足許の業況は悪化しているが、輸出回復と販価引き上げで年度下期は回復

―6月調査「日銀短観」の企業判断(H20.7.1)


【企業は足許の悪化を一時的な足踏みと見ている】
 本日(7月1日)発表された「日銀短観」(08年6月調査)によると、大企業の増収率(売上高の前年比増加率)低下と減益(経常利益の前年比減少)は、08年度上期がボトムとなり、下期は輸出の回復と販売価格の引き上げにより、早くも増収率の改善と増益に転じ、売上高経常利益率も回復に向かう計画となっている。
 上期の業況悪化にも拘らず、商品・サービスの需給はほとんど悪化せず、在庫は過剰となっていないため、企業は販売価格の引き上げを積極的に行う計画である。08年度の設備投資増加率は前年度を上回り、新卒採用計画も引き続き増加する。
 上期の業況悪化は、企業の足許と3か月先の業況判断の悪化に現れているが、その悪化幅は事前の予想ほどではなかった。
 今回の「日銀短観」から判断すると、企業は当面の業況不振を一時的な「足踏み」と見ており、「景気後退」の始まりとは見ていないようである。

【「業況判断」の後退は予想より小幅】
 詳しく見て行こう。
 まず、大企業の「業況判断」DIの「良い」超幅は、製造業で前回(3月)の11%ポイントから今回(6月)の5%ポイントへ、非製造業は同じく12%ポイントから10%ポイントへ悪化したが、今回の民間調査機関の平均予想が製造業で3%ポイント、非製造業で8%ポイントであったことを考えると、予想された程の悪化ではない。中堅・中小企業の「業況判断」DIも悪化したが、その悪化幅はやはり事前の予想ほどではなかった。
 しかし先行き(9月)については、大企業の「業況判断」DIの悪化はほとんど止まる予想となっているが、中堅・中小企業では更に悪化して行く予想となっている



【大企業の売上高は輸出を中心に年度下期に回復する計画】
 大企業の「業況判断」DIが先行きあまり悪化しない予想となっているのは、大企業が年度下期の業況回復を予想しているからと見られる。
 大企業の売上計画によると、製造業の輸出が08年度上期の前年比−0.3%の減少から、下期には同+3.7%の増加に転じるため、全体の売上高も、製造業は上期の同+3.3%から下期の同+3.6%へ回復し、非製造業も加えた大企業全産業も、上期の同+3.5%から下期の同+3.7%へ回復する計画である。
 しかし、中堅・中小業は、下期の売上高の伸びが更に低下する弱気の見通しを持っている。



【需給の堅調を背景に販売価格を引き上げる計画】
 このように大企業、とくに製造業が比較的楽観的な売上計画を持っているのは、上期の景気足踏みにも拘らず、需給はあまり大きく崩れないという強気の見通しがあるためと見られる。
 大企業製造業の「国内製商品・サービス需給判断」DIは、3月の「供給」超11%ポイントから6月の同10%ポイント、先行きも同10%ポイントとまったく悪化していない。「在庫水準判断」DIも「不足」超はあまり縮小していない。
 このような需給状況を背景に、仕入れ価格の上昇を販売価格の引き上げに転嫁する動きが広がると見られ、「販売価格判断」DIの「上昇」超幅は急速に拡大している。



【08年度下期には増益に転じ売上高経常利益率も回復する計画】
 売上高の回復と販売価格の引き上げにより、07年度下期と08年度上期に減益となった企業の経常利益は、大・中堅・中小の各規模で08年度下期に増益に転じる計画となっている。
 売上高経常利益率も、2半期連続して低下したあと、08年度下期には早くも回復する計画である。

 もっとも、年度でくくると、08年度上期の落ち込みが大きいため、大企業は07年度の+0.6%増益から08年度は−7.0%の減益に変わり、売上高経常利益率も5.06%から4.54%に低下する。

設備と雇用の不足は続き本年度の設備投資増加率は高まる計画】
 08年度下期回復の予想は、企業の設備と雇用についての判断にも反映されている。
 大企業と中堅企業の「生産・営業用設備投資判断」DIは、3月調査の「不足」超2%ポイントから6月調査では「過不足」なしとなったが、先行きは再び「不足」超1%ポイントとなっている。中小企業も3月調査の「過剰」超2%ポイントから6月調査では同4%ポイントに拡大しているが、先行きは再び同1%ポイントに縮小する見通しとなっている。
 このような設備判断を反映し、金融機関を含む全規模全産業の08年度設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、3月調査時点の計画から3.8%ポイント上方修正され、07年度の前年比+2.7%の増加から同+3.6%の増加と、伸び率を高める計画となっている。
 「雇用判断」DIも、全規模全産業で、3月調査の「不足」超9%ポイントから6月調査の「不足」超5%ポイントに不足幅は縮小したものの、先行きは「不足」超7%ポイントと、再び不足基調は強まると見ている。これを反映して、08年度の「新卒採用計画」(金融機関を含む全規模全産業)も前年比+3.6%の増加計画となっている。

【企業の楽観的判断に潜む三つのリスク要因】
 以上のように、6月調査「日銀短観」に現れた企業の判断は、足許を含め、本年度上期の業況は悪化しているものの、需給は大きく崩れず、下期には輸出回復と販売価格引き上げで再び業況は回復すると見ている。本年度の設備投資の増加率は前年度よりもやや高まり、雇用増加も続く計画となっている。
 しかし、このような企業の楽観的な見通しには、いくつかの下振れリスクがある。
 第一は、米国の景気底入れがまだ見えていない現状から考えて、下期の輸出が企業の見通し通り回復しないリスクである。
 第二は、販売価格の引き上げは消費者物価の上昇に反映され、家計の実質所得の減少要因となる。雇用の回復がこれを補って実質所得を増加させればよいが、そうでないと国内需要が企業の見通しよりは下振れするリスクがある。
 第三は、円相場の動向である。6月調査「日銀短観」では、企業は対ドル円相場の前提を3月調査の109.21円から102.74円に修正している。これには下振れ、上振れ両方向のリスクがある。
 今後の景気予測は、これらのリスク要因がどちらに振れるかを慎重に見極めながら判断していく必要があろう。必ずしも、6月調査「日銀短観」の企業見通し通りに推移するとは、限らない。