2008年4月版

鉱工業生産・出荷と雇用に成長減速の気配

【1〜2月の鉱工業生産・出荷の水準は一段低下】
  日本経済の成長減速がはっきりして来た。2月の鉱工業生産と出荷は、前月比、それぞれ−1.2%、−2.6%と前月に続き2か月連続の減少となった。この水準は昨年8月から本年1月までの半年間の水準をはっきり下回っている(図表1参照)。
  3月の生産予測指数は前月比+2.0%の増加となっているが、4月は再び−1.0%の減少となり、2〜4月の3か月間は、それ以前の半年間よりも低い水準で推移する見通しとなった。予測指数を前提とした1〜3月期の平均も、前期比−1.9%と4四半期振りの減少となる。
  業種別に見ると、電子部品・デバイス、一般機械、乗用車など輸出・設備投資関連の落ち込みが目立つ。米国経済の成長減速と日本経済の設備投資鈍化の影響が、出てきたのかも知れない。
  ただ、これらの業種の在庫率が上がっているわけではなく、鉱工業生産全体の在庫率も図表1に見られるように低いので、出荷に見合った生産調整が進んでいると見られ、過剰在庫の積みあがりに伴う在庫調整=減産加速の懸念は、今のところ見られない。

【足許の雇用は減っているが長期的な雇用の積極姿勢は崩れていない】
  鉱工業生産の水準が低下したことに伴い、製造業の雇用者数が前年比減少に転じたため、2月の雇用者数全体も前年比−0.3%と久し振りに前年水準を下回った。3か月間3.8%で横這いに推移していた完全失業率も、2月は3.9%と4か月振りに上昇した(以上図表2参照)。
  もっとも、これは非常用雇用での調整と見られ、常用雇用者の前年比は2月も+2.0%と増加傾向を保っている。3月調査の「日銀短観」でも、「雇用人員判断」DIの不足超幅は、先行きについて製造業で1%ポイント縮小したものの、全体としては縮小していない。長い目で見た企業の積極的雇用姿勢は、崩れていない。


【個人消費は引き続き緩やかに増加、住宅投資は回復の兆し】
 需要動向を見ると、まず個人消費は引き続き緩やかな増加を続けている。2月の前年比は、消費支出(全世帯)が+1.1%、小売販売額が+3.1%といずれも増加した。また1〜3月期の乗用車新車販売台数(季節調整済み)は、年率445,8万台と前期比+1.7%の増加となった。
 背後の可処分所得は、2月に前年比0.0%と前年水準に並んだが、昨年11月から本年1月まで前年を下回っていたことを考えると、徐々に回復していると見られる。雇用者数は上記のように減っているが、マイナスを続けてきた名目賃金の前年比が、1月は+1.6%、2月は+1.3%とプラスに転じているためであろう(以上図表2参照)。
 建築基準法改正に伴う混乱で認可が遅れ、大きく落ち込んでいた新設住宅着工戸数は、2月も前年比−5.0%の減少となったが、前年比減少幅も月を追って縮んでいる(図表2参照)。3大都市や首都圏・中部圏・近畿圏では、2月に至って前年比プラスに転じた。1〜3月期の住宅投資は、大きく落ち込んだ前期比に比べれば、若干のプラスになる可能性がある。

【設備投資に増勢鈍化の気配】
 設備投資と一部輸出の動向を反映する一般資本財出荷は、1月の前年比−2.3%に続き2月も−0.4%と前年水準を下回っている。また、1〜2月の季節調整済み指数の平均は、前期比−1.9%の減少となった10〜12月平均に比して、更に−3.2%の減少となった。
 3月調査「日銀短観」の設備投資動向を見ると、全規模全産業(含む土地投資額)のベースで、07年度上期(実績)は前年比+3.9%の増加、下期(計画)は同+4.6%の増加となっており、伸び率低下の気配は見えない。
 このことから判断すると、1〜2月の一般資本財出荷の減少が1〜3月期の設備投資の減少を示すものかどうかは、3月の計数が出るまで、判断を保留した方がよさそうである。

【GDPベースの純輸出は引き続き増加】
 最後に、日銀推計の実質輸出入によって外需の動向を見ると、2月の前月比は実質輸出が−5.0%減、実質輸入が−3.0%減、実質貿易収支が−9.1%減となったが(図表2参照)、これは1月の輸出急増(前月比+4.6%増)の反動によるところが大きいと見られる。
 1〜2月平均の10〜12月平均比を見ると、実質輸出は+2.5%増、実質輸入は−0.5%減、貿易収支は+10.4%増となっている。3月によほど大きな変化がない限り、1〜3月期もGDPベースの純輸出は、成長に対してプラスの寄与を続けると見られる。

【1〜3月期の成長率は減速の可能性が高い】
 以上のように、1〜2月の鉱工業生産、出荷の落ち込みや、雇用の増勢鈍化は、サブプライム・ローン問題に伴う輸出や設備投資の伸び率低下によるものかどうか、これ迄に出ている統計を見る限りでは判然としない。
 しかし、3月調査「日銀短観」(このHPの<最新コメント>“08年度の景気は減速、輸出は下期に回復の予想、売上高経常利益率は前年比上昇の見込み”H20.4.1参照)の売上高が、前年比増加率でみると、期を追って低下して行くことから判断すると、本年1〜3月期以降08年度上期にかけて、輸出と設備投資を中心に成長減速が起きる蓋然性はかなり高いとみなければならない(図表3参照)。