2009年4月版

急落する輸出と鉱工業生産に先行き底打ちの兆し

【中国向け輸出の減少幅が2月に縮小】
 輸出は2月にも前月比−49.4%と前月(同−45.7%)に比べて落ち込み幅がやや拡大した。しかし、地域・国別に見ると、ようやく変化の兆しが現れてきた。
 中国、香港、台湾向けの輸出(輸出全体に占めるシェア28%)が、前年比減少幅を縮小したのである。これを反映して、中国を含まないアジアNIEs(同23%)でくくってみても、前年比減少幅は縮小した。
 中国向けは、前月の前年比−45.2%から2月は同−39.7%と減少幅の縮小が一番大きかった。季節調整をしていない原計数のままではあるが、2月の前月比は+19.7%の増加である。
 1月に公表されたIMFの世界経済見通しでは、本年の中国の成長率は+6.7%、来年は+8.0%と予測されている。これは下振れの可能性もあるが、中国が巨額のインフラ建設で国内経済を拡大していることを考えると、現地の過剰在庫の調整が完了したあと、日本から中国への輸出が再び増加し始める可能性は十分にある。

【在庫の減少を背景に生産予測指数は3月と4月に連続上昇】
 輸出の落ち込みを反映して大幅な減少を続けていた鉱工業生産と出荷は、2月もそれぞれ前月比−9.4%、同−6.8%の大幅減少となり(図表1)、前年同月比はそれぞれ−38.4%、−36.8%まで落ち込んでいる。
 しかし、出荷の落ち込み以上に生産を抑制してきたため、生産者在庫は1月に前月比−2.0%、2月に同−4.2%と2か月連続で減少した。2月の前年同月比は−1.7%と前年水準を下回った。出荷が急落しているため、在庫率は極めて高水準であるが(図表1)、現地在庫調整の一巡に伴って輸出が回復し始めることを展望すると、日本国内の在庫調整は最終局面にきていると見られる。
 このため、3月と4月の生産予測指数は、それぞれ前月比+2.9%、同+3.1%と連続して上昇し、前年比減少幅は縮小する(図表1)。実績が予測通りになれば、6か月振りの生産底入れとなる。個別企業の情報では、本田技研が3月から、トヨタ自工が5月から、それぞれ増産に転じると伝えられる。

【製造業の雇用減少を内需業種の雇用増加が補っているが全体として雇用は徐々に悪化】
 雇用は、製造業を中心に、ジリジリと悪化している。「毎勤」の2月の常用雇用は、前年比+0.5%と前月(同+1.0%)に比して増加幅を縮めた。製造業(同−1.0%)の減少を、医療・福祉(同+3.5%)、教育・学習支援業(同+3.6%)、飲食店・宿泊業(同+2.9%)、金融・保険業(同+2.5%)、情報通信業(同+0.5%)などの内需産業の増加が埋める構図が続いているが、全体としては徐々に悪化している。
 2月の「労調」では、就業者が前年比−27万人(同−0.4%)、完全失業者が同+33万人(同+12.4%)となり、完全失業率は4.4%と前月に比して0.3%ポイント上昇し、4年前の水準に戻った。
 就業者の業種別内訳では、「毎勤」の常用雇用と同じように、製造業の前年比−22万人(同−2.0%)を、医療・福祉、生活関連サービス業・娯楽業、教育・学習支援業、情報通信業の雇用増加が補っている。

【雇用と賃金の悪化を背景に家計消費と住宅投資は減少傾向】
 他方、2月の賃金の動向は、所定外(時間外)給与を中心とする製造業の大幅減少(前年比−5.9%)に加え、内需産業でも下がっているため、全体として前年比−2.7%と減少幅を拡大している(図表2)。
 このような雇用と賃金の動向を反映して、勤労者家計の2月の可処分所得は、前年比−3.1%とやや大きく減少した(図表2)。これに伴い、2月の消費支出(全世帯)も前年比−3.5%と3か月連続して前年水準を下回った(図表2)。
 販売統計を見ても、2月の小売販売額は前月比−0.3%減、前年同月比−5.8%減と昨年9月頃からの下落傾向を改めていない。2月の乗用車新車登録台数は前年比−24.4%と前月(−20.0%)よりも下落幅が拡大した。
 家計消費は、10〜12月期に引き続き、1〜3月期も減少しそうである(図表3)。
 GDP統計(実質)の住宅投資は、昨年7〜9月期に前期比+4.0%、10〜12月期に同+5.7%とやや大きく伸びてきたが、新設住宅着工戸数の前年比が昨年11月から急激に低下し、本年2月は−24.9%まで落ち込んでいること(図表2)から判断すると、本年1〜3月期か、遅くとも4〜6月期からは減少に転じる可能性が高い。

【設備投資の下落傾向はやや加速】
 足許の設備投資と機械輸出の動きを反映する一般資本財出荷は、2月も前月比−7.1%、前年同月比−37.9%と、昨年1〜3月期からの減少傾向を改めていない(図表2)。これには機械輸出の落ち込みがかなり大きく響いていると見られるが、機械受注(民需、除く船舶・電力)が昨年7〜9月期から前期比、前年比共に落ち込み始め、本年1月の前年比は−39.5%に達していること(図表2)から判断すると、足許の設備投資も昨年1〜3月期以来の減少傾向(図表3)を改めていないと見られる。
 3月調査「日銀短観」でも、08年度下期の設備投資(全規模全産業、含む土地投資)は前年同期比−8.4%と上期(同−1.9%)よりも下落幅を拡大する見通しとなっている。

【2月の実質貿易収支は前月比好転したが黒字の水準はまだ低い】
 最後に外需(GDPベースの純輸出)の動きを見ると、始めに述べたように名目輸出は急激に落ちているが、ここへ来て名目輸入も急落しているため、2月の名目貿易収支は昨年10月以来の赤字から5か月振りに黒字に戻った。
 これを実質ベースで見ると(日銀試算)、2月の輸出は前月比−5.5%の減少、輸入は同−15.9%の減少となったため、実質GDP統計の純輸出に見合う実質貿易収支は、1月に比し好転した。
 しかし、2月の実質貿易収支の黒字幅は小さく、1〜3月期は前期比でまだ悪化する可能性が高い(図表2)。

【1〜3月期は最悪のマイナス成長の可能性、4〜6月期以降はマイナス幅が縮小し、プラス成長へ】
 以上を総括してみると、1〜3月期の実質GDPは、10〜12月期同様、純輸出がまだ減少する上、10〜12月期に小幅の減少にとどまった国内需要が、家計消費と設備投資の減少幅拡大、住宅投資の増加から減少への反転、10〜12月期に積み上がった過剰在庫の反動減(在庫投資の増加から減少への反転)、と悪材料が揃っているため落ち込み幅が大きくなり、10〜12月期(前期比年率−12.1%)を上回る記録的なマイナス成長になる恐れがある。
 しかし、4〜6月期以降は、現地在庫調整の一巡による輸出の底入れと大幅なマイナス成長に伴う輸入の減少幅拡大によって純輸出が増加し始め、国内の在庫投資も一巡して鉱工業生産も緩やかな増加に転じるため、底這い状態の中で緩やかなプラス成長に戻っていくと見られる。
 3月調査「日銀短観」においても(<最新コメント>“経済情勢は08年度下期が最悪、09年度上期は底這いのあと下期にやや立ち直り、製造業と非製造業の格差が目立つ―3月調査「日銀短観」のポイント”H21.4.1参照)、経済情勢の最悪期は08年度下期で、09年度上期以降、売上高などの前年比落ち込み幅は縮小する見通しである。