.0%から同−12.2%に下方修正された。「雇用人員判断」DIの「過剰」超幅も、3月の20%ポイントから6月の23%ポイントに拡大した。

【雇用は引き続き悪化】
 このような企業の判断を裏付けるかのように、5月の雇用は、「労調」の就業者が前年比−2.1%、雇用者は同−1.8%、「毎勤」の常用雇用は同−0.2%と揃って減少し、完全失業率は5.2%と前月比0.2%ポイント悪化した(図表2参照)。
 他方、5月の賃金・所得は、「毎勤」の現金給与総額が時間外手当の大幅落ち込みを中心に前年比−2.9%の減少となった。しかし、「家計調査」の可処分所得(勤労者世帯)は、世帯主収入は前年比−2.6%の減少となっているものの、家計を助ける配偶者の収入が同+6.8%と増えているため、全体では、同+0.9%の増加となった。
 このため5月の消費支出は、勤労者世帯では同+0.6%の増加となった。しかし全世帯得ベースでは同−0.9%の減少である。

【消費者物価の下落で実質の所得と消費は増加】
 以上は名目ベースの動きであるが、注目すべきは消費者物価の下落を考慮に入れた実質ベースの動きである。
 全国消費者物価は、昨年7月には、国際的な原油、穀物などの高騰を反映して、ガソリンや食料品が急騰し、前年比は総合で+2.3%、除く生鮮食品で+2.4%のピークまで大きく上昇した。しかし、その後の国際商品市況の反落を反映して、全国消費者物価の前年比上昇率は次第に低下し、とくに昨年高騰した5〜11月と比較される今年の5〜11月の前年比は、マイナスに転じてくる。現に5月は総合、除く生鮮食品共前年比−1.1%の下落となった。
 従って、前述した可処分所得の前年比+0.9%は、実質では+2.1%とかなりの上昇であり、消費支出も全世帯の同−0.9%の減少が実質では+0.3%の増加に変わる。勤労者世帯では同+0.6%が同+1.8%とかなりの上昇率となる。
 消費者物価の下落をデフレの懸念に結び付け、悪材料と見るのは一面的で、家計にとっては不況下の救いである。

【設備投資と住宅投資は低迷、公共投資には動意】
 設備投資は、前述のように「日銀短観」でも本年度計画が下方修正されたが、足許の動きも弱い。5月の一般資本財出荷は前月比−2.5%と2か月連続で減少し、前年比は−45.1%まで落ち込んだ(図表2)。輸出が持ち直していることを考慮すると、これは設備投資の弱さを反映した動きと見られる。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)も、4月は前月比−5.4%減、前年比−32.8%減と減少傾向を改めていない(図表2)。
 また住宅投資は、新設住宅着工戸数が5月も前年比−30.8%と低迷していることからみて(図表2)、弱いままである。
 このような民間投資活動とは対照的に、公共投資は政府の景気対策を反映して活気を取り戻しつつある。公共工事請負額は3月以降前年を上回り、とくに3月と4月は前年比それぞれ+15.3%、+20.5%の大幅な伸びとなっている(図表2)。

【4〜6月期は5四半期振りのプラス成長、しかしその先は不透明】
 以上を総括すると、4〜6月期の実質GDPは、4四半期連続のマイナス成長(図表3)のあと、5四半期振りに小幅のプラス成長に転じる蓋然性が高い。
 減少してきた「純輸出」が増加に転じるのが、最大の理由である。また、公共投資が増加し、在庫投資の減少幅が縮小してくるのも、プラス成長の要因として寄与してこよう。
 2四半期連続して減少した家計消費が、消費者物価下落の影響で横這い、ないしは小幅の増加となる可能性があることも、成長の下支え要因である。
 他方、設備投資と住宅投資、とくに前者は成長率を大きく引き上げる要因となるであろう。
 しかし、4〜6月期のプラス成長が今後も続くかどうかは、不透明である。プラス成長に伴って輸入が増えてくれば「純輸出」の拡大は鈍化しよう。在庫投資の減少幅縮小や増加も、在庫水準が正常化するまでの一時的な動きだ。公共投資は、家計消費や設備投資に比較するとGDP中のウェイトが小さく、成長寄与度に限界がある。
 先進国を中心とする世界同時不況の立直りは、まだ見えていない。国内で家計消費と設備投資が立直らない限り、回復は本物にはならないが、その点も不透明である。