07年度は回復の裾野を広げながら緩やかに景気上昇が続く

―3月調査『日銀短観』のポイント―(H19.4.2)

【「業況判断」DIは大企業製造業が想定内の悪化、大企業非製造業は先行き好転】
 07年度の売上げ、収益、設備投資などの計画調査を含む3月調査『日銀短観』が、本日(4/2、月)発表された。
 1〜3月期は鉱工業生産が足踏みし、全国消費者物価(除生鮮食品)の前年比がマイナスになるなど弱い指標が出ていたので、企業が今後の日本経済をどう見ているのかが大いに注目されていた。
 結果をみると、1〜3月の鉱工業生産、出荷などの弱さは、各企業規模の製造業の『業況判断』DIに反映され、「良い」超幅は12月調査に比べて大企業で2%ポイント、中堅・中小企業で4〜5%ポイント悪化した。
 しかし、大企業非製造業の『業況判断』DIは、小売、運輸、情報サービス、対個人サービスなどの内需関連業種の大幅好転を主因に、「良い」超幅は22%ポイントを維持し、先行きは23%ポイントへの好転を予想している。

【07年度の収益率は製造業で低下、非製造業や中堅・中小企業で上昇】
 今回調査から始った07年度計画の調査結果を見ても、景気上昇の主導力が大企業製造業から、非製造業や中堅・中小企業へ裾野を広げ始めたことが見てとれる。
 まず07年度の売上計画を見ると、大企業製造業は06年度の+5.6%から07年度の+1.5%へ増収率は大きく鈍化する。これは輸出が+12.6%から+1.7%へ急激に鈍化すると見られているためである。
 これに対し、非製造業では全企業規模合計で+3.5%から+1.6%への増収鈍化にとどまり、特に中堅企業非製造業では+5.3%から+3.3%へと比較的小幅の増収鈍化にとどまっている。
 中堅・中小企業の回復傾向は、経常利益の見通しにはもっとはっきり出ている。07年度の大企業は、−0.6%の減益計画であるが、中堅企業は前年度の+5.9%とほとんど変わらぬ+5.6%の増益、中小企業は前年度の+2.7%を上回る+7.4%の増益を見込んでいる。
 このため07年度の売上高経常利益率は、大企業が低下するのに対し、中堅企業と中小企業は非製造業を中心に上昇する見込みである(下表参照)。

売上高経常利益率(%)
     06年度   07年度
大企業      5.15     5.04    ↓
中堅企業     3.13     3.21    ↑
 製造業     4.87     4.81    ↓
 非製造業    2.54     2.68    ↑
中小企業     2.71     2.89    ↑
 製造業     3.79     4.05    ↑
 非製造業    2.40     2.55    ↑

【07年度の設備投資は底固く増勢を維持する計画】
 このような収益状況を背景に、07年度の設備投資計画(金融機関を含む全産業、ソフトウェア投資を含み土地投資を除く)は、前年比+3.3%増と前年度(+8.8%増)よりは鈍化するものの、着実な増加が見込まれている。特に非製造業(金融機関を含む)は、+4.4%増と前年度(+5.9%)に近い増加計画となっている。今後上方修正が期待される期初の計画としては、かなり確りしている。
 設備投資の増加計画の背後にある「生産・営業用設備判断」DIを見ると、既に12月調査で全企業規模の製造業と非製造業で「不足」超となっていたが、3月調査では不足超幅は先行き更に拡大して行く。設備投資も輸出関連から内需関連に裾野を広げながら、底固く推移するものと見られる。

【雇用の改善が続き07年度の家計消費にやや明るい兆し】
 景気上昇の裾野が内需関連の非製造業や中堅・中小企業に広がって来たのは、雇用の改善を背景に、少しずつ家計消費が立ち直っているためと見られる。前述のように、小売や対個人サービスの「業況判断」DIが、はっきりと好転していることに現われている。


「業況判断」DI「良い」超(大企業)
                   単位 %ポイント
           12月    3月    先行き
小売          15     13     20
対個人サービス   10     19     26


 企業の「雇用人員判断」DIをみると、非製造業を中心に、「不足」超幅が拡大している(下表参照)。
 また、雇用者数の前年比もじりじりと上昇しており、昨年12月末は2.0%増となった(下表参照)。

「雇用人員判断」DI「不足(−)」超(全企業規模)
                   単位 %ポイント
          12月     3月     先行き        雇用者数(全産業、前年比%)
 製造業      −7     −7      −8       06/3     6     9     12
 非製造業    −13     −14     −16       1.3     1.9     1.8    2.0
 合計       −11     −12     −13

【07年度は輸出の鈍化を内需の立直りが補い増収増益が続く】
 以上のように、今回の3月調査『日銀短観』は、大企業製造業を中心に足許はやや悪化したが予想の範囲内であり、先行き07年度は、増収率、増益率とも鈍化するものの、プラスで推移し、回復の遅れていた非製造業や中堅・中小企業にも好転の動きが広がっている。
 また、大企業製造業の07年度の増収鈍化については、前述の通り輸出の見通しが+1.7%と前年度(+12.6%)から極端に鈍化する見通しが前提となっている。これは調査時点が上海発日米欧同時株安の時期に当たるため、その心理的影響が強く出過ぎているためと見られる。
 同時株安は既に落着いているうえ、07年度もアジアとユーロ圏の順調な経済拡大が見込まれているので、米国経済が軟着陸に失敗してリセッションに陥るという最悪のシナリオにならない限り、このような急激な輸出鈍化は考えられないのではないか。
 従って、07年度は輸出が多少は鈍化しても、内需の拡大に補われ、緩やかな成長が続き、増収増益も続いて高い企業収益率が維持されるというのが、3月調査『日銀短観』のメッセージではないか。