2006年11月版

足許は「いざなぎ」を超えたが、先行きには内外に多くの不確定要因

【いざなぎを超えた今回の景気上昇の特色】
   今回の景気上昇期間は、今月で58か月となり、従来の戦後最長記録である「いざなぎ景気(57か月)」を抜いたとされている。もっとも、図表1にみるように、勢いはまことに弱弱しいもので、途中3四半期の「成長失速」(04/U〜Wのマイナス成長)を挟んでいる。
   また賃金や物価が下落しながらの成長という点でも、特筆に価する。これは、バブル崩壊というショックで日本経済が均衡から大きく下にはずれた後、新古典派的な形で均衡を回復する過程での成長であった(このHPの<講演・論文>欄の「論文」:BANCO“経済回復と格差拡大”(H18.10.19)参照)。
   経済が均衡を保ったまま成長した「いざなぎ景気」とは、全く本質が違う。均衡成長という意味では、今回は、成長失速の後、三つの過剰を解消した05年から始ったと見るべきである。
   参考までに、今回と「いざなぎ景気」を比較すれば、以下の通りである。

                        今回(02/2〜)      いざなぎ景気(65/11〜70/7)
   実質成長率     年率+2.4%         年率+11.5%
   経常利益       年率+10.8%       年率+30.2%
   設備投資       年率+6.5%        年率+24.9%
   個人消費       年率+1.7%         年率+9.6%
   定期給与       通計−0.85%        通計+79.2%
   消費者物価     通計−0.4%         通計+27.4%

【米国の政治・経済面に強弱二つの動き】
   今回の場合は均衡成長が始って今年が2年目であるから、外生的ショックが加わらない限り、まだ緩やかな景気上昇は続くであろう。しかし、その割りに日本の株価が冴えないのは、本年度下期に多くの不確定要因があり、成長の減速が心配されているからである。
   減速を引き起こす下期の外生的ショックとして、最も懸念させているのが、米国の動向である。その米国で、政治と経済に動きがあった。
   政治面では、中間選挙の結果、ブッシュ政権の共和党が、上下両院で民主党に多数を奪われた。この結果を受けて、ブッシュ政権は今後イラク政策を始め様々の政策で民主党と協議せざるを得ないが、政策は停滞を免れないであろう。それは経済にとって良い影響がある筈はない。
   経済面の指標では、8月と9月の雇用者の増加数が大幅に上方修正され、10月までの直近3か月をならすと、月平均15万7千人の増加と、雇用回復の目安とされる15万人増を上回った。10月の失業率も0.2%ポイント低下して4.4%となった。この意外な底固さで、下期から来年にかけての景気後退の懸念は後退している。

【鉱工業生産の上昇はやや頭打ち気味】
   さて、国内の直近の経済指標に目を転じると、9月の鉱工業生産は前月比−0.7%の下落となり、10月と11月の生産予測指数も−0.2%、+0.5%と頭打ち気味である。図表2からも、生産と出荷が9〜11と横這い傾向であることが分る。
   在庫率を見ると、9月は前月比+3.9%の上昇となったが、水準としては、図表2で確認できるように高い訳ではない。鉱工業全体として過剰在庫が溜まり始めた訳ではないので、生産の頭打ちは一時的と見られる。
   ただ、電子部品・デバイス工業の9月の在庫率は、前月比+7.4%、前年比+14.0%と上昇しており、9〜10月の生産は抑制されている。予測指数では、11月に再び生産が増加する計画となっているが、調整がもう少し長引く可能性もある。

【勤労者所得の伸びは低く個人消費は弱い】
   需要面では、このところ個人消費が冴えない。猛暑のお陰で、小売販売額の前年比は、8月+1.1%、9月+0.8%と伸び、7〜9月期全体でも同+0.6%の増加となったが、乗用車新車登録台数の前年比は、マイナスが続いており、7〜9月期全体でも−4.6%減である(以上図表3参照)。
   また家計調査の消費支出(全世帯)も、9月の前年比が名目−5.2%、実質−6.0%と8月(同−3.3%、−4.3%)より更にマイナス幅を広げている。
   勤労者所得を決める雇用と賃金の動向を見ると、図表3に示したように、7〜9月の前年比で雇用者数は+1.2%、名目賃金は+0.1%と、伸びている。しかし、そのプラス幅は図表3に見るように縮小している。これが傾向的な動きなのか、一時的な動きなのかは、もう少し見ないと判断できないが、このような所得動向を背景に、とりあえず7〜9月期の個人消費が弱かったことは確かである。

【設備投資の伸びは比較的緩やか】
   7〜9月期の成長を支えたのは、設備投資と輸出である。
   足許の設備投資動向を示す一般資本財出荷の前年比は、図表3に示したように、9月は+6.9%増、7〜9月期は+6.0%増と引続き高い伸びを示している。ただ、4〜6月期(同+7.7%増)に比べると、増加幅をやや縮小しており、増勢は鈍ったようだ。
   6〜9か月の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)の前年比は、図表3に示したように、4〜6月期に+15.4%と大幅に伸びた反動で、7〜9月期は−1.1%減となった。しかし10〜12月期の見通しでは、再び+2.2%の増加となる。日銀「短観」(9月調査)などの設備投資計画から判断して、設備投資は年度内は着実な伸びを続けると見られる。

【7〜9月期は外需主導で4〜6月期並みの低い成長率か】
   7〜9月期の成長に大きく寄与したのは、輸出である。日本銀行が推計した7〜9月期の実質輸出は、前期比+3.0%の増加となった。これは輸入の伸び(同+0.7%)を大きく上回っており、実質貿易収支の黒字は、同+9.2%の大幅改善となった(図表3参照)。
   来週14日(火)に発表される7〜9月期の実質GDPは、外需の寄与によって引続きプラス成長となる可能性が高い。しかし個人消費が弱く、設備投資の伸びも前期程は高くないため、内需の成長に対する寄与はマイナスになるかも知れない。
   その結果、7〜9月期の成長率は、4〜6月期の年率+1.0%とほとんど変らない程度の低い伸びに留まるのではないか(図表1参照)。