業況は最悪期を脱したが、売上高、設備投資、雇用の見通しは下振れ
―6月調査「日銀短観」のポイント(H21.7.1)
【業況判断と収益の見通しは好転、売り上げの見通しは下振れ】
本日(7月1日)公表された6月調査「日銀短観」のポイントを一言で言えば、3か月前の3月調査に比べ、業況判断などの企業心理と本年度下期の収益回復見通しは好転しているが、本年度下期の売り上げ回復の見通しや設備投資・雇用の計画は下振れしている。売り上げ回復の見通しが下振れしているにも拘らず、収益回復の見通しが上振れしているのは、3月時点の行き過ぎた悲観の反動で、企業心理がやや落ち着きを取り戻したことによるものであろう。
【業況判断の先行き見通しが3か月前の悪化から今回は好転に変わる】
まず「業況判断」DIを見ると、製造業と非製造業の大・中堅・中小の各規模企業において、3か月前の「先行き」よりも、今回の「最近」の方が、「悪い」超幅が縮小している。企業が3か月前に予想していた程、実際の業況は悪化しなかったということである。
また、3か月前の調査では、製造業と非製造業の各規模企業において、「最近」よりも「先行き」の方が「悪い」超幅が拡大すると見ていたが、今回の調査では、両業種の各規模企業において、「最近」よりも「先行き」の方が「悪い」超幅が縮小すると見ている。
つまり、3月時点では更に悪化していくと見ていた「業況判断」が、6月時点では好転していくという見方に変わった訳である。
TVなどマスコミの解説では、市場予想(民間調査機関の平均的予想)ほどには大企業の「業況判断」DIが好転しなかったと報じているが、これは市場予想が勝手に間違えたのであって、企業の業況先行き感が3か月前の悪化から今回は好転に変わったことに、注目すべきであろう。
【需給悪化幅の縮小から本年度下期の経常利益は3か月前の予想より上振れ】
このような先行き感の変化を反映して。販売と仕入れの「価格判断」DIの「先行き」見通しも、3か月前の「下落」超幅拡大から今回は縮小に変わった。背後には「先行き」の「需給判断」DIの「供給」超幅が、3か月前の拡大から今回は縮小に変わったこと、「在庫水準判断」DIの「過剰」超幅も縮小していることがある。
このような先行き感の好転を反映して、本年度下期の経常利益の見通しも、両業種の各規模企業で3か月前に比して上方修正され、増益幅の拡大ないしは赤字から黒字への転換に修正されている。ただし、上期の収益悪化が大きいため、09年度通期では、両業種全規模企業ベースで前年度の−42.5%の減益に続き、−16.4%の減益が続く見通しである。
売上高経常利益率も、同じベースで、下期には2.89%に上昇するものの、通期では2.26%と前年度(2.44%)を下回る予想となっている。
【輸出を始め売上高の見通しは下方修正】
企業心理や収益見通しの行き過ぎた悲観はこのように修正されてきたが、実体面の動きに関する企業の見通しは、むしろ慎重になっているように窺われる。
両業種の全規模企業において、本年度上期と下期の売上高計画は下方修正され、通期では両業種全規模合計ベースで−9.5%と前年度(−4.5%)を上回る減収見通しとなっている。
これを上、下別にみると、上期は前年同期比−17.0%の大幅減収、下期も3か月前には同+1.8%の小幅増収であったが、同−1.4%の減収に下方修正された。
とくに、大企業製造業の輸出計画を見ると、3か月前に比べて、上期は23.9%ポイント下方修正されて同−35.7%、下期は7.2%下方修正されて同+4.8%と下振れが大きい。日本の輸出に対する世界同時不況の衝撃は、3か月前に企業が予想していたよりも大きいようだ。
【設備投資と雇用の計画は下方修正】
このような売上高計画の下方修正と並んで、本年度の設備投資計画も3か月前より下方修正された。金融機関を含む全産業ベース(ソフトウェア投資を含み、土地投資を除く)でみると、本年度は3か月前より3.2%ポイント下方修正され、前年比−12.2%の減少と、前年度(−5.9%)を上回る減少幅となる計画である。
また「雇用人員判断」DIの「過剰」超幅も、両業種各規模企業の合計で、3か月前の20%ポイントから23%ポイントに悪化した。本年3月末の雇用者数は、金融機関を含む全産業ベースで前年比−0.4%と減少に転じた。2010年度の新卒採用計画は、同じベースで前年比−23.3%の大幅減少である。
このような雇用調整の結果、先行きの「雇用人員判断」DIの「過剰」超幅は、現時点の23%ポイントから17%ポイントに縮小する。
以上のように、企業の業況は最悪期を脱したものの、実体経済に係わる売上高、設備投資、雇用の見通しは好転していない。