2007年4月版

製造業は足踏みの反面、非製造業の業況・雇用に回復の動き


【米国経済の先行きと日本経済の足許に不安】
   上海発の日米欧同時株安から1か月以上たち、上海の株価は急落前のピークを超えて回復しているが、日本の株価は下落幅の5割前後まで戻ったところでもみ合っている。
   米国経済の先行きに今一つ確信が持てないことと、日本経済の足許が昨年10〜12月期(年率5.5%成長)の反動もあって、ややおぼつかないことが、マクロ経済面の背景であろう。
   米国では、住宅着工件数が前年を30%前後下回っており、サブプライムローン(低所得者向けの高リスク高金利の住宅ローン)の焦げ付きや高水準の住宅在庫から判断して、当分住宅市場の調整と住宅投資の低迷が続きそうである。これに伴う住宅価格の低下が逆資産効果を通じて個人消費に響くリスクが心配されている。
   しかし反面では、賃金・物価の根強い上昇からインフレのリスクも否定出来ず、デフレとインフレの間で連銀の次の動きが利下げか利上げが読めない状態が続いている。それが米国の株価やドル相場のナーバスな動きを呼び、日本の株価もそれに振り回されている感がある。

【生産の緩やかな増勢は崩れていないが1〜3月期は足踏み】
   日本経済の足許を見ると、2月の鉱工業生産は、予測(−1.8%)ほどではなかったものの、−0.2%の下落と2か月連続して低下した。3月と4月の生産予測指数が、夫々+1.5%増、+1.3%増と2か月連続の上昇となっていることから見て、生産の緩やかな上昇基調が崩れたとは思われない(図表1参照)。
   ただし、1〜3月期の生産の平均水準は、6四半期振りに前期比マイナスとなりそうである。このような鉱工業生産の足踏み状態を反映して、3月調査の『日銀短観』では、製造業の「業況判断」DIが、大・中堅・中小の各企業規模で悪化した(このHPの<最新コメント>“07年度は回復の裾野を広げながら緩やかに景気上昇が続く―3月調査『日銀短観』のポイント”H19.4.2参照)。

【非製造業の業況判断と雇用に改善の動き】
   製造業の足踏み状態を補って回復を支えているのは、内需関連の非製造業である。3月調査『日銀短観』によると、大企業非製造業の「業況判断」DIは12月調査に比して悪化しておらず、先行きは好転の予想となっている。これは、小売、運輸、情報サービス、対個人サービスの「業況判断」DIが大きく好転していくためである(上記の『日銀短観』に関する<最新コメント>参照)。
   このような動きは労働統計にも現われている。失業率(図表2参照)や求人倍率はこのところ改善が足踏みしているが、内訳を見ると製造業が悪化し、非製造業が改善する傾向が顕著である。例えば2月の雇用者数は前年比+1.1%の増加にとどまっているが(図表2参照)、これは製造業が−0.7%減、建設業が−1.1%減となったためで、他の業種(非製造業)はいずれも増加している。
   同じ傾向は新規求人数にも窺われる。2月の新規求人数は前年比−4.4%の減少となったが、これには製造業の−7.8%減が大きく響いており、医療福祉(+13.2%増)や教育・学習支援(+10.1%増)は大幅に増えている。

【勤労者の可処分所得と家計消費全体に立ち直りの兆し】
   需要動向を見ても、ここへ来て家計消費に立ち直りの兆しが出てきた。GDPベースの家計消費は、昨年7〜9月期の前期比−1.1%減の反動で10〜12月期は同+1.1%増となったが(図表3参照)、年明け後も消費支出(全世帯)が、1月(前年比+0.6%)、2月(同+1.2%)と2か月連続で前年を上回った。また、背後にある可処分所得(勤労者世帯)も昨年11月から本年2月まで、4か月続いて前年を上回っている(以上図表2参照)。
   3月調査の『日銀短観』でも、既に述べたように、大企業の小売と対個人サービスの「業況判断」DIが、大きく好転して行く形となっている。

【足許1〜3月の設備投資はやや冴えないが先行きは増勢を維持する見込み】
   次に生産頭打ちの製造業に対する需要を見ると、設備投資がやはり足許でやや冴えない動きをしている。
   設備投資と一部輸出の動向を反映している1月と2月の一般資本財出荷を見ると、前年比では+7〜8%増の水準にあるが(図表2参照)、季調済みの1〜2月平均は10〜12月平均比−0.6%減とやや低下している。
   もっとも、3月調査の『日銀短観』によると、金融機関を含む全産業の設備投資計画(ソフトウェア投資を含み、土地投資を除く)は、06年度+8.8%増のあと、07年度も+3.3%増と引続き増勢を辿る計画となっている。特に非製造業(金融機関を含む)は、06年度の+5.9%増のあと07年度も+4.4%増と比較的高い伸びを続ける計画である。
   07年度の計画はまだ期初の計画であり、中小企業では固まっていないので、経済情勢に予想外の下振れが起らない限り、07年度中に上方修正されて行くと見られる。従って、設備投資は、足許1〜3月はやや弱いものの、引続き底固い増勢を辿ると見てよい。

【純輸出は緩やかな増加、住宅投資は先行き頭打ち、公共投資は引続き減少】
   次に、日本銀行が推計した通関ベースの実質輸出入動向を見ると、1〜2月平均の実質輸出は10〜12月平均比+1.9%増、実質輸入は同+1.3%増、差し引き実質貿易収支は同+3.5増となっている。実質GDPベースの純輸出は(図表3参照)、1〜3月期も緩やかな増加となりそうである。
   住宅投資(実質)は、10〜12月期に前期比+2.2%の増加となったが、年明け後、1月と2月の住宅着工戸数が前年を下回っていることから見て(図表2参照)、1〜3月期以降、勢いはやや落ちると見られる。
   なお、公共投資は公共工事請負額が引続き減少を続けており(図表2)、今後も低下を続けると見られる。

【1〜3月期もプラス成長維持の公算大】
   以上、2月迄の諸計数から判断すると、1〜3月期の実質GDPは、鉱工業生産の足踏みに反映されているように、設備投資、住宅投資、公共投資に勢いが欠けるものの、60%を占める家計消費が増加し、純輸出もプラスを維持すると見られるので、10〜12月期の年率+5.5%からは大きく鈍化するものの、そこそこのプラス成長を維持する可能性が高い。
   4月以降の07年度は、3月調査『日銀短観』に現われているように、設備投資と輸出の伸びが低下する反面、家計消費がやや立ち直り、非製造業や中堅・中小企業に回復の裾野を広げながら、全体として緩やかな成長が維持され、増収・増益基調が続きそうである。