2008年12月版
輸出の落ち込みで製造業は急激に悪化、一方交易条件の好転もあって消費が底固いため非製造業は崩れていない
【輸出・設備投資関連業種を中心に鉱工業生産・出荷が急落】
日本経済は、既に4〜6月期(年率成長率−3.7%)、7〜9月期(同−0.4%)と2四半期連続してマイナス成長を記録したが(このHP<最新コメント>“純輸出・設備投資主導型の景気後退だが交易利得の拡大に将来の回復の芽―7〜9月期GDP統計が語る情報(H20.11.17)”参照)、10月以降、景気後退が製造業を中心に一段と深刻になって来た。
10月の鉱工業生産と出荷は、前月比いずれも−3.1%と下げ幅を広げ、更に11月と12月の生産予測指数は、前月比−6.4%、同−2.9%と下落テンポを一層早める形となっている。実績が仮に予測通りとなれば、10〜12月期は前期比−8.5%の大幅下落となり、12月の生産水準は、5年前の03年頃の水準まで下がることになる(以上図1参照)。
このような製造業の急激な悪化は、02年度から07年度までの経済成長が、もっぱら輸出と輸出関連設備投資に牽引されて来たことの反動である。生産・出荷の下落が激しい業種は、一般機械、情報通信機械、電子部品・デバイス、乗用車など輸出・設備投資関連業種であることが、それを物語っている。
【欧米向けを中心に輸出の下落幅は拡大】
10月の通関輸出は、8月(前年比−1.1%)、9月(同−2.7%)に続いて、同−6.1%と大幅に減少した。これは既にマイナス成長に陥っている北米向け(同−18.2%)と西欧向け(同−17.0%)が2桁の減少となったためで、ASEAN、中南米、中東、ロシアなど新興国向けは増えている。
また、日本銀行が試算した10月の実質輸出は前月比−3.1%、実質輸入は同+0.6%となり、実質GDPベースの「純輸出」に対応する実質貿易収支は、4〜6月期、7〜9月期に続いて10月も減少している(図表2)。
金融危機に端を発する米欧先進国のマイナス成長の影響は、10〜12月期の日本の輸出に大きく出てくると見られる。
【設備投資の下落傾向は続く】
設備投資はGDPベースで既に3四半期連続して減少しているが(図表3)、足許の設備投資と資本財輸出の動向を反映する一般資本財の出荷は、3四半期連続で前年比マイナスとなったあと、10月も同−11.4%と大きく落ち込んでいる(図表2)。
6〜9か月先の機械への投資を示す機械受注(民需、除く船舶・電力)は、7〜9月期に前期比−10.4%、前年比−6.9%と大幅に落ち込んだ。10〜12月期の見通しは、前期比+1.2%、前年比−6.9%と下げ止まる形になっているが、企業収益の悪化(7〜9月期の経営利益<法人企業、全産業>は前期比−18.9%)から予想すると下振れのリスクは高いと思われる。
【サービス業、医療福祉、流通など非製造業の売上高と雇用は増えている】
このように、これ迄の成長のエンジンであった輸出と輸出関連設備投資の落ち込みにより、製造業は大きな痛手を受けているが、法人企業の売上高で製造業の2倍の規模を持つ非製造業は、7〜9月期現在、まだ売上を伸ばしている。全産業ベースの法人企業の売上も、7〜9月期現在、増えている(下表参照)。
また、10月の雇用者数は、製造業で前年比−2.8%の落ち込みを見せたものの、卸売・小売業で同+2.1%、サービス業で同+2.7%、医療・福祉で同+2.1%の増加となったため、合計では同+0.3%の増加となった(図表2)。因みに、増加した三つのセクターの雇用者数は合計2358万人(シェア42.5%)と、製造業の1074万人(同19.4%)の2倍以上である。
このような非製造業の動きを反映し、10月の完全失業率は3.7%となり、前月比−0.3%ポイントと大きく低下した(図表2)。これには統計上の歪みが響いているかも知れないが、いま急激に悪化している製造業のシェアは、雇用者ベースで全体の2割に過ぎないことが、その背景にある。
【賃金、所得も製造業の時間外手当の急落を非製造業が補う形】
10月の総実労働時間(全産業)は、製造業の所定外労働(時間外労働)が前年比−11.1%の大幅減少を示したため、前年比−0.1%と僅かに減少したが、所定内労働時間は製造業のマイナスを含めても同+0.3%と増えている。
これを反映して、現金給与総額も、所定外給与(時間外手当)が前年比−3.1%の減少となってため、全体では同−0.1%の微減となった(図表2)が、所定内給与は前年比+0.2%の増加を保っている。
他方、家計統計では、10月の勤労者家計の可処分所得が前年比+2.4%の増加となった。しかし、景気後退を反映して消費態度が慎重化しているためか、全世帯の消費支出は同−1.8%の減少となっている(以上図表2)。
もっとも、急落する鉱工業生産・出荷の中にあって、非耐久消費財は4〜6月期(前期比で生産+1.4%、出荷+0.8%)、7〜9月期(同+2.1%、+1.0%)に続いて10月も前月比+0.9%、+0.7%と増えており、消費の底固さは、まだ崩れていないように見える。
【国際商品市況反落と円高に伴う輸入物価の下落・消費者物価の上昇幅縮小が所得・消費を下支える形】
この間、全国消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率は、8月の+2.4%をピークに、9月は同+2.3%と謄勢の頭打ちを示し、10月は同+1.9%と上昇幅を縮小した。家計消費が底固さを保っている背景には、前述のように非製造業の雇用・賃金がまだ落ちていないことと並んで、消費者物価の上昇幅縮小に伴う実質ベースの所得・賃金の上振れがあると見られる。
この消費者物価の謄勢鈍化は、原油、穀物などの国際商品市況の反落と対米ドル90円台前半まで来た円高によって、消費財の円建て輸入価格が下がっているためである。
因みに、日本に入着した段階の価格を調べている企業物価指数中の輸入物価指数を見ると、本年8月をピークに下落に転じ、10月は8月比−17.0%の低下となっている。この低下傾向は当分続くと見られる。
【当面輸出急落による下振れが大きいが来年に向かって交易条件好転による上振れ要因が表面化する見込み】
以上を総括すると、日本経済は対米欧輸出の急落と輸出関連設備投資の下振れにより、製造業の生産、出荷が大幅に低下し、その影響が雇用・賃金の悪化要因となっている。
しかし、非製造業の売上高や雇用・賃金には、現在までのところ下振れは見られない。これは、国際商品市況の反落と円高に伴う輸入物価の下落により、一方で非製造業の輸入原材料・輸入製品コストの低下による収益好転が起こり、他方で家計の実質所得・実質賃金が消費者物価の上昇率低下により上振れしているためであろう。
これをマクロ経済ベースで見れば、輸出減少による実質国内総生産(GDP)の減少というマイナス要因と、交易条件の好転(交易損失の縮小又は交易利得の拡大)による実質国内総所得(GDI)の増加というプラス要因が、同時に起こっているということである。(注)
当面10〜12月期は前者のマイナス要因の方が大きいと見られるが、輸出品の現地在庫調整が一巡して輸出減少幅が縮小し、他方国内のマイナス成長を反映して輸入が減少に転じると、GDPベースの「純輸出」が増加し、前者のマイナス要因は小さくなる。
その時、後者のプラス要因を活かす内需刺激等が適切に打たれるならば、日本経済は09年中に回復の手懸りを掴むのではないか。この場合は、日本経済と不況が続く米欧経済とのデカップリングが起きる。
(注)GDP+交易利得(又は−交易損失)=GDI