2007年12月版

緩やかな拡大が続く中で物価がジリジリ上昇し始めた

【日本の物価が前年比で上昇に転じた】
  サブプライム・ローン問題の影響で、株価や長期市場金利は引き続き神経質な動きを繰り返しているが、実体経済では、緩やかな拡大の下で物価がじりじりと上昇し始めた。
  10月の全国消費者物価(総合)と同(除く生鮮食品)は、前年比それぞれ+0.3%、+0.1%の上昇となったが、前月比でみると今年の2月をボトムにジリジリと上昇しており、3〜10月の8か月間に、総合で+1.4%、除く生鮮食品で+1.1%の上昇となっている。
  前年の消費者物価は、本年2月のボトムに向かって下落していくので、前年比で見ると、11月以降少なくとも来年2月迄は上昇率が拡大して行く可能性が高い。物価動向の変化は、誰の目にも明らかとなってこよう(このHPの<最新コメント>“日本の物価が上がり始めた―日銀は金利水準の正常化を急げ”H19.12.2参照)。

【生産、出荷は一高一低のうちに6月以来の緩やかな増加基調を持続】
  直近の景気指標を見て行くと、まず10月の鉱工業生産は前月比+1.6%、出荷は同+2.1%とそれぞれ増加した。生産予測指数によると、11月は同−1.7%の反落となった後、12月は同+3.2%の大幅上昇となる。仮に実績が予測通りになるとすれば、10〜12月期は前期比+1.9%と3期連続の増加となる。実際は、実績が予測を下回るかも知れないが、生産、出荷が緩やかな増加傾向を維持していることは、間違いなさそうである(図表1参照)。
  生産、出荷がこのところ月毎に上下しているのは、主として輸出関連と設備投資関連の一般機械、乗用車、電子部品・デバイスなどの月毎の振れが大きいためである。
  しかし、図表1に明らかなように、在庫率は低水準で安定しており、生産の先行きには今のところ不安はない。本年前半に生産調整が行われた電子部品・デバイスも、堅調な出荷(10月は前年比+19.0%増)に支えられ、在庫率は極めて低い(10月は前年比−6.6%減)。


【雇用増加に支えられ家計消費は増勢を持続】
  次に需要動向をみると、家計消費は緩やかながら着実に増加している。家計統計の消費支出(全世帯)は10月も前年比+0.8%と3か月連続して前年を上回った(図表2参照)。販売統計でも、10月の小売業販売額が前年比+0.8%と、これも3か月連続して前年を上回った。また10月の乗用車新車登録数は、前年比+1.1%と10か月振りに前年を上回った。軽乗用車を除くベースでは、前年比+5.5%の増加である。
  背景にある可処分所得(勤労者世帯)の動きを見ると、7〜8月と前年水準を下回ったあと、9月と10月はいずれも前年比+0.2%と小幅ながら前年を上回った(図表2参照)。
  名目賃金は9月に前年比−0.6%となったあと、10月は前年と同水準にとどまった。7月以前は8か月連続して前年を下回っている。しかし、雇用者数は一貫して前年を上回り、10月も前年比+0.4%となった(以上図表2参照)。この雇用増加が、勤労者所帯の可処分所得を支えていると見られる。


【建築基準法改正に伴う混乱が設備投資に響く恐れ】
  設備投資は、7〜9月の実質GDP統計1次速報値で、前期比+0.3%と3四半期振りのプラスとなったが(図表3参照)、2次速報値の基礎となる「法人企業統計」でも前期比+4.4%の増加となったので、4〜6月期のように2次速報で下方修正されることはないであろう。
  10月の一般資本財出荷は、前月比+5.4%、前年比+2.2%(図表2参照)増加した。10月の水準は7〜9月平均を+0.5%上回っている。
  10〜12月期の設備投資動向で一つ心配なのは、建築基準法改正による建築工事の落ち込みが、住宅投資のみならず、スーパー出店や工場建設など企業の設備投資にも影を落とし始めたことである。新設住宅着工戸数は、図表2に示したように、10月まで4か月連続で前年を大きく下回っているが、建築物着工(民間、非居住用)の前年比も、7月−21.3%、8月−42.4%、9月−54.2%、10月−38.6%と4か月連続で前年を大きく下回った。
  前年比減少幅は、共に10月に少し縮小したが、法改正の内容の周知が遅れて建築基準許可に混乱を起こした国交省の責任は大きい。


【輸出は今のところ順調に拡大、米国経済は減速の気配】
  外需は今のところ順調に拡大を続けている。日本銀行の推計によると、10月の実質輸出は前月比+0.5%、7〜9月平均比+0.4%の増加となった。他方、10月の実質輸入は前月比−0.8%、7〜9月平均比−2.0%の減少となったので、10月の実質貿易収支は前月比+3.0%、7〜9月平均比+5.2%の好転となった(図表2参照)。
  米国景気に対するサブプライム・ローン問題の影響が懸念されているが、10月の米国鉱工業生産は、前月比−0.5%と5か月振りに低下した。消費財や耐久財が落ちており、成長減速の走りかと心配されている。注目はクリスマス商戦の行方に集まっている。


【10〜12月期は設備投資と住宅投資が心配】
  10〜12月期の日本経済の動向は、10月の指標だけでは判断が難しいが、最大の懸念材料は、設備投資と住宅投資に対する建築基準法改正の影響である。既に住宅投資については、7〜9月期に前期比−7.2%下落し、成長率全体を0.3%ポイント引き下げたが、10〜12月期には更に設備投資にも大なり小なり影響が出て来るものと懸念される。
  最近の円高と米国の成長減速の影響も注目されるが、円高については年内の為替予約がほとんど終わっているので、輸出への影響は出ないであろう。米国の成長減速については、遅かれ早かれ、来年の中頃までに出て来る可能性が高い。ただし、その程度は新興国やユーロ圏を中心に世界景気の米国離れ(いわゆるデカップリング)が進んでいるので、あまり大きくないかも知れない。
  この間、10〜12月期の成長を下支えるのは、雇用拡大に伴う家計消費であろうが、その程度はもう少し新しい指標を見て行かないと判断出来ない。