純輸出・設備投資主導型の景気後退だが交易利得の拡大に将来の回復の芽
―7〜9月期GDP統計が語る情報(H20.11.17)
【7〜9月期は小幅ながら2四半期連続のマイナス成長】
本日(11/17、月)発表された本年7〜9月期のGDP統計(1次速報値)によると、このHPの<月例景気見通し>(2008年11月版)で予測していた通り、前期比−0.1%(年率−0.4%)と、4〜6月期(前期比−0.9%)ほど大幅ではないものの、小幅のマイナス成長となった。
2四半期連続のナイマス成長は、世界的なITバブルの崩壊で、01年4〜6月期から10〜12月期まで3四半期連続でマイナス成長となった時と、97年度超緊縮予算(増税7兆円、社会保障負担増加2兆円、公共投資削減4兆円、計13兆円)の強行で、97年4〜6月期から7〜9月期、98年1〜3月期から4〜6月期と2四半期連続のマイナス成長を2回記録した時以来のことである。
これで日本経済は、本年4〜6月期から景気後退に入っていることが、確認された。
【純輸出・設備投資主導型の景気後退】
7〜9月期のGDP統計には、将来を予測する上で貴重な情報が、いくつか含まれている。
第一に、ナイマス成長に大きく寄与したのは、設備投資の前期比−1.7%(GDP増加に対する寄与度−0.3%)と、純輸出の減少(同−0.2%)である。設備投資は、これで3四半期連続の減少、純輸出は2四半期連続の減少である(下表参照)。
【先進国のマイナス成長・新興国の成長減速による景気後退】
設備投資と純輸出は、いずれも今回の米国発金融危機に伴う世界経済の成長減速によるものである。米国は7〜9月期に前期比−0.3%となったあと、10〜12月期以降も住宅バブル破裂と金融危機に伴うマイナス成長が続くことが確実視されている。ユーロ圏は、4〜6月期、7〜9月期と既に2四半期連続して前期比−0.2%ずつマイナス成長となった。新興国でも、中国、インドなどの成長が減速している。
このような世界経済における先進国の景気後退、新興国の成長減速を反映して、日本の純輸出は既に7〜9月期からはっきりと減少に転じていたのである。また設備投資は、このような輸出動向と国内の景気後退を織り込んで、既に抑制されていた。日銀「短観」で増加が見込まれている08年度の設備投資計画は、12月調査で大きく下方修正されて出てくるであろう。
今回の日本経済の景気後退は、典型的な純輸出・設備投資主導型で進んでいる。これは、02〜07年度に、超低金利と円安で、極端に輸出に偏った成長をしてきた報いである(このHPの<論文・講演>「新聞」“小泉構造改革下の日本経済”(H20.11.1)参照)。
【9月以降の交易条件好転・交易利得発生が10〜12月期以降の好材料】
7〜9月期GDP統計に見られる第二の貴重な情報は、国際商品市況の反落に伴う日本の交易条件の好転が、10〜12月期以降の景気後退の中で、回復の芽として育ってくる可能性を示唆していることである。
日本の交易条件(総合輸出価格指数÷総合輸入価格指数)は、国際商品市況の高騰と円安傾向に伴う輸入価格の上昇によって、本年8月まで悪化の一途を辿ってきたが、9月に始めて好転した(下表参照)。これは、石油、穀物、鉱石などの国際商品市況の反落と円高転換によって、輸入価格が9月に始めて大きく下落に転じたためである(下表参照)。
このような輸入価格の下落による交易条件の好転は、10〜12月期から本格的に進み、交易利得の発生と拡大により国内総所得GDI(実質国内総生産GDP+交易利得)を増加させ、所得面から景気に対してプラスに働いてくる。
【消費デフレーターの上昇ストップが7〜9月期の実質家計消費を支えた】
具体的に言えば、交易条件の好転、交易利得の拡大は、消費者物価の上昇率低下・下落による国民の実質所得増加と、輸入原材料・輸入部品の下落による企業収益の増加という形で、実質国内総所得GDIを拡大させる。これ迄は、交易損失の拡大がGDPを上回り、GDIは減少していた(下図)。これが10〜12月期以降、逆転すると期待される。10〜12月期から本格化するその走りが、7〜9月期にも芽生えていることを、見逃してはならない。
それは、消費デフレーターの上昇が止まり、家計消費が名目でも実質でも、前期比+0.3%となり、GDPの成長に対し+0.2%の寄与をしていることである。10〜12月期には、交易条件の好転が進み、消費デフレーターが前期比でマイナスとなり、実質家計消費を支えると予想される。その背後には、交易利得拡大に伴う実質国内総所得GDIの増加がある。住宅投資が7〜9月期に前期比+4.0%(実質GDP増加に対し+0.1%の寄与度)の増加となったことも、このような実質国内総所得の増加と関係があるかも知れない。
【内需、とくに国民生活に焦点を絞った財政出動が必要】
10〜12月期以降を展望すると、金融危機の実体経済に対する影響が世界中で一層進み、純輸出と設備投資に主導される日本の景気後退は、短くても本年度いっぱいから、来年度始めまでつづくであろう。その中で、雇用と賃金も悪化し、雇用者所得も減少する蓋然性が高い。
しかし、交易条件の好転、交易利得の発生は実質国内総所得GDIの増加要因として働き続けるので、輸出専門ではない企業の収益と国民の実質所得は、その面から下支えられる。
従って、家計消費や住宅投資など国民生活関連の支出と、内需型企業(とくに中小企業)の設備投資に対して有効な財政出動が図られるならば、今回の景気後退は、内需面から立ち直りの機会を掴むかも知れない。それが、極端に輸出に偏った日本経済の構造を直す好機になるであろう。
その意味では、早く総選挙を実施して本格的な政権を創ることが最優先の課題であろう。