2008年7月版

米欧向けの輸出減少と物価上昇による実質消費減少で4〜6月期はゼロないしマイナス成長の可能性

【内外景気の先行き警戒感から株価は12営業日連続の下落】
 景気の「足踏み」が続いている。これが短期的な調整に終わり、6月調査「日銀短観」の企業判断(このHPの<最新コメント>“足許の業況は悪化しているが、輸出回復と販価引き上げで年度下期は回復―6月調査「日銀短観」の企業判断(H20.7.1)”参照)のように、年度下期から再び回復に向かうのか、それとも景気後退の始まりなのか、重大な岐路に差し掛かっている。
 6月中頃まで底値を固めているように見えた日経平均株価も、国内景気の「足踏み」が続いていることに加え、米国における先行き不安感の強まりもあって、本日(7月4日)まで12営業日連続の下落となり、再び大きく水準を下げている。

【鉱工業生産は当面弱含み横這い】
 直近の景気指標を見ていくと、まず5月の鉱工業生産は前月比+2.9%と3か月振りに上昇したが、予測指数の同+4.7%を大きく下回り、水準としても直近ピークの2月の水準に戻っていない(図表1参照)。5月の上昇は、2か月連続して減少していた輸送機械(主に乗用車)と3か月連続して減少していた情報通信機械(主に携帯電話)の反動増によるところが大きい。6月の予測指数が同−0.9%と再び下落するので、6月の実績が予測通りと仮定した場合の4〜6月平均は、1〜3月平均比−0.3%の低下となり、生産は2四半期連続で下落することになる。
 7月の予測指数は前月比+2.2%の上昇となっているが、これは6月に低下する輸送機械、一般機械、電気機械等の反動増によるものである。
 鉱工業生産と出荷は、これらの業種の一高一低を中心に、当面、やや弱含みで横這いを続けると見られる。

【消費者物価の上昇により家計の実質所得と実質消費は低下】
 5月の雇用者数(全産業)は、季節調整値で前月比−0.1%減、完全失業者数は同0.0%と横這いで推移し、完全失業率は前月同様に4.0%となった(図表2参照)。
 就業者の業種別内訳を前年比で見ると、建設業、製造業、卸売・小売業、飲食店・宿泊業で減少し、医療・福祉、サービス業で大きく増えている。
 5月の現金給与総額(全産業)は前年比+0.2%、可処分所得(勤労者家計)は同+1.7%と増加したが(図表2参照)、同月の全国消費者物価がガソリン、食料品などの値上がりから総合指数で同+1.3%、生鮮食品を除くコア指数で同+1.5%と大きく上昇しているため、実質ベースの賃金と所得は減少、あるいは横這いにとどまった。
 このような雇用と所得の動向を反映して、5月の家計消費は冴えない動きとなった。小売業販売額は前年比+0.2%となったが、食料品など消費者物価の上昇を差し引いた実質ベースでは、1%以上のナイマスである。家計統計の消費支出(全世帯)は、名目ベースでも同−1.7%となった(図表2参照)。

【一般資本財出荷は3四半期連続して減少か】
 足許の設備投資と一部輸出を反映する5月の一般資本財出荷は、前年比−2.0%と3か月連続して前年を下回ったが(図表2参照)、前年比減少幅はやや縮小しており、季節調整済み前月比では+7.1%の増加となった。もっとも、4〜5月平均は1〜3月平均をまだ−0.3%下回っている。季節調整済み指数で2四半期連続して減少した一般資本財出荷が4〜6月期に上昇に転じるかどうかは、まだ判断出来ない。
 GDPベースの1〜3月期設備投資(実質)は、1〜3月期の「法人企業統計」を使って修正した「2次速報」において、「1次速報」の前期比−0.9%のマイナスから同+0.2%のプラスに上方修正され、3四半期連続の増加となっている。このところ一般資本財出荷の動向とはやや食い違った動きをしているが、これは輸出の伸び率鈍化によって一般資本財出荷が下振れしているためであろう。

【今後の景気の鍵を握る設備投資の動向】
 設備投資の6〜9か月の先行指標とされる機械受注(民需、除く船舶・電力)の季節調整値は、1〜3月期まで3四半期連続して増加したあと、4月も前月比+5.5%の増加となった。もっともこの水準は、1〜3月期平均を、−5.1%下回っているので、5月以降の動向を見なければ4〜6月期も増加するかどうかは分からない。
 6月調査「日銀短観」によると、本年度の設備投資計画(全産業+金融機関、ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、前年比+3.6%と前年度の同+2.7%を上回る伸びとなっている。この計画通りに実施されれば、4〜6月期以降も設備投資は底固く推移すると見られる。消費者物価の上昇で家計消費が弱含んでいる折柄、今後の設備投資の動向は景気全体を左右する鍵として、注意深く見て行かなければならない。

【北米、西欧、アジアNIEs向けの輸出が落ち込む】
 設備投資と並んで今後の景気を左右するのは、輸出の動向である。
 4〜5月の通関統計から日本銀行が推計した4〜5月の実質輸出入動向(季調済)を見ると、輸出は1〜3月平均比−3.5%減、輸入は同−4.0%減、貿易収支は同−2.4%減となっている。四半期ベースでこれまで一貫して増加して来た輸出と貿易収支が、4〜6月期に減少する可能性が出てきた。
 5月の通関輸出の前年比を地域別に見ると、対米国が−9.5%と大きく落ち込み、対西欧も−0.3%(対EUは−1.1%)とほぼ前年並みに落ちている。他方対アジアでは、ASEAN向けが+11.9%、中国向けが+12.3%と大きな伸びを続けている反面、米国景気の影響を受け易いアジアNIEs向けは+1.5%の伸びにとどまっている。また、中南米向けの+5.0%、中東欧・ロシア向けの+38.9%、大洋州向けの+19.1%などの高い伸びが目立つ。
 米国を中心とする成長減速の影響は、北米、西欧、アジアNIEs向けの輸出に明らかに現れている。反面、BRICs向けとASEAN向けは、いまのところ、デカップリングしていると見られる。

【スタグフレーションの様相を帯びてきた日本経済】
 以上を総括すると、米国の成長減速と世界的な食料品・資源・エネルギー価格上昇の影響は、4〜6月期の日本の輸出と家計消費に大きく響いている。
 企業は設備投資と雇用について、前向きの姿勢を維持しているが(前掲の<最新コメント>H20.7.1参照)、輸出と家計消費の下振れが企業の設備投資と雇用の判断にどう響いて来るかが、今後の景気展望のポイントと言えよう。
 昨年10〜12月期に年率+2.9%、本年1〜3月期に同+4.0%と予想外に高い成長を遂げた日本経済は(図表3参照)、4〜6月期に大きな試練に直面している。家計消費と輸出の下振れで、4〜6月期はゼロ成長近傍(マイナス成長を含む)の成長にとどまる蓋然性が高い。
 加えて、消費者物価の上昇率が高まり、スタグフレーションの様相が強まっている。市場の実質短期金利は既に−1%程度に下がっており、家計の預貯金は目減りしている。+1.5%、あるいはそれ以上の消費者物価上昇率とこれに伴うマイナス金利がいつ迄続くかによっては、日本銀行も利上げを真剣に考えざるを得ないであろう。
 消費者物価の上昇によって家計消費が落ち、景気不振で物価上昇がやがて収まって来るまでマイナス金利を放置するのか、それとも利上げによって投資を抑え、景気抑制で物価上昇が収まってくるのを待つのか、どちらにするのかによって、国民の厚生に与える影響が違うことを見落としてはならない。